子ども時代をアンティル諸島で過ごし、クレオール語とフランス語を身につけている著者が、アンティルの島々の多くの人たちから聞き取り、フランス語に纏めた34編に挿絵62点が付された口承民話集。初版は1957年に刊行され以来、フランス語圏で広く読み継がれている。先住民のカリブ族の土地に侵入してきた欧州から来た征服者たち、アフリカから連れてこられた奴隷たち、クーリーや商店を営もうと移住してきた中国人、船乗りや海賊たちなど多くの来訪者がアンティル諸島にやって来て、サトウキビ栽培を主たる産業とし、やがてフランスの植民地、今は海外県となっている歴史を反映して、グリムやペローの童話など欧州各地や米国南部、さらには中国由来とも思える似た話も多く、人間たち、ウサギなどの動物たちが活躍し、そして神様や悪魔たちの胸躍る民話は「言語と文化を越えて広い世界へ流通する」(訳者あとがき)物語として楽しめる。
〔桜井 敏浩〕
(松井裕史訳 作品社 2021年11月 288頁 2,600円+税 ISBN978-4- 86182-876-8 )
〔『ラテンアメリカ時報』 2021/22年冬号(No.1437)より〕