連載レポート81:桜井悌司「世界の腐敗認識指数2021年版」 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載レポート81:桜井悌司「世界の腐敗認識指数2021年版」


連載レポート82

世界腐敗認識指数(2021年版)

執筆者:桜井悌司(ラテンアメリカ協会常務理事)

Transparency International社(TI)は、2022年1月25日に恒例の「世界の腐敗認識指数(Corruption Perceptions Index)を発表した。TI社はドイツに本部を置く非政府組織で1993年5月に設立された。設立の目的は、世界の公的部門の腐敗・汚職状況を公表し、犯罪を防止することにある。この調査は、1995年以降毎年公表されており、公的部門における腐敗の状況を0から100で表している。0は腐敗度が最も大きく、100は非常に透明度があることを意味する。対象は、世界の180の国・地域である。

政府・政治家・公務員などの公的分野での腐敗度を世界銀行、世界経済フォーラム、コンサルテイング会社、シンクタンク等13機関が調査した12~13種類の調査報告に基づいてスコア化し評価している。具体的には、①報道の自由度、②ビジネス環境ランキング、③公共・インフラサービス規制、④小売・流通規制、⑤インターネット自由度、⑥士業・専門サービス規制、⑦製品市場規制、⑧不動産登記手続き(日数)、⑨契約履行手続き、⑩関税率、⑪法治度、⑫政治的安定度、⑬法規制の健全性が評価基準になっている。単位はポイントで、100に近くなるほどクリーンとなっている。全対象国の平均は、今年も43点で全体の傾向は悪化している。

1.2021年版の概要

表1は、2021年の世界とラテンアメリカ・カリブ諸国の上位国政府の腐敗認識指数スコアと国別順位を掲載している。

1位から10位までのベスト10をみると北欧諸国を中心とした欧州諸国が8カ国、ニュージーランドとシンガポールが入っている。ちなみに日本は18位(73点)、米国は27位(67点)、台湾は25位(68点)、韓国は32位(62点)、中国は65位(45点)となっている。

ラテンアメリカ諸国を見ると、世界ランキングの21位のウルグアイ(73点)、27位チリ(67点)、29位のバルバドス(65点)、30位のバハマ(64点)、38位のセインイト・ヴィンセント&G(59点)、39位のコスタリカ(58点)、43位のサンタルシァ(56点)、45位のドミニカ(55点)、52位のグレナダ(53点)、63位のキューバ(46点)、65位のサント・トメ&P(45点)、70位のジャマイカ(44点)となっている。以上の12カ国が世界の腐敗指数の平均である43点を上回っている国である。これを見ると12カ国の内8カ国がカリブ海の小国であり、スペイン語圏の国は、ウルグアイ、チリ、コスタリカ、キューバの4カ国に過ぎないことが理解できる。

表2によってワースト10をみてみよう。ベネズエラ(177位、14点)、ハイチ(164位、20点)、ニカラグア(164位、20点)、ホンジュラス(167位、23点)、グアテマラ(150位、25点)、パラグアイ(128位、30点)、ドミニカ共和国(128位、30点)、ボリビア(128位、30点)、メキシコ(124位、31点)、エルサルバドル(115位、34点)となっている。

ちなみに、南米の人口大国のブラジルとアルゼンチンは、96位、38点で、コロンビアは、87位、39点となっている。

表1 21年度の世界ランキングとラテンアメリカ・カリブ諸国の腐敗度ランキングと得点

世界順位 国名 得点 世界順位 国名、LAC順位 得点
1位 デンマーク 88 21位 ①  ウルグアイ 73
1位 フィンランド 88 27位 ②  チリ 67
1位 ニュージーランド 88 29位 ③  バルバドス 65
4位 ノルウエー 85 30位 ④  バハマ 64
4位 シンガポール 85 38位 ⑤  セイント・V・G 59
4位 スエーデン 85 39位 ⑥  コスタリカ 58
7位 スイス 84 43位 ⑦  サンタルチア 56
8位 オランダ 82 45位 ⑧  ドミニカ 55
9位 ルクセンブルグ 81 52位 ⑨  グレナダ 53
10位 ドイツ 80 64位 ⑽ キューバ 46
11位 英国 78 65位 ⑪  サントトメ&P 45
13位 カナダ 74 70位 ⑫  ジャマイカ 44
18位 オーストラリア 73 82位 ⑬  トリニダードT 41
18位 日本 73 87位 ⑭  コロンビア 39
22位 フランス 71 87位 ⑭  ガイアナ 39
25位 台湾 68 87位 ⑭  スリナム 39
27位 米国 67 96位 ⑰アルゼンチン 38
32位 韓国 62 96位 ⑰ブラジル 38
35位 スペイン 61      
65位 中国 45      

