執筆者:硯田一弘(アディルザス代表取締役)
国際協力機構=JICAが実施する海外協力隊は軍事力に依らず日本の国際競争力を高める手段であるという主張を年末にお伝えしたところ、大勢の方々から賛同のお言葉を頂きました。その協力隊の新規派遣員として、神奈川県茅ケ崎市を拠点とする陶芸家がアスンシオン近郊の陶芸の町アレグアに着任されました。アレグアと隣接するイタグアやウパカライ湖周辺地域は昔から良い陶土を産出するようで、古くから焼き物の里として地元の人気を集めてきましたが、多くはこの写真のような原始的な壷や塑像をお土産として露店販売しているもので、鑑賞の対象となるものではありえませんでした。
ここにJICAの指導員が投入されたことで、現地に登り窯が作られ、次第に市場性や芸術性の高い作品が作られるようになってきています。登り窯の作品を紹介する記事は下記の通りです。
https://alacarta.com.py/notas/aregua-y-su-artesania-con-el-horno-noborigama
先週現地に着任した今泉氏はこれまでにエジプトやコロンビアでも陶芸指導を行い、リトアニアの日本大使館で公邸料理人を務めた「現代の魯山人」とも称される御仁、単に陶器を作るだけでなく、それに載せる料理にまで想いが馳せる作家ですから、パラグアイにおける日本のステータスを今以上に昇華させて貰えるとの期待が持たれます。
https://www.instagram.com/shippokudo/?hl=ja
今日ご紹介するもうひとつはパラグアイでは珍しい先端技術に関する話題。現在中東のドバイで開催されている国際博覧会に出展されているパラグアイのパビリオンで「水のアルパ」が好評とのこと。
アルパというのは、竪琴ハープの南米版で、北のベネズエラから南のアルゼンチンまで広い範囲で親しまれる地元の楽器です。普通は36本の弦を指で弾いて音を出す訳ですが、この万博アルパはなんと、8筋の水に触れると音が出る仕組みのようで、詳しい仕様についての説明はされていませんが、廃棄物で作る楽器で有名なカテウラ楽団のコンセプトも取り入れた水の楽団H2Oがドバイの会場を練り歩く様子も紹介されています。
それと、今週末からアスンシオン近郊のヨット&ゴルフクラブでテニスの世界ジュニア選手権Asunción Bowlが開催されています。日本からも5人の若手選手が参加、今日はこれから応援に行ってきます!
今週はアスンシオン近郊のヨット&ゴルフクラブでテニスのジュニア世界大会が開催され、日本からも選手5人、コーチ4人が来パされて連日熱戦を繰り広げました。この大会は毎年今の時期に開催されるもので、かつて錦織圭選手もジュニア時代に参加したという国際認知度も高いイベントです。戦績はともかく、この大会に参加した16歳の松岡隼君は、この大会の最中に世界ランキング99位になったとのこと、日本の若者の素晴らしさを目の当たりにできました。おめでとうございます!
男子4選手は残念ながら火曜日までに敗退し、ブラジルのポルトアレグレに転戦、唯一勝ち残った女子選手、豪州オープンから転戦して来た虫賀愛央選手は台湾選手とのダブルスで生き残りを賭けて頑張りましたが決勝には進めず、木曜日はアスンシオン市内観光をされることになりました。そこでおススメした行き先の一つがパラグアイ大統領府、Palacio de Lopezでした。
普段であれば上の写真の様な立派な外観で、パラグアイを代表する名建築なのですが、1867年=明治維新の前年に建てられた本体は老朽化が進んだために2020年11月から改修工事が始まり、現在は東半分が足場で覆われていて本来の美しい姿は見られません。
しかも昨年末にアスンシオンを襲った暴風雨によって覆いの一部が崩れて悲惨な状態になってしまいました。年が明けて工事は再開されています。この歴史的建造物の改修工事にかかる工期は30カ月(=2年半)、予算はGs.38.885.225.810(約565万ドル≒6億6千万円)、当初MOPC(建設省)が見込んだ予算より2割も安く出来るのだそうです。
築150年を超える老建築に改修の手を加えて更に長持ちさせようという意識の高さは、近年何でもスクラップにしたがる日本でも見習ってほしい部分。法隆寺や東大寺大仏殿といった古い建物が残っている一方で、耐震性の見直しとの名目で、昭和の建物がどんどん壊されていったのは残念なことです。今朝のNHKはオリンピック中継が出来ない海外向けに、解体現場で活躍する重機の番組を流していました。
https://news.mynavi.jp/article/20211013-2136370/
パラグアイ大統領府の改修工事には、通常1㎥2400㎏のコンクリート素材を、1700㎏の軽量コンクリートで賄われたとのこと、数々の最新工法で化粧直し工事が進められています。コンクリートの原料となるセメントは国内でも約100万トンが生産されているものの、建設ラッシュが続く現状では需要に供給が追い付かないで輸入品を増やしても品薄の状態が続いていましたが、カルテス前大統領の企業グループが推進するセメント会社CECONの工場が建設されており、これが今年半ばに完成すると一挙に100万トンの供給が追加されて、国民一人当たりのセメント消費量もチリやアルゼンチンに比肩するレベルになることが予想されています。
