スペインの征服記、植民地時代の記録は多くの資料があるが、被征服者であるメキシコ先住民たちの悲劇、苦難の実態を明らかにする視点からの史書はあまり残されていない。 2021年は時あたかもメキシコがスペインに征服されて500年、独立から200周年の年に当たる。著者は、各地に残るアシエンダ(農園)を訪ね、植民地時代の300年の間、過酷な徴税を課し、土地を取り上げ、借金漬けにしたエンコミエンダ制、鉱山・農園での使役を追認したレパルティミエント制などに因って虐げられ、移動を阻止され、厳格な格差社会の中で生きてきた彼ら先住民の征服された後の生活の実態を、メキシコに通いつめた写真家のまなざしで描いている。
メキシコが独立した後の100年間もスペイン征服者がクリオーリョの資産家、農園主に代わっただけで、生活の辛酸、社会的地位は何ら変わらず、1910年に起きた革命で農地解放は実現したものの分配された小区画の農地では家族は養えず、その後は土地の分散を防ぐために長男以外は家を出て職を求めて都会に出て行かざるを得なくなっている。
本書は先住民の今なお続く辛酸にみちた歴史の実態を、コルテスの征服から始まった統治体制、裁判記録、スペイン統治者側の公務職の違法な譲渡、不当な土地所有権をめぐり「インディオ」たちが起こした裁判記録などの実例を丹念に調べ、現地を訪れてその舞台を実見することによって明らかにしている。著者にはこれまでメキシコ教会美術に惹かれて35年余各地を取材してきた成果の『メキシコ歴史紀行 コンキスタ・征服の十字路』(明石書店 2005年)、『「銀街道」紀行 -メキシコ植民地散歩』(未知谷 2010年 https://latin-america.jp/archives/5810 )や『国王の道 -メキシコ植民地散歩「魂の征服」街道を行く』(同 2015年 https://latin-america.jp/archives/18691 )の一連の著書がある。
〔桜井 敏浩〕
(明石書店 2021年8月 328頁 2,800円+税 ISBN978-4-7503-5244-2)
〔『ラテンアメリカ時報』 2021/22年冬号(No.1437)より〕