 

2.過去3カ年の順位と得点の推移

表2は、ラテンアメリカ・カリブ諸国の2019年から2021年の3カ年にわたるランキングと得点を示している。3カ年を比較し、下記のように分類してみた。
① 順位を上げ、得点も上げた国(順位を最も上げた国順)

ブラジル、コロンビア、ドミニカ共和国、パラグアイ、メキシコ、コスタリカ、サンタルシァ、ジャマイカ、ハイチ、トリニダード・トバゴ、バルバドスの11カ国

② 順位を上げたが、得点は変わらず
ドミニカ、セイント・ヴィンセント&Gの2カ国

③ 順位は同じだが、得点が上昇した国
ウルグアイ

④順位を下げ、得点も下げた国(順位を最も下げた国順)
アルゼンチン、ホンジュラス、エクアドル、ボリビア、ベネズエラ、グアテマラ、キューバ、スリナム、ニカラグア、ガイアナの10カ国

⑤順位を下げたが、得点は変わらず(順位を最も下げた国順)
ペルー、パナマ、エルサルバドル、チリ、バハマ、グレナダの6カ国

過去3カ年で見ると、調査対象国30カ国のうち、順位を上げた国数は13カ国、下げた国数は16カ国、順位が変わっていない国は1カ国となっている。

表2 ラテンアメリカ・カリブ諸国の腐敗指数のランキングと得点の推移(2019~2021)

国 名 世界順位

2021

得点

2021

世界順位2020 得点

2020

世界順位2019 得点

2019

ウルグアイ 21/180 73/100 21/180 71/100 21/180 71/100
チリ 27/180 67/100 25/180 67/100 26/180 67/100
バルバドス 29/180 65/100 29/180 64/100 30/180 62/100
バハマ 30/180 64/100 30/180 63/100 29/180 64/100
セイントヴィンセント&G 38/180 59/100 40/180 59/100 39/180 59/100
コスタリカ 39/180 58/100 42/180 57/100 44/180 56/100
サンタルシァ 43/180 56/100 45/180 56/100 48/180 55/100
ドミニカ 45/180 55/100 48/180 55/100 48/180 55/100
グレナダ 52/180 53/100 52/180 53/100 51/180 53/100
キューバ 63/180 46/100 63/180 47/100 60/180 48/100
ジャマイカ 70/180 44/100 69/180 44/100 74/180 43/100
トリニダード&T 82/180 41/100 86/180 40/100 85/180 40/100
ガイアナ 87/180 39/100 83/180 41/100 85/180 40/100
コロンビア 87/180 39/100 92/180 39/100 96/180 37/100
スリナム 87/180 39/100 94/180 38/100 70/180 44/100
アルゼンチン 96/180 38/100 78/180 42/100 66/180 45/100
ブラジル 96/180 38/100 94/180 38/100 106/180 35/100
エクアドル 105/180 36/100 92/180 39/100 93/180 38/100
ペルー 105/180 36/100 94/180 38/100 101/180 36/100
パナマ 105/180 36/100 111/180 35/100 101/180 36/100
エルサルバドル 115/180 34/100 104/180 36/100 113/180 34/100
メキシコ 124/180 31/100 124/180 31/100 130/180 29/100
ボリビア 128/180 30/100 124/180 31/100 123/180 31/100
ドミニカ共和国 128/180 30/100 137/180 28/100 137/180 28/100
パラグアイ 128/180 30/100 137/180 28/100 137/180 28/100
グアテマラ 150/180 25/100 149/180 25/100 146/180 26/100
ホンジュラス 167/180 23/100 157/180 24/100 146/180 26/100
ニカラグア 164/180 20/100 159/180 22/100 161/180 22/100
ハイチ 164/180 20/100 170/180 18/100 168/180 18/100
ベネズエラ 177/180 14/100 176/180 15/100 173/180 16/100

 

3.過去7年間の腐敗指数の得点の推移

表3は、ラテンアメリカ・カリブ諸国の2015年から2021年の過去7年間の得点の推移を表している。過去7年間で得点がどのように上下しているかみてみよう。順位も重要だが得点は、改善点に繋がるので同様に重要である。

① 得点が上昇した国(最も得点が上った国順
ジャマイカ(32→44)、エクアドル(32→36)、バルバドス(61→65)、ハイチ(17→20)、トリニダード・トバゴ(39→41)、コロンビア(37→39)、アルゼンチン(37→38)の7カ国

