連載エッセイ138:硯田一弘 「南米現地最新レポート」その29 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載エッセイ138:硯田一弘 「南米現地最新レポート」その29


連載エッセイ135:硯田一弘

「南米現地最新レポート」その29

執筆者:硯田一弘(アディルザス代表取締役)

「1月2日発」

あけましておめでとうございます。新型コロナの影響を受けた正月も二回目となりましたが、今回は久々に日本での新年を迎えています。今年の日本の正月は全国的な寒波によって日本海側を中心に大雪に見舞われていますが、パラグアイでは40℃を超える猛暑の夏となっているようです。

日本では三が日には御節料理を食べますが、南米では大晦日31日に一年を締めくくる夕餉を祝う風習の方が一般的。パラグアイでの大晦日料理特集が電子版に掲載されていますので、話のタネにご覧ください。

https://www.lanacion.com.py/pais/2021/12/31/cena-de-fin-de-ano-sin-prohibiciones-pero-con-mucho-cuidado-al-elegir-y-manipular-los-alimentos/

https://www.abc.com.py/nacionales/2021/12/31/alegrias-de-ano-nuevo-cena-y-brindis-apetecibles/

一年の計は元旦に在り、と言いますが、今日ご紹介するのはスペイン語では目標を意味するmeta。去年はFacebookが社名変更でMetaとなりましたが、このメタは英語で超越したことを意味するmeta-と宇宙を意味するUniverseとの合成語だそうです。メタバースについては以下の説明をご参照ください。
https://cloud-ace.jp/column/detail227/
一方、ベネズエラの新聞El Universal電子版の元旦トップ記事がHemos alcanzado la meta del 90% de vacunación contra Covid-19(新型コロナのワクチン接種、目標とした90%を達成)というもの。

https://www.eluniversal.com/politica/115434/ejecutivo-hemos-alcanzado-la-meta-del-90-de-vacunacion-contra-covid19

日本ですら80%に達していないのに、ベネズエラが90%超とは!凄いですね。アルゼンチンも83.8%、中国が87.2%で世界一。こうなると、如何にこういう発表データが仮想世界っぽいか、良く解ります。トランプ氏の大統領時代にフェイクニュースというのが注目されましたが、メタバース=仮想空間がさらに進展すると言われる2022年、世界の動きに更に注目する一方、偽情報には十分気を付けてください。

「1月9日発」

2022年最初の一週間もあっという間に過ぎました。日本は例年にない厳しい寒さとなっている上に、ここにきてオミクロン株の感染急拡大でお正月気分で上向いていた景況感にも寒風が吹きこんでいる印象です。

その寒さの中、今週はカナダ居住で一時帰国中の次男の運転免許の更新と、浜松に住む母のマイナンバーカードの申請に出掛けました。次男が大学在学中の夏休みに浜松で日本の免許を取ったのは2018年の8月、誕生日が9月なので最初の免許の有効期限は僅か2年しかなく、2020年の8月から10月の間に更新しなかった=コロナ鎖国で一時帰国できず出来なかった為に、期限切れとなり、今回は居住証明やら戸籍抄本を携えて1月4日の朝一で運転免許センターに出向いたものの、持って行ったパスポートに前回出国のスタンプが押してないということでケチが付き(パスポートは昨年更新したばかりなので出国印は期限切れした古いパスポートに押してあった)、警察の専門家動員の結果、新しいパスポートは免許失効前にカナダの領事館で発行されたものであり、これが不在の証明となってなんとか免許更新の手続きは受理されました。でも実際の書類受け付けは同日の午後からで、更に失効者用の講習を受ける必要があり、更にカナダで取った免許が引っ越しで書き換えられていた為に取得日数が少ないとみなされ、また初心者マーク条件を付与される羽目に。結局免許を手にしたのは夕方5時近く、丸一日の大仕事でした。

次に浜松在住の母のマイナンバーカード申請、今月中なら浜松市民に市から特別なボーナスがあるというキャンペーンもあったので、この際作っておこう、と市役所に出向いたのです。こちらの手続きは免許の更新に比べれば簡素だったものの、申請からカードが出来上がるまで1カ月を要し、尚且つ出来た通知がハガキで届くので、それを持って身分証明となる書類を二種類持って改めて市役所に出頭すべしとのお達し。現物のマイナカードを作っているのは行政機関でなく外注先の会社なのだそうで、こんなに時間がかかるとは恐れ入りました。今日の中日新聞にはマイナ関連の過去(2014-16年)の支出額が1656億円だったことが判明したとのニュースが出ています。

