連載エッセイ134:硯田一弘 「南米現地レポート」その28 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載エッセイ134:硯田一弘 「南米現地レポート」その28


連載エッセイ131

 南米現地レポート その28

執筆者:硯田 一弘(アディルザス代表取締役)

12月6日発

2021年も12月、本格的な夏の到来と共に、マンゴの季節がやってきました。

↑去年のマンゴ

本来なら10月あたりから市場に出始め、師走の声を聴く今頃は500gを越すような立派なマンゴが沢山出回る筈なのですが、何故か大振りのモノが見当たりません。今週伺った知り合いの農家の軒先でなっていたアップルマンゴ(Tommy Atkins)を頂いてきたのですが、重さは300gを少し上回る程度。拙宅の隣にある立派なマンゴの樹も、今年は実の付きが悪く、不思議に思っていたところ、「マンゴに異変」(¿Qué le está pasando a los mangos?)という記事を見つけました。
https://www.abc.com.py/nacionales/2021/12/02/que-les-esta-pasando-a-los-mangos/

今年はずっと雨が少なくて、川の水位が非常に低かったことはこれまでもお伝えしてきましたが、南米ではマンゴは多くの国で街路樹としてもポピュラーな樹種で乾燥耐性も高く、雨が少ないことが原因ではないと思っていましたが、記事によるとミバエの発生がマンゴ不作の元凶だったようです。昨年はアフリカから中東に掛けての広い地域でサバクトビバッタが農業に大きな被害をもたらしましたが、今夏のパラグアイマンゴに被害をもたらしているplagaであるミバエ、今後の対策等も語られ始めました。

https://www.abc.com.py/nacionales/2021/12/03/mangos-que-hacemos-con-los-frutos-enfermos/ この記事では、ありふれた果物であるマンゴを加工して世界に売り出そうという研究者のメッセージも映像付きで紹介されています。

今回の新型コロナや、鳥インフルエンザ・豚熱・牛の口蹄疫など、色々な感染症や害虫などの発生があるたびに食の安全は脅かされていますが、こうしたリスクを回避することが今の人類に求められており、高温高圧で滅菌するレトルトや、低温低圧で乾燥して長期保存を可能にするフリーズドライといった日本でポピュラーな食品加工技術こそが世界を救うと信じています。

マンゴを煮詰めたチャツネという食品が日本ではカレーのお供として知られていますが、マンゴでビールを作る取り組みも紹介されています。
https://www.abc.com.py/nacionales/lanzan-cerveza-de-mango-1791509.html

大豆・トウモロコシ・小麦・コメ・牛肉といった「原料」の生産と販売を中心にしてきたパラグアイですが、加工品として付加価値化する工夫も始まっています。

ところで、食に関しては、La Nacion紙で南部アルゼンチンとの国境の街、エンカルナシオン市で「物販と飲食業が雇用不足の要因」という記事を載せて、政府も支援に乗り出していると報じています。 https://www.lanacion.com.py/negocios/2021/12/02/ventas-y-gastronomia-sectores-con-mas-vacancias-laborales-en-encarnacion/

Ultima Hola紙では「夏に向けて飲食が雇用契約を増やしていることが明るい兆し」と書いています。どちらが実態を表しているのか、まだわかりませんが、新たに発見されたオミクロン株の影響が、今後軽微なもので留まることも願ってやみません。

今週木曜日は2021年12月02日、欧米風の日月年でも和風の年月日でも右から読んでも左から読んでも同じになる回文カレンダーの日でした。これはスペイン語ではpalíndromoと言って、言葉の学習でも使われます。https://www.20minutos.es/noticia/4885988/0/se-verlas-al-reves-palabras-y-frases-que-se-leen-igual-al-reves/?autoref=true 