コンクリートの消費量は経済活性のバロメーターでもありますが、森林資源にも恵まれたパラグアイは、今後木造建築の分野でも成長が見込まれます。また、高層構造物の建設はまだまだ続いていますので、建築分野での日本企業の進出も期待されます。
ところで、今日の言葉hormigón=コンクリートはセメント(石灰石を高温で焼成して粉末にした粉体)と砂や砂利といった骨材に水を加えて固める素材のことですが、スペイン語のオルミゴンやポルトガル語のベトンという言い方は慣れないと覚えにくい単語です。またセメントCementもスペイン語ではCementoで発音も同じですが、ポルトガル語になるとCimentoシメントとなるので御注意を。日本語的に似た語感のセメンチsementeというポルトガル語は種・精子のこと。ブラジル人も多いパラグアイで会話の中で出てくるとややこしいです。
今週はパラグアイにとって不名誉な報道がありました。Corruption Perceptions Index=腐敗認識指数の発表で、ベネズエラを筆頭に中南米諸国が汚職指数の上位を占めたというもの。
ベネズエラ 14 ハイチ 20 ニカラグア 20 ホンジュラス 23 グアテマラ 25
パラグアイ 30 ドミニカ共和国 30 ボリビア 30 メキシコ 31 エルサルバドル 34
パナマ 36 エクアドル 36 ペルー 36 ブラジル 38 アルゼンチン 38
コロンビア 39 ガイアナ 39 スリナム 39 リニダード・トバゴ 41 ジャマイカ 44
キューバ 46
https://insightcrime.org/news/what-are-the-most-corrupt-countries-in-latin-america/
パラグアイは隣国ボリビアと共にスコア30で堂々の6位!恥ずかしい!しかし、ブラジルやアルゼンチンがパラグアイより8ポイントも多く、キューバが46ってありえないでしょう。
https://www.dw.com/en/transparency-international-corruption-index-2021/a-60535533
清潔度の上位12位が香港ってのも???日本は清潔スコア73で18位ってことだけど、本当にそうなのか疑問符だらけです。https://www.cnn.co.jp/usa/35182630.html
まあ、パラグアイの新聞では毎日のように政府高官の汚職疑惑についての記事が一面を飾っていて、今週もFiscalía=検察とかContraloría=会計検査とかいった汚職疑惑の単語のオンパレードで、汚職指数が高いと判断されることに異議を唱えるのは難しいかもしれません。
北京オリンピックも過去最多18個のメダルを獲得してめでたく閉幕したようですが、この二週間は日本ではスケートのドーピング問題やらロシアの隣国侵攻といったニュースとコロナ感染といった話題ばかりが報じられていたように思われ、それしかニュースが無かったなら、それはそれで良かったのでしょうが、年末にしきりと問題提起された国債発行残高の膨張や https://www.jiji.com/jc/article?k=2021122400373&g=eco。
一人当たりGDPの地盤沈下https://toyokeizai.net/articles/-/477731についての掘り下げや、経済における競争力回復への課題が論じられることが少なかったように感じます。
また、円安が進んで物価も上昇していますが、食品の値上げに関しては企業努力の御蔭で今でも世界で一番食品の値段が安い状態を維持しています。しかも、円安とは言っても、2015年6月には125円まで下がったこともあったので、当時と比べればマシ、これから円高に転じて物価も沈静化するという楽観的な視方もあります。
しかし、国債残高のGDP比では、汚職ナンバーワンのベネズエラと比肩する世界第三位となっているのが日本の実態です。
財務省も判り易い図表を使って説明に務め、このままでは破綻するリスクを説いていますが、報道の量が不十分と思われます。 https://www.mof.go.jp/zaisei/current-situation/situation-comparison.html
腐敗指数が低い=汚職が多いと指摘されたパラグアイですが、ベネズエラ・ペルー・ブラジルでも暮らした実感からすると、パラグアイの指数が不当に貶められているように感じられます。因みに、国債残高のGDP比率では、破綻の常連アルゼンチンですら世界31位の103%、パラグアイは158位の37%。
客観性に乏しい腐敗ランキングをみて優越感に浸るよりも、実際の姿を現地で視て理解することが重要です。コロナによる移動制限も緩和されてきていますので、この機会に是非南米にも足を運んでみてください。