② 得点が下落した国(最も得点が下がった国順
ホンジュラス(30→23)、ニカラグア(27→20)、エクアドル(39→34)、チリ(70→67)、ボリビア(33→30)、パナマ(39→36)、ドミニカ共和国(33→30)、パラグアイ(33→30)、グアテマラ(28→25)、ベネズエラ(17→14)、キューバ(47→46)、ウルグアイ(74→73)の12カ国

③ 得点に変化のない国
コスタリカ(58→58)、ブラジル(38→38)、ペルー(36→36)、メキシコ(31→31)の4カ国

表3 ラテンアメリカとカリブ海諸国の腐敗度の過去7年の得点の推移

国  名 Country 2021 2020 2019 2018 2017 2016 2015
ウルグアイ Uruguay 73 71 71 70 70 71 74
チリ Chile 67 67 67 67 67 66 70
バルバドス Barbados 65 64 62 68 66 61 NA
コスタリカ Costa Rica 58 57 56 56 59 58 70
キューバ Cuba 46 47 48 47 47 47 47
ジャマイカ Jamaica 44 44 43 44 44 40 32
トリニダード・トバゴ

Trinidad Tobago

41 40 40 41 41 36 39
コロンビア Colombia 39 39 37 36 37 37 37
アルゼンチン Argentina 38 42 45 40 39 36 37
ブラジル Brazil 38 38 35 35 37 40 38
パナマ Panama 36 35 36 37 37 38 39
ペルー Peru 36 38 36 35 37 35 36
エクアドル Ecuador 36 39 38 34 32 31 32
エルサルバドル ElSalvador 34 36 34 35 33 36 39
メキシコ Mexico 31 31 29 28 29 30 31
ドミニカ共和国 Dominican Rep. 30 28 28 30 29 31 33
ボリビア Bolivia 30 31 31 29 33 31 33
パラグアイ Paraguay 30 28 28 29 29 30 31
グアテマラ Guatemala 25 25 26 27 28 28 28
ホンジュラス Honduras 23 24 26 29 29 30 31
ニカラグア Nicaragua 20 22 22 25 26 26 27
ハイチ Haiti 20 18 18 20 22 20 17
ベネズエラ Venezuela 14 15 16 18 18 17 17

 

4.いくつかのコメント

1)同レポートは、地域別総括で下記のコメントをしている。

「米州大陸国(米国、カナダも含む)は、過去3年連続で、100点満点中43点 であった。 米州の高業績国でもトラブルの兆しを見せている。最もスコアが悪いのは この地域の非民主的国であるが、 その多くの国々が 人道的危機に直面している。 主要な民主主義国 も腐敗指数において停滞または 下降している。」

2)オッペンハイマーレポートで有名なマイアミ・ヘラルドのコラムニストのオッペンハイマー氏は、下記のような批判を行っている。

「メキシコ、アルゼンチン、その他のラテンアメリカ諸国における驚くべきレベルの汚職は、トランスペアレンシー・インターナショナルの新しい調査に反映されており、私たちの多くが長い間疑ってきたことを証明している。汚職と戦うためのワンマン的な解決策は、ほとんどの場合、失敗する。実際、ベネズエラのかつての権威主義大統領ウーゴ・チャベスからメキシコ、ブラジル、アルゼンチンの現在のポピュリスト指導者まで、汚職撲滅を約束して選挙戦を戦ったほとんどの大統領は、汚職を減らせなかったか、悪化させたかのどちらかだ。この地域の汚職問題には、リーダーを中心とした魔法のような解決策は存在しない。」

「2021年にラテンアメリカではアルゼンチンが最もランクを下げ、前年比4ポイント減となった。政府高官とその友人に対するVIPワクチン接種のスキャンダルが、アルベルト・フェルナンデス大統領の政権を取り巻く汚職に対する世論の批判に拍車をかけた。」

「昨年、Americas SocietyとControl Risksが発表した「汚職撲滅能力指数(Capacity to Combat Corruption Index)」と題する別のランキングでは、2021年に「ラテンアメリカの汚職撲滅は新たな後退の波を被った」と結論付けている。同ランキングで汚職撲滅への取り組みが最も低い評価を受けたのは、ベネズエラ、ボリビア、グアテマラ、パラグアイ、メキシコの各国だ。」

「有権者は、空虚な公約に耳を傾けるのではなく、大統領候補が自国のチェック・アンド・バランスの強化を約束しているかどうかを見るべきだ。独立した司法長官を任命し、三権分立を尊重し、報道の自由を認め、汚職防止機関に資金を提供する可能性が最も高い人物を支持すべきだ。」