日本語なら「竹やぶ焼けた」が有名ですが、旱魃で密林や草原が焼ける被害が生じないことも祈ります。

12月13日発

6日月曜日にアスンシオンを出発して、サンパウロ・ドーハを経由して8日夕刻成田着で一時帰国しています。先月末発生したオミクロン株の所為で、隔離期間が再延期され、浜松の自宅で二週間の隔離生活を開始しました。成田空港に着くと、先ず航空機の中で普段より少し長く機体検疫に時間がかかり、降機してからは人気の少ない成田空港の中でパイプ椅子が沢山並べられたエリアで予め機内で配られた誓約書や健康状態報告書等の書類の確認が行われ、唾液による感染確認検査を経て、降機から3時間以上を経て、漸くイミグレや税関検査を終えて外にでることが出来ました。今回は空港内で相当多くの検疫関係の担当者のお世話になりましたが、その半数以上が外国籍の若者達で、良い意味で随分国際化が進んだと頼もしく感じました。

浜松の自宅で作業をしていると、いきなりポルシェ浜松から「タイカンを体感しよう」という宣伝メッセージが入りました。居場所を自動的に検知して、その場所に最適化した宣伝が送られてくるGoogleの位置情報管理は驚きです。それにしても、何でポルシェの宣伝なんかが来たのか?恐らく先週末にアスンシオンのショッピングセンターで開かれていた自動車ショーでこの写真=タイカンを撮ったことが理由と思われます。

この写真、Paseo la Galeriaというパラグアイの新名所でCADAM=Camara Distribuciones de Automotores y Maquinarias=自動車・機械流通会議所が毎年開催しているパラグアイのビッグイベント。
https://www.cadam.com.py/ 
   
幕張メッセほどの規模ではないものの、広大なショッピングセンターの一階駐車場スペースを全て使って世界中の自動車会社の製品が展示され、なかなか見どころのある催しものです。
https://www.abc.com.py/brandlab/2021/11/29/la-gran-feria-de-vehiculos-0km/

丁度日本から出張で来られた方を御案内したところ、日本では見られない韓国車が幅を利かせている様子や、中国・インドの新興勢力の最新車種の立派さに加え、ポルシェのタイカンを筆頭にアウディや中国の電動自動車も多数展示されている様子に感心をお持ち頂き、携帯のカマラ、もとい日本語ではカメラで珍しいクルマの写真を撮られていました。

一方、バイデン大統領が民主主義サミットを開催して世界の民主主義を護ろうとしている最中に、中米のニカラグアが台湾と断交して中国と国交を結んだというニュースが流れました。https://www3.nhk.or.jp/news/html/20211210/k10013382781000.html

ジャマイカとインドの血を引くカマラ・ハリス(Kamala Harris)副大統領の人気が振るわないという記事も最近目にしますが、米国にとって極めて重要な中南米でこれ以上中国による支配が進まないようにするためには、南米大陸で唯一の台湾との外交関係を維持するパラグアイの重要性は益々高まっていると言えますし、今こそカマラさんにも頑張って欲しいと期待したいものです。

因みに、帰りの飛行機の中で観た映画「In the Heights」というニューヨークの中南米移民を主人公にしたミュージカル映画、秀逸でした。

劇場での公開は終わっている様ですが、カマラさんをモデルにしたようなキャラクターも登場します。ラ米に御興味のある方は是非ご覧ください。

12月20日発

2020年の2月以来久々に帰国し、地元浜松での隔離生活が一週間を過ぎました。この間、毎朝一番で行動監視アプリMySOSで健康状態の報告を行い、昼前後に一方的にかかってくるビデオ報告に対応、更にランダムに位置情報を送信するという日課をこなしています。伝染病から日本を護る防疫体制ですが、日本人と外国人を区別している現状には疑問の声も上がっていますし、成田空港で多くの外国人スタッフが水際対策に駆り出されていた姿をみると、これで良いのか?という疑問もわきます。

自分自身の隔離場所は田舎なので、近所を散歩しても濃厚接触どころか誰かと道ですれ違うこともないので、ノンビリと過ごすことが出来ており、有難い限りです。聞こえてくるのは航空自衛隊浜松基地から飛んでくる飛行機のエンジン音。父が基地に勤務していたので、子供の頃から慣れ親しんだ音ですが、今飛んでいるのは川崎重工業製のT-4中等練習機。ベネズエラで見慣れたスホーイ30の猛烈な爆音と比べると、随分静かな印象です。流石日本製。