ロシアによるウクライナ侵攻が始まり、米国は直ちに制裁を開始、先ずロシアのドル口座を凍結しました。
この措置によってパラグアイは大きな影響を受けそうです。
2019年のパラグアイの総輸出額は約78憶ドル≒9000億円、そのうちロシア向けの輸出額は6億ドル≒700億円で、総輸出額の8%を占める重要な輸出相手、即ち外貨の獲得相手です。そのロシアが始めた戦争行為の結果、各国が制裁を開始するとパラグアイの外貨収入に大きな影響が出ることが懸念されます。因みにパラグアイの輸出相手1位はブラジル32%、2位アルゼンチン22%、3位チリ8%でロシアは第4位。日本向け輸出は3200万ドル=僅か0.4%で、インド2.2%・韓国1.1%・台湾1%・ベトナム1%・タイ0.7%にも劣後しています。
パラグアイからロシアに輸出される品目の半分は牛肉、ロシアはパラグアイにとってチリに次ぐ重要な牛肉の輸出先となっています。
https://www.lanacion.com.py/negocios/2022/02/25/sector-carnico-esta-en-offside-por-sistema-de-pagos-swift-suspendido-a-rusia/
そして二番目に大きな産品は大豆。大豆はロシアにとっても重要な食糧源ですが、ロシアが輸入する7億ドル分の大豆の半分がブラジル産、三分の一がパラグアイ産で、牛肉ではロシアにとっての総額の4割近くを占めるパラグアイが最大のサプライヤーなのです。
以前、アスンシオン港の視察に行った時、驚いたのはロシアに牛肉を輸出する冷凍コンテナの帰り荷として、袋に詰めた肥料用の尿素が輸入されていることでした。これ、どういうことか?説明します。
黒海沿岸で採掘され欧州各国にもパイプラインで輸出されている天然ガス、今回の制裁でも逆に欧州への供給が止まると懸念されています。この天然ガスを加工すると、代替エネルギーとしても注目されているアンモニアが出来ます。
アンモニアは常態では気体ですが、通常は低温処理して液体として流通します。そのアンモニアを常温固体として扱いやすくしたものが尿素です。尿素はアンモニアと二酸化炭素を反応させて固形化したものですが、我々肥料屋の常識では、数万トン規模の大型バラもの船で運びます。ロシアはパラグアイから冷凍牛肉を輸入しても、冷凍コンテナで返す荷物が無いために、単価の安い尿素を袋詰めにして、パラグアイに送り返しているのです。高い運賃は往路の貨物である牛肉に転嫁・吸収され、帰り荷の運賃は極めて安く設定されている訳です。
↑冷凍装置が付いていて、港の電源につなぐ冷凍コンテナ
パラグアイが輸入している化学肥料約2億ドルの1割がロシア産の尿素という図式ですから、農業の生産にも影響を及ぼすことが懸念されます。
ところで、以前から何度もご紹介している南米大陸横断道路=Ruta Bioceanicaの部分開通式典が今週金曜日にルートの中心に近いLoma Plata市で40℃を超える猛暑の中執り行われました。マリオアブド大統領も臨席した式典はテレビでも生中継され、大統領スピーチの中では、駐パ日本大使に「アジアの主要市場に近づく新しいルートを大いに活用して欲しい」という熱いメッセージが送られました。
https://www.lanacion.com.py/politica/2022/02/25/abdo-inaugura-primer-tramo-de-la-ruta-bioceanica/
とは言え、横断道路はまだ完全開通した訳ではなく、ブラジル国境から今回式典のあったLoma Plataまでの半分区間が出来たにすぎません。このルートのアルゼンチン国境側へは道路はありますが、まだ殆ど未舗装。ブラジル側も橋が架かっていないので輸送ルートとしては未完成です。ただ、それでも竣工式典をやってしまうのは「南米あるある」。
かつてベネズエラに住んでいた時、バルセロナという街に毎月通っていました。この街の空港、2009年に改修工事が完成した式典をチャベス大統領が大々的に執り行いましたが、実際には工事は式典で見える部分を終わっただけで大半は中途半端なまま、筆者がペルーに転勤する2012年まで放ったらかしでした。今はどうなっているのかな?
チャベス政権では、やりかけの工事現場で完成記念式典をやってマスコミに政策の成功をPRするのは常套手段でしたが、これはブラジルのルーラ→ジルマ政権でも同じで、同様に毎月の様に出向いていたクリチバの空港も2014年のサッカーワールドカップを目指して改修工事が行われていましたが、2016年にパラグアイに転勤になるまで未完成のままでした。
ロシアへの経済制裁で行き場を失う農産物を、新たなルートで新たな市場に売り込めれば良いですが、今回のロシア・ウクライナ問題は工事の完成を待たずとも、出来るだけ早く平和に収束して欲しいと願わずにはいられません。
それと、ブラジル・パラグアイ・アルゼンチン・チリを跨ぐ大陸横断道路も他国の中途半端なインフラ工事の様にならないよう、引き続き頑張って欲しいものです。少なくともパラグアイでは、今日まで着実に進捗していますから。