で、たまたま今日のパラグアイの新聞Ultima Horaの電子版に、今月からパラグアイの身分証明書=cédulaにQRコードが導入されるという記事が掲載されていました。

https://www.ultimahora.com/nuevo-formato-la-cedula-identidad-codigo-qr-n2980459.html

今までも何度もご紹介してきた通り、パラグアイに限らず南米では身分証明書の番号は一旦発行されると一生同じ番号を使う仕組みなので、運転免許証も社会保険もパスポートも同じ番号を使って個人情報に紐付けされます。

表側は国民番号・氏名・生年月日や生まれた場所、有効期限と本人の顔写真が記載されていて、裏側はいままで意味不明のバーコードの様なものが使われていて、出国の際や運転中の検問等でこのコードを読み込んで照会作業が行われていました。

これが今月15日からQRコードに切り替わって、一層便利になるという触れ込みです。QRコードはもともと日本のデンソーがトヨタ自動車のかんばん方式の効率アップの為に開発したもので、それをオープンソースにしたことで今や世界中で使われていることは皆さんもご存知の通り。

特にコロナ禍になって、レストランのメニューや役所の申請、お店の支払い等で紙に触れないで情報が得られるということで、パラグアイでも爆発的に普及が進みました。その日本生まれのQRコードがパラグアイの身分証明書にも使われることになり、現行の証明書から新型に切り替える費用はGs.8,500=約150円。マイナカードの発行は無料のようですから、この点では日本の制度も評価できると言えますが、行政手続きの複雑さ、もう少し南米の様に簡素化されると良いのではないでしょうか。因みにQRコードのQRとはQuick Responceの略。日本の行政サービス、もっとQuick Responceになってくれることを期待します。

「1月16日発」

寒い冬の日が続く日本とは反対に、南半球では今は盛夏、パラグアイでも猛烈な暑さになっているようです。40℃を越す日が続くと発生するのが野火です。

今日の新聞各紙の電子版では、この暑さで野火の延焼が続き、消防士たちが鎮火に向けて懸命の消火活動を行っているとトップ記事で報じています。”Se recrudecen incendios y vientos fuertes dificultan los trabajos de los bomberos”(野火が拡大し強風が加わって消火活動が困難に)

また、新型コロナの感染再拡大も懸念事項として各紙が大きく取り上げています。日本でもオミクロン株の急拡大が毎日のトップニュースとなっています。これ以上事態が悪化しないよう、世界のウィズコロナ政策が定着することに期待します。今回ほぼ二年ぶりに帰国し、久々に色々な方々にお目にかかる機会を得ましたが、明日パラグアイに戻ります。大寒波から酷暑の環境に変わりますが、悪化した状況も人間の努力でまた改善できます。気候変動対策だけでなく、食糧危機への対応も重要になります。引き続き皆様との連絡を密にして、南米と日本の距離感を縮める努力をしますので宜しくお願いします!

「1月23日発」

一か月以上に亘った一時帰国もあっという間に過ぎ、水曜日の朝のフライトでアスンシオンに戻ってきました。大寒の日本から約48時間で到着したパラグアイは酷暑の気候で、午前10時の気温は既に36℃を超えていて、この日の午後は41℃、その後も暑い日が続き、これからも暫く同じ高温の日が続く予報です。

日本を出発するにあたり、16日の夕方西武新宿駅地下のクリニックでPCR検査を16,000円で受け、17日午前中にメールで陰性証明を受け取り、夜21時半発のフライトに乗るために東京駅発の成田空港行バスに乗ったのは15時頃。そもそも、ホテル発のバスが便利で快適、という理由から品川のホテルに宿泊したのですが、各ホテル直行のリムジンバスは運航休止中で、品川駅から利用できるJRの成田エクスプレスも早朝と夜便以外は運休中で、夕方5時台にならないと動かないので諦めて東京駅発の京成バスに乗ったのです。で成田空港第二ターミナルに着いたのですが、空港は閑散としていて人気は少なく、大国の空の玄関というイメージとはかけ離れた裏さびれた状態。

