『美女と野獣』 マイケル・タウシグ - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『美女と野獣』 マイケル・タウシグ


 著者は1940年オーストラリア生まれ、現在米国のコロンビア大学人類学部教授。医学、人類学を修めコロンビア南西部などのアマゾン地域でもっぱらフィールドワークをする文化人類学者。長年の調査研究にもとづき多数の著書があるが、主な邦訳書では『模倣と他者性』(水声社、2018年)、『ヴァルター・ベンヤミンの墓標』(同、2016年)などがある。
 コロンビアにおけるポスト植民地主義的な状況の残っているうちに1964年に始まった内戦にともなう死と暴力、恐怖という政治状況を背景に、コロンビアでの美的なものとしての美容整形の諸相 -豊胸、ヒップアップ、フェイスリフト、脂肪吸引、ボトックス注射、処女膜再生等に身を委ねる女たちと、魔術的なものとして暴力に手を染める男たち=野獣が実は対立的なものではなく、実際には分離不可能なほど入り混じっているのだという人類学的な指摘を、19の掌編で描いている。それらが織りなす自然の支配を、フィクションやノンフィクションと重なり合う記録の形式を用いておとぎ話調で表現している。

〔桜井 敏浩〕

(上村敦志・田口陽子・浜田明範訳 水声社 2021年9月 285頁 3,200円+税 ISBN978-4-8010-0595-2 )
〔『ラテンアメリカ時報』 2021/22年冬号(No.1437)より〕