パラグアイにはジェット戦闘機は配備されていませんが、拙宅の屋上で毎朝運動していると、時折輸送機からパラシュートの降下訓練を行っている様子が見えて頼もしく感じます。浜松では他にもAWAX哨戒機等も飛んでいて、飛行機ファンには魅力的な環境です。浜松基地には一般の人が見学できる広報館エアパークという施設があって、航空自衛隊の装備や活動について知ることができます。
https://www.mod.go.jp/asdf/airpark/

浜松基地の位置づけは、パイロットを養成する飛行学校のようなところなのです。パラグアイからの長旅の供に以前ブックオフで買った百田尚樹著「永遠のゼロ」という本を読みました。若者が戦争の道具として即席の訓練を受けた後に特攻で使い捨てにされた史実を掘り下げた内容です。 浜松で訓練を受けたパイロット達には戦争ではなく平和の為に空を飛び続けて欲しいと切望させられます。

一方、ニュースでは来年度予算の防衛費が大幅に増額されて5.4兆円になると報じられています。
https://www.jiji.com/jc/article?k=2021121600880&g=pol

上の棒グラフは軍事支出の多い上位15カ国を示したもので、南米ではブラジルがランクインしています。
https://www.nippon.com/ja/japan-data/h01019/ 

自衛隊員の息子として育った訳ですから、自衛隊の存在は当然肯定しますし、今後も存続することを望みます。しかし、防衛予算の多くが兵器の購入、特に外国からの輸入に充てられる現状には賛同しかねます。兵器を増やさずに平和を維持するにはどうしたら良いでしょうか?日本には自衛隊の他にも世界に誇る海外協力隊という組織があります。 
https://www.jica.go.jp/volunteer/index.html

国際協力機構JICAが派遣する老若男女で構成されるJapan Overseas Cooperation Volunteers=JOCVという組織で、日本語では自衛隊と同じ「隊」ですが、英語ではvolunteersという組織っぽくない名称になっています。このボランティア達が世界中の途上国に派遣され、派遣先の教育・保険・インフラ整備等さまざまな分野で現地の人達と一緒に問題解決を図るという素晴らしいプログラムであり、こうした制度を持つ国は世界中どの国にも見当たりません。

JICAの海外協力隊は、日本が世界に誇る素晴らしい制度であり、南米各国でも高く評価されていますし、隊員として世界を知った人達の多くは、日本に帰った後も赴任先だった国との良好な関係を保つことを意識しています。これこそが、本当の平和維持活動のあるべき姿だと思うのですが、如何でしょうか?

この素晴らしい制度を維持する支出は現状では年間僅か100億円、防衛予算の500分の1以下。100億円で1000人の派遣が可能とすると、防衛装備費を数パーセント削減して協力隊予算に回せば、容易に万単位の人材派遣が可能になり、日本の国際貢献度を大幅に高めることが可能になり、戦争抑止力強化に繋がると思います。しかし、実態は国際貢献を目指す若者の数が減っているそうです。
https://www.tokyo-np.co.jp/article/18737

先週と今週のニューズウィーク日本版にタレントの櫻井翔氏の戦争ルポが掲載されていて、戦争という行為が如何に無為なものか、シッカリと伝えてくれています。
https://www.newsweekjapan.jp/magazine/360747.php

今年は真珠湾攻撃から80周年ということで、テレビや新聞でも戦争を振り返る多くの記事を報道にしました。戦争だけは絶対に避けるべきとすると、兵器の調達も減らして、平和維持のための人材を海外に送り込むことに費やすべきだと思います。で、最後にパラグアイから届いたクリスマスディナーの宣伝。クリスマスイブと大晦日に特別ディナーと宿泊を、というホテルの企画ですが、イブの事をNochebuenaと言います。noche=夜、buena=良い、ということで、少し早いですが平和で良いクリスマスと新年をお迎えください。