事前に宅急便で送ってあった預入荷物を受け取り、搭乗時間の5時間以上前なのにオープンしていたカタール航空のカウンターでチェックインを行うと、先ずブラジルとパラグアイへの入国手続きを行うように指示されました。

ブラジル国家衛生監督庁Anvisaの登録サイト
パラグアイ保健省の登録サイト

それぞれのサイトでの登録は、事前に行って証明書をPDFで取り込んであればカウンターでの手間は省けます。

これらの手続きを終えて、荷物の重量チェックですが、毎度一時帰国の際には食料品を中心に色んなモノを持って帰るので超過気味。しかも、今回は持ち込み手荷物の重量まで測られて減量を求められたので、カウンター脇の床に荷物を開けて中身の入替を行ない、漸くチェックインを終えました。

それにしても持ち込み手荷物の重量を7kgまで下げるのは至難の業です。裕福な中東のエアラインですらこんなセコイ条件を付けてきていますので、コロナで経営状態が悪化した航空会社はどこも超過料金の徴収に動くでしょうから皆さまご注意を!家内のと二人分でシッカリ2万円以上の超過料金を請求されました。で、出国手続きを終えて出発エリアに入ったものの、開いているラウンジはJAL利用者専用のところだけ。普段One World系列にお世話にならない我々夫婦は、カード付帯のPriority Passが使えるラウンジに期待しましたが、ゴーストタウンと化した成田第二ターミナルでは通常の売店すら営業しておらず、ラウンジで休むなんてことは妄想に過ぎないことを思い知らされました。

出発ゲートの椅子に座って待つこととし、手許に残った小銭を消費しようと使える場所を探したものの、飲料やスナックの自販機が動いていただけで、本当に何もない空港でした。自販機も国内で使える電子マネー対応のモノはなく、コインと千円札のみ対応。乗った飛行機は当然乗客は少なく、複数の席を占拠してゆったり伸び伸びと13時間のフライトを楽しめました。

で、到着した経由地ドーハの空港は大勢の旅行客が闊歩していて、ゴーストタウン成田とは大違い。ラウンジの数も内容も充実していて、カードラウンジも混雑していたものの、ここでも3時間半の乗り換え時間を快適に過ごすことが出来ました。ドーハからサンパウロは14時間超のフライトですが、成田線同様の空き具合で、ほぼ同じ席を複数占拠して飛んできました。

サンパウロの空の玄関Guarulhos空港の第三ターミナルはいつもの活気には程遠いものの、レストランや物販店の多くは普通に営業していて、活気のない成田とは随分違う印象でした。アスンシオン便への乗り継ぎに14時間以上あるために空港内ホテルで休んで、これまたゆったり支度ができましたが、寒い日本から暑いブラジル・パラグアイで部屋の空調が暖房から冷房に切り替わっていて、ここで肌感覚が狂った為に、最後のフライトとなるアスンシオン行LATAM機の中で、少し寒気を憶え、自宅にたどり着いた時に熱っぽさを感じたので検温すると平熱より少し高い37℃。お昼ご飯を済ませた後昼寝をしたら、38℃まで上がっていたので、もう少し寝たら体温は平熱に戻っていて、36.5℃を表示。その後木曜から金曜に至るまで熱のぶり返しは無かったのですが、金曜日に出向いた保健省指定の検査所でのPCR検査の結果が今朝出て、なんと陽性=positivoと表示されました。

ここで改めて感心したのは、パラグアイのシステムでは身分証明書番号で全てのデータが紐付けされていて、出発前に別の検査所で受けた検査結果もシッカリ反映されていたこと。しかも、身分証明書だけでは個人情報にアクセスできないように案件毎に独自のコードも割り振られ、検査を受けた本人だけが結果を知ることが出来る仕組みになっていること。日本のPCR検査結果もパスポート番号には紐付けされているとは思いますが、将来に亘って活用できるような履歴管理がされているかどうか、不明です。また、検査の費用も今回は保健省の施設で行ったので無料。出発前は自宅近所の民間クリニックで受けてGs.400,000=約7千円を徴収されましたが、日本の16,000円の半額以下。日本でも自治体などが無料の検査所を増やしているそうですが、それも自治体が税金から賄う訳で、そもそも料金体系が高過ぎるようにも感じます。医療費に関してもシッカリと費用対効果のチェック機能が働いているのか疑問に感じました。

