執筆者:硯田 一弘(アディルザス代表取締役)
地球温暖化対策を話し合う第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議=通称COP26がイギリスのグラスゴーで始まりました。同じタイミングで30日31日にイタリアのローマでG20サミットが開催され、両会議を掛け持ちする首脳が多いことも報道されています。COP26は気候変動対策にテーマを絞った国際会議ですが、世界各地の紛争問題や新型コロナ対策も併せ話し合われるG20でも、CO2排出削減などの気候変動対策も重要テーマとして扱われるので、今回はこのテーマにおけるパラグアイの重要性をご説明します。
↑地球の肺、パラグアイの森林
今までもご紹介している通り、パラグアイの面積は40.7万㎢、日本の面積が37.8万㎢ですから、日本の約1.1倍です。森林の面積は2年前の報道で、1994年の27万㎢から2019年に12.9万㎢にまで減少した、とされています。https://www.ultimahora.com/de-27-millones-hectareas-bosques-paraguay-solo-nos-quedan-12-n2846228.html
一方、日本は25万㎢、国土の三分の二が森林ということです。
https://www.maff.go.jp/j/heya/kodomo_sodan/0105/19.html
日本の方が大森林国パラグアイよりも森林面積は広いんですね。二酸化炭素吸収効率の良い針葉樹が中心である一方、広葉樹が季節によって落葉する日本、対して吸収効率は針葉樹には劣るものの、常緑広葉樹の多いパラグアイでは、通年で酸素を供給していることになります。日本の森林は約8万㎢=森林面積の三分の一が国有林で、この比率も非常に多いように思われますが、パラグアイは森林でない都市部でも植栽面積が多く、飛行機でアスンシオン空港に近づいても、街に到着するというイメージを持てないほどです。またアスンシオン市内をクルマで走ると、道の真ん中に大きな樹がドッシリと生えていて当初戸惑うことがありました。今やアスンシオンの顔になったと言えるShopping Galeriaの玄関では、建設時に元々あった立木を活かした設計になっていますが、こうした配慮はパラグアイのあちこちで見られます。
また、土地登記庁が土地の利用についても厳密にデジタル管理を行っているものの、今回のCOP26で森林の維持管理の重要性が問われることになると、益々南米の森林への期待が高まってくると思われます。https://www.catastro.gov.py/visor/?snc=geo
それから、牛のゲップから出ると言われるメタンガス、温暖化の要因の一つと言われていますが、牛の飼料に乳酸菌を混ぜて与えると、腸内環境が改善されて肉質が良くなるだけでなく、ゲップの成分も改善されるとの研究もおこなわれています。http://biobalance.co.jp/ 地球環境を守るために何ができるか?樹木と共棲する国パラグアイでも益々本気の環境対策への取組が期待されます。
今週はサンパウロから畜産の専門家が来られた為、先ず久々にクルマで国境を越えてFoz do Iguaçu空港に迎えに行きました。昨年の3月に新型コロナ感染対策の為に封鎖されたものの、同11月には再開されていたので、既に国境は一年間往来が行われており、コロナ以前と変わりなく、普通にブラジル側に行け、またパラグアイに戻る際も何のチェックもなく再入国できました。ブラジル在住の専門家氏は「折角高いおカネを払ってPCR検査をしてきたのに、使われずに無駄になった」と嘆いていました。
