執筆者:相川知子(あいかわともこ、在ブエノスアイレス)
2022年1月4日創刊された邦字新聞ブラジル日報で「おてもやんからブエノスアイレスのマリア様」という移住物語を書かせてもらっています。この物語の主人公であるカ子(かね)さんは1932年に熊本からアルゼンチンに写真結婚で渡りアルゼンチンでその100年以上の生涯を終えた女性です。ご本人から見聞きした話に加えて、アルゼンチンの歴史と日系社会の歴史を読み物風に致しました。
折しも、ブラジル最後の邦字新聞ニッケイ新聞が廃刊になるという時期、その編集長の深沢正雪さんとメールのやりとりをして、移住者の特に女性の物語を書いているとお話ししたのがきっかけです。それなら、新しく創刊するブラジル日報の連載小説にしましょう、ということになり、毎回1000字から1200字の新聞小説に生まれ変わりました。さらに写真も当時を彩るものにしましょう、ということになりました。そのため章立ての校正を少し直し、一方で多くの人にまずは試読していただきました。そのうち、日本の小説家の水村美苗さんにも読んでいただきコメントを受け取りさらに応援までしてもらえました。
水村さんとは「母の遺産」を2011年毎日新聞で連載され、その後本として出版されたものをアルゼンチンの出版社Adriana Hidalgo Editora からスペイン語で出版するにあたり、翻訳する人間がいるということで、やはり当地の邦字新聞らぷらた報知に相談され、こちらに御鉢が回ってきました。そしてLa herencia de la Madreという題でスペイン語に翻訳しました。
https://www.adrianahidalgo.com/libro/la-herencia-de-la-madre-minae-mizumura/
これがきっかけで交流が続いています。そして実は水村さんの現在月刊新潮に書かれている連載小説「大使とその妻」でいずれブラジルが出てくるので、ニッケイ新聞WEB版の読者であったことが判明したのです。
特別寄稿=相川知子さんと「ニッケイ新聞」と私=小説家 水村美苗
https://www.brasilnippou.com/2022/220129-31colonia.html
このような経緯なのですが、やはり私が常に興味を持っていたのは、現地日系社会、移住者の方々がなぜ日本から一番遠い国、地球の反対側のアルゼンチンへ渡ったのか、どんな思いがあったのか、どんなことを考えながら生活をしていたのか、ということでした。
私は単にスペイン語とラテンアメリカが大好きで、1991年からブエノスアイレスに住んでおります。最初にJICAの海外開発青年で在亜日本語教育連合会での活動では、アルゼンチンの24校の日系子弟のための日本語学校でアルゼンチン南北そしてブエノスアイレス州の日本語学校を訪問し、日本人会の方々と出会わせていただきました。三年間のその後定住し、通訳やテレビの撮影コーディネーターの仕事柄同じく日系社会のいろいろな方々と接触し、またご家族がどんどん日本語から疎遠になるので仕事以上にいろいろなお話しをお聞きし、あいづちを打ってきました。「事実は小説よりも奇なり」と言われることを地で行っている人々は移住者の中に多いのですが、中でも女性の人生の話はあまり日の目を見ることは少ないと思いますし、衣食住の話が少ないと思いました。
主人公のカ子(かね)さんを通じてアルゼンチンに生きた人々の生活の様子、気持ちを伝えることができたら本望でございます。その方々も近頃はどんどん他界され、その娘さんの世代も同様で、こんなお話しも理解する人が少なくなるのでしょうが、そういう人々が長年築いてくださった信用のおかげで、突然日本から来ても現地の人達は抵抗なく、ああ日本人ならと扉を開いてくれ、諸手をあげて歓迎してくれているのだと思います。
日本とは遠くはなれた国で、親戚もいない、そして誰も頼ることがなくお金にも困ったらどうしたか、皆が味わったことではないかなと思いますが、やはりいつも道を踏み外さないでいられるのはこのような草の根交流を行った多くの先人日本人移住者がいらっしゃって培ってきたものを汚したり破るわけにはいかないと、踏みとどまらせてくれるからに違いありません。
一章一章ブラジル日報のフェイスブックにも掲載されますが、そのときにやはりブラジルでもこうだったとコメントが入っています。・ブラジル日報のフェイスブック
舞台はアルゼンチンですし、アルゼンチンの日系社会の歴史ではありますが、ブラジルをはじめラテンアメリカ中でそんなこと私達にもあったね、と思い出し、また自分たちの歴史を振り返り、おばあちゃん、おじいちゃんはどうだったか振り返りそれぞれのストーリーをそれぞれの家庭で記録してもらえるきっかけになったら最高に幸せです。
本来ならスペイン語で書くべきなのですが、やはり日本人の話はまずは日本語であることが必要であると思いました。また、こちら生まれで日本語が上手な人も日本の文章は堅苦しくまた難しい言葉があり、カ子(かね)さんのおしゃべりで進む話は理解しやすく当地の説明で背景が分かり読みやすいと毎回楽しみにしてくださる、アルゼンチン生まれの日系二世、三世だけではなくブラジルやパラグアイのみなさんがいます。そして日本の方で南米移住者の親戚がいる人は、おばさんに聞いていた通りなどと再確認してくださるようです。もちろん、逆輸入で日本に定住した当地生まれの二世、三世の皆さんも読んでくださっているそうです。
なお、一話だけでも独立して読んでも大丈夫な構成になっております。また Yahooニュースにも掲載させてもらっています。ご興味のある方は、下記をクリック下さい。
《中南米》聞き書き小説掲載=おてもやんからブエノスアイレスのマリア様 相川知子 第10回(ブラジル日報) Yahooニュース
この物語の主人公のカ子(かねさん)初めてお会いしたごろ94歳でした。
おてもやんからブエノスアイレスのマリア様 ブラジル日報にて1月29日から連載中 – 主観的アルゼンチン/ブエノスアイレス事情
http://blog.livedoor.jp/tomokoar/archives/52249816.html
続きは こちらの日系社会ニュースからhttps://www.brasilnippou.com/colonia
毎日日本時間午前8時頃、火曜日から土曜日更新されます。もしくは PDF版を購入されるとふりがな付きです。
執筆者の略歴:
広島出身 1991年から3年間JICA海外開発青年としてアルゼンチンの首都ブエノスアイレスの在亜日本語教育連合会(教連)で活動後、定住。スペイン語通訳、翻訳、教師、食品ロジスティックアドバイザー、日本のテレビ取材時の撮影コーディネーター、ライターなどでアルゼンチンをはじめラテンアメリカの人々の素顔を日本に紹介することに務める。ひろしま平和大使。1998年よりインターネットで情報発信。
現在は主観的アルゼンチン・ブエノスアイレス事情ブログにて
http://blog.livedoor.jp/tomokoar/