とはいえ、世界中でコロナ対策の為に大勢の人達が頑張っていてくれる御蔭で我々も安心して旅行が出来る訳ですから、そうした努力に対してはポジティブに感謝の気持ちを表したいと思います。

また、成田空港の惨状に象徴される過度な鎖国を是とする日本のコロナ対策ですが、もっと前向きに海外交流の再開を勧めてくれるよう、方針を転換してくれることを願います。

「1月30日発」

コロナ陽性による隔離生活(aislamiento)も二週間目となりました。

と言っても、具体的に症状が出たのは帰国当日19日の発熱と、以後数日のクシャミ・鼻水・咳・痰で、先週は咳が残ったのみで既に一週間過ごしていますので、幸いにも個人的には極めて軽微な症状で済んだと言えます。

パラグアイの感染状況については日々報道されていますが、水曜日のLa Nacion紙の記事が現在流行中のオミクロン株感染と過去の最悪のケースとを比較して、感染力は高くても亡くなる程の重篤患者数は過去に比し多くないことを伝えています。

日本では感染者数の拡大や病床逼迫リスクのニュースばかりが報じられていますが、不安を煽るだけでなく、正確にどのような症状が多く如何に対処すべきか?についてももっと報じるべきと思います。日本のコロナ対策は「自動車事故を起こすと死亡するケースがある。だから自動車事故を避けるためにクルマの運転も止めよう!」と言ってるように聞こえます。クルマの運転を止めると、経済も止まってしまい、経済活動もストップし、おカネも回らなくなる。正しい対処をすることで、感染防止をシッカリ行いながら経済活動への影響を最小に食い止める広報を心掛けて欲しいものです。ただ、パラグアイでも亡くなった方々の8割が他の併発疾病を持っている方々とのこと。”El 80% de fallecidos por Covid tenían algún tipo de comorbilidad”既往症をお持ちの方は本当に御注意ください。

また、日本でもガソリン価格の高騰によって政府が補助金制度を発動したことが話題になっていますが、パラグアイでもガソリン価格は上昇していて、オクタン価によって6900ガラニ=約115円から8400ガラニ=約140円に値上がりしており、ディーゼルも7900ガラニ=約130円となっています。当然物流費用も上がるので、諸物価の上昇に繋がることが懸念されています。

ところで、月曜日のLa Nacion紙電子版の一面記事には驚くべき記事が掲載されていました。曰く「犯罪カレンダー」。毎日なんらかの犯罪が発生していて、ひとつひとつ違った手口の犯罪を東京オリンピックで有名になったピクトグラムで表現するもの。

良く見ると1月2日と5日が抜けているので、カレンダーとしては不出来なものですが、作者は犯罪発生の多さを読者に知らしめ、行政に取り締まりの強化を求めるメッセージとして掲載されたものですので、それぞれのコマを読んでみてください。今週は40℃を超える日が続きました。雨不足による大豆等の農産物の不作とも言われています。そうなると、当然国の経済状態も悪化しますので、失業率も増え、結果的に犯罪も増えてしまいます。中南米諸国の中では治安の良いパラグアイですが、犯罪増加は不景気の合併症のようなもの。

温暖化による高温・雨不足やコロナ禍による諸物価の高騰など難問山積ですが、先週僕と同じタイミングでコロナに感染したパラグアイのベニテス大統領も今週火曜日に業務に復帰、コロンビアの海岸リゾート都市カルタヘナで開催された第三回PROSUR(南米統合首脳会合)にオンラインで出席し、今後の議長職をコロンビアのドゥケ大統領から引き継ぎました。

https://www.adndigital.com.py/abdo-benitez-asume-liderazgo-de-prosur/

PROSURという枠組みは3年前の3月にチリ・コロンビアの提唱で発足したもので、南米域内の活性化を目標として掲げています。

https://www.jetro.go.jp/biznews/2019/03/ed550f1b585b947b.html

https://toyokeizai.net/articles/-/276399

ブラジルがクシャミをすると南米域内全体が風邪をひくと言われたこともありますが、南米の先進国と言われるチリ主導の下、健康優良児と目されるコロンビア・ペルー・パラグアイが、年中肺炎の重篤な状態にあるベネズエラ(PROSURには未参加)やアルゼンチン等も含めて地域の活性化を進め、疾患から立ち直るキッカケを作ってくれることを願います。

以    上