最初に訪問したのが、ブラジル国境に最も近い日本人移住地であるYguazu市のAgroSato社 ここは佐藤ファミリーが経営する農業生産法人で、2,300ヘクタールの農地を耕し、年間27,000トンの大豆、7000トンの飼料用トウモロコシ、4,500トンの小麦、1,500トンのソルガムを扱うだけでなく、一日に250頭の屠畜能力を持つ屠畜場や、月産130㎘の醤油製造工場を持ち、更に自社保有のイグアス湖周辺にリゾート開発も行っている新進気鋭の若い農業者代表格です。イグアス移住地というのはパラグアイ国内に5カ所ある日本人移住地の中でも比較的新しい所ながら、大消費地ブラジルに近いという地の利もあって、人の往来も大変多いところです。次に、南米で唯一成功していると言われる和牛の肥育販売を行っているA&E社のH牧場を訪問し、同社の和牛製品の試食会に参加させて頂きました。
アスンシオン近郊のValenzuelaで牧場を経営する林さん御一家は、製品としての牛肉を提供するレストランも複数経営されており、パラグアイ人に馴染みのなかったサシの入った和牛の普及に努め、コロナ禍で頭数は減らしたものの、現在も200頭以上の和牛を交配から肥育まで一貫して行っています。メディアでも頻繁に取り上げられており、近年ではアスンシオン市内の高級スーパーやレストランでもWagyuという単語を普通に目にするようになってきています。 https://foco.lanacion.com.py/2017/04/04/producto-premium-de-la-ganaderia/
このA&E社の牛を屠畜しているのが、アスンシオンからチャコ地方への玄関口となるPresidente Hayes市で一日900頭の屠畜能力を持つドイツ系農協が運営するFrigorifico Neulandです。frigorificoという単語は、辞書には冷蔵庫とか冷凍工場という訳が出てきますが、南米では屠畜場とか精肉店のことを指す単語です。http://www.neuland.com.py/ この工場もものすごかったし、更に週後半にはパラグアイ有数の牧場Ita Ka’avo農場も訪問しましたが、これらを全部書くと長くなり過ぎるので、来週お伝えすることにします。
先週に引き続いてパラグアイの牧畜の話題です。パラグアイ西部のチャコ大平原で10万ヘクタール=東京23区の1.5倍の面積のIta Ka’avo牧場を経営する前原家の自家用機に乗せて頂いて、驚きの生産現場の様子を三日間で拝見してきました。 https://www.itakaavo.com/
11月4日木曜日アスンシオンの飛行場を午後3時過ぎに出発して、400㎞離れた牧場に到着したのが夕方5時過ぎ。これから盛夏を迎える南半球のパラグアイ、日没は地域によって異なるものの、8時頃までは明るいから、と早速フィードロットと呼ばれる多頭数集団肥育場に案内されました。この一区画だけでも4千頭を超える牛達が飼料で肥育されており、その光景は圧巻。
日没間近の時間帯なのに、気温は41℃で、北海道出身の畜産専門家先生はグロッキー気味。こんな環境で三日間滞在するのは耐えられない!と愚痴っていました。神様がその意を汲んでくださったのか、翌金曜日は朝から曇りで、直射日光は刺さないから良いか、と楽観しつつ、飼料作物を栽培するための12,000ヘクタールの穀物畑を観に出掛けました。そもそも、色んな面積の数字を書いてますけど、10万ヘクタール=1000㎢、ざっくり20㎞x50㎞ってことで、この超広大な敷地の中に複数の農業施設が点在しており、未舗装の道路を四駆のピックアップトラックで疾走しても、場内の拠点から拠点に移動するだけで数時間を要します。
1万6千トンの貯蔵能力を持つ最新鋭のサイロも完成、3万6千頭の肉牛を養うだけでなく、陸路では600㎞近く離れた首都アスンシオン郊外にある、創業事業である採卵鶏100万羽の飼料作りもここで行うとのことで、全てが桁違いの規模感です。http://yemita.com.py/
ここで肥育されている品種は主に3種、もともとインド原産のセブ牛をアメリカで改良したBrahman種、色は白く、暑さに強い血統です。https://www.brahman.ruralpy.com/
前原農場のBrahman牡牛、体重1080㎏はトヨタカローラ並み!
そのBrahmanとイギリス原産のAngus種を交配した真っ黒なBrangus種、肉の味の良さが魅力です。https://www.brangus.org.py/
そして同じくイギリスのヘレフォード州原産のBraford種。茶色の胴体に白い頭が印象的。https://www.braford.com.py/empresa
南米の肉牛としては、ブラジルで多くみられるNelore種も有名ですが、牧草地だけで肥育すると、牧草の栄養価が低く、気温が高いので、成長も遅く、成体になると肉が固くなる傾向があり、味覚重視になってきた最近のパラグアイでは、前原農場に追随してフィードロットと放牧の両建てで、新しい三種の若牛を肥育する牧場が少しづつ増えています。http://www.nelore.com.py/nelore.php
と、品種の説明に夢中になりましたが、実はこの金曜日、昼頃から急激に気温が下がりはじめ、視察の途中で焚火を熾して暖をとり、夜遅くに宿舎に戻った時には寒さで震えて、温かい食べ物や飲み物を美味しく頂きました。そして三日目土曜日の朝、気温はなんと11℃!わずか30時間ちょっとで温度は41℃から30℃下がった格好で、サンパウロから半袖しか持って来なかった専門家先生は震えあがっていました。人間は衣服で気温の変化に対応できますが、一年中同じ格好で屋外に居る牛やその他の動物たち、環境適応能力も素晴らしい!と改めて感じました。
今週開かれた気候変動対策国際会議COP26では化石燃料の使用削減が大きなテーマになりましたが、初夏のチャコで体験した30℃落差の気候変動、対策の必要性を改めて痛感した次第です。世界レベルでの環境対策は、各国の事情が共同宣言の実践を難しくしていますが、国境や人種の壁を乗り越えて、次世代の為に努力することが大切です。
東京オリンピック同様、世界的なコロナ禍で開催が一年遅れたドバイ万博が190の国と地域の参加を得て、10月1日から来年3月末までの会期で開催されています。大河ドラマ「青天を衝け」で紹介された徳川幕府による日本のパリ万博初参加は1867年、パラグアイは少し遅れて1889年に同じパリで開催された万博に参加したのが最初で、ラテンアメリカ諸国の中でも最も早い参加国の一つです。
今までも何度かパラグアイのドバイ万博出展に好意的な記事が出ていたのですが、今日は一転して展示の内容がお粗末すぎて恥ずかしいという記事がLa Nacion電子版のトップを飾りました。“Sabor amargo” y “vergüenza” sintieron compatriotas que visitaron stand paraguayo en Dubái「苦味しか感じない・恥ずかしい」ドバイ万博の展示を訪れたパラグアイ同胞達の辛辣な声、観光庁の熱意が全く感じられず、展示をみてもパラグアイに投資しようという意欲が湧かない、という厳しい批評です。ただ、同じ日の同じ電子版では原住民アートの展示が素晴らしい!と絶賛する記事も。
でも、この巨大壁画を手掛けたのは、パラグアイで最も有名な芸術家Koki Ruiz氏。原住民ではなく、大豆やトウモロコシ等の粒やカボチャ等の野菜を張り付けて作る巨大な壁画作品が有名で、ローマ法王フランシスコが2015年にパラグアイを訪問された際の祭壇の飾りもKokiが制作。言わばパラグアイの岡本太郎とも言える巨匠です。
地味な報道のドバイの万博に関しては、日本では閣僚の参加すら予定されていないと、野党の批判を浴びていますが、次の2025年には大阪で開催される予定であることは周知のとおり。しかし、万博に巨費を投じて何を得ることになるのか?についての議論はあまり進められていない気もします。
来年度概算要求で112兆円という過去最大の予算編成となっているものの、中身がバラマキな上、回収の見通しも甘いという厳しい指摘があります。112兆円という金額は国民一人当たり換算100万円というレベルですが、日本では国家予算も国債発行残高も990兆円(国民一人当たり900万円)となるものの、国民の間で大きな話題になっていないように感じます。今月に入って円安も進んでおり、日本の国力が衰退しているという記事も多く目にするようになりました。
世界のビッグマック価格を比較しても、日本は物価も賃金も安い国って位置付けに。世界最低賃金のベネズエラがマック指数は一位!というのは、為替レートのマジックですが、Japan as #1と言われた80年代の日本の栄華は過去のもの。 https://ecodb.net/ranking/bigmac_index.html
来年度予算の金額が大き過ぎて、万博の費用なんて無視されるレベルの様にも視られますが、貴重な税金が使われている以上、日本でもパラグアイの万博出展批判を見習って、費用対効果の検証をシッカリ行って貰いたいと思います。平均年齢の高さでは世界最高レベルとなった日本、若いパラグアイの様な国々と組んで、苦み走った大人の味わいを見せつけて、経済の回復を実現して欲しいです。
パラグアイのAcevedo外務大臣が日本を訪問し、秋篠宮殿下や林外務大臣と面談されました。
一方、南アフリカで新型変異株が見つかったことで、コロナ対策は新たな対応を求められるようになってきたような感じです。ニュースでも食品需給バランスの不均衡化や円安による価格の上昇が問題視されるようになってきました。世界における日本の相対的優位性はこの30年の間に大きく後退して、これから益々難しい局面を迎えることになりそうです。
特に食糧の確保は最も重要なテーマである筈ですが、日本では永年に亘ってカネさえ出せば食べ物は買える、という認識が浸透して、安定的な食糧源の確保という視点が欠落、結果として札束の量でも買い上げる量でも中国に負けて、必要なモノが適切な価格で調達出来にくくなっています。今こそ大食糧生産国であるパラグアイとの関係強化を図るべき時です。
今回のアセベド大臣訪日の結果について、外務省はパラグアイを地政学的に重要なパートナーとされているものの、最も重要な食糧生産大国としての位置付けが欠落しているように思われます。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press6_000990.html
パラグアイが日本とは桁違いの規模で農業生産を行っていることはこれまでも何度もお伝えしてきましたが、今週もパラグアイの重要な農業法人のトップと面談してきました。以前も映像でご紹介した会社ですが、改めて映像をご覧ください。映像のタイトル「Trociuk Establecimiento Agroindustrial “El Desafio”」は、農業法人Trociuk社の施設”挑戦の地”の紹介という意味です。
Trociuk社は南部のFramという旧日本人移住地で事業を起こした東欧系移民による会社ですが、Framの隣地にあるLa Pazという日本人移住地と同じエリアにあって、日本との関係も重要視しています。
この会社の社長は約20年前に日本の田植えを現場で視て、雨の日でも作業が出来る素晴らしい仕組み、ということで、日本式の水田移植式のコメ作りを行っており、その作付面積は1800ヘクタール(長方形にすると、6km x 3km)。新品の田植え機輸出を制限していた日本から持ち込めなかった結果、全て韓国製の機械を使っています。しかも栽培しているのは長粒のインディカ米、これを田植え方式で栽培しているのは、世界でも珍しい現場です。
以前ご紹介した乾田直播のVilla Oliva Rice社の9000ヘクタールと比べると五分の一のサイズですが、この全面積を田植え方式で行っているというのは驚異的なことです。因みに、大面積なコメ栽培で有名な秋田県の大潟村の総作付面積も9000ヘクタールですが、こちらは平均15ヘクタールの水田で作業する約600戸農家が集合体として成立している大規模栽培です。尚、経営農家の平均栽培面積でも、日本は平均3ヘクタール。(100m x 300m)
Trociuk社では、コメの他に900ヘクタールの柑橘栽培、1100ヘクタールの植林管理も行っており、更に驚くべきことは、総面積4800ヘクタールにもなる所有農地の用水を、3拠点405ヘクタールの面積となる人造の溜め池で賄っていること。多くの大規模コメ栽培がパラグアイ川の水を吸い上げて引水しているのに比べ、河川の水利権に左右されない農業が可能になっているという点で特筆に値します。
この会社は本社拠点に製粉工場や飼料工場・ジュース工場を持つほか、河川の畔に自社の港湾を造成し、肥料工場も自社で持つなど、農業の入り口から出口まで完璧に備えているパラグアイでも稀有な大型農業法人です。
ここまで立派な施設を持つ会社ですが、幹部と会話すると更なる成長の為に日本の食品加工技術を導入したいという希望を持っており、その期待に沿うことが出来れば、日本とパラグアイとの間で益々強固な関係が構築できると考えます。
(新年から「南米現地最新レポート」という名称に変更いたします)