「米国を含むどの国でも、政府の腐敗と戦うための鍵は、権力欲の強い大統領が独立した組織を侵食しないようにし、腐敗防止の戦いを集団的な大義に変えることだ。どれも今に始まったことではないが、この教訓を学んだ国はほとんどないようだ。」

3) 私の個人的な考え

では、どうすればラテンアメリカでの腐敗を減少させることができるのであろうか? その解決法につき私の個人的見解を述べたい。もちろん、言うは易しで実現できるかは、ひとえにその国の国民の意思と行動にかかっていることは当然である。すべて一朝一夕とは行かないものである。このテーマは、みんなで一緒に考えるに十分価値のあるものである。

① 各国の国民が認識し、行動に移すべきこと

*汚職撲滅を掲げて立候補する大統領には疑ってかかること

*任期を延長させるような企てをする大統領やポピュリスムで国民の人気をとろうとする大統領(候補)には信

用しないこと、拒否をすること、投票しないこと

*左派の大統領と言えども汚職に関わるものだと認識すること

*目先のバラマキ方式は、必ず破綻し、最終的には国民がツケを負担することになることを理解すること

*過去の教訓から学ぶこと

*教育や格差是正に最大限力を入れるべきことを政府にもっと要求すること

② オッペンハイマー氏が言うように、「独立した司法長官を任命し、三権分立を尊重し、報道の自由を認め、汚職防止機関に資金を提供する可能性が最も高い人物を支持し、投票することも大切である。 ただ、このことがなかなか実行に移せないところに問題がある。

③ リカバリー・ショットの許容度をもっと制限・考慮すること

この点は少し説明が必要である。数年前におこったブラジルのラバジャット事件などをみると、日本人にとって、いくつかの信じられないことが指摘できよう。まず第1は、収賄者の限りない国内外への広がり、第2は、収賄額の巨大さ、第3は、贈収賄方法の露骨さである。その背景となる日本とラテン系の国民性の相違について考える上で、①国民の寛容度と許容度の相違と②リカバリー・ショットの有効度の相違を知ることが必要である。

ブラジルやラテン系の人々は、総じて寛大な性格を持っている。自分に対しても他人に対しても寛大である。時間に対しても寛大だし、お金に対しても、寛大である。政府予算などは、時折ルーズとも思われる時もある。どこの国でも、贈収賄は罪であり、法律に抵触する。そのことは誰もが知っていることである。しかし、ここで問題となるのは、どの程度までが、大目に見られるのか、許容範囲なのか?ということである。日本とブラジル等ラテン世界では相当大きな、相違があると思える。例えば、日本の場合、公私混同は嫌われるところであり、ラテンの世界から見ると十分に許される、極めて些細な公私混同も排除されがちである。ネポテイムズに対しても慎重であり、限度を心得ている。

ラテンの世界では、貧富を問わず、政府、政府機関、公社公団、企業で出世し、収賄者の仲間に入るくらいになると、一族郎党やアミーゴが黙っていない、何とか出世者がもたらす恩恵や甘い蜜にたかろうと集まってくる。日本の場合もネポテイズムが存在するが、元々許容度の幅が狭いのと、少しやりすぎるとマスコミ沙汰になることもあり、限定的と言える。

もう一つの重要なポイントは、ブラジルやラテンの世界では、一度又は数度、悪いことをして、有罪になった人でも、二度、三度と表舞台に出てしぶとく活躍する人が少なくない、特に政治家に多くみられる。日本では、名誉回復のためのゴルフでいう名誉回復・失地回復のための「リカバリー‣ショット」はなかなか認められない。一度でも破産したり、事業に失敗したりすると、その後成功しても名声に尾を引くケースが少なくない。ラテン世界では、寛容度の幅が大きいので、「リカバリー・ショット」に対して、総じて寛大である。表舞台に出てきた人物もあたかも何も悪いことをしなかったかのように堂々と振る舞うのを常とする。この点も、贈収賄問題が繰り返されることと関連してくるように思える。したがって、ここで主張したいのは、国民の汚職度の寛容度については、国民性という大きなテーマなので一朝一夕に変えることは困難であるが、リカバリー・ショットについてはより厳格な対応を採ることによって少しは贈収賄を減少させることができるものと思われる。例えば、有罪判決を受けた場合、以後10年~20年間、あるいはそれ以上公務につけないようにするというような方法である。この方法だと、抵抗はあるものの実施は可能であろう。

④ 国民の教育度を高めること。政府高官による腐敗や汚職を防止するには、国民の民度や教育水準を高めることが必要である。

アジアの国々と比較し、ラテンアメリカの国々はそれほど教育に熱心ではないと言えよう。腐敗度指数のランキングや得点の高いラテンアメリカの国々を見ると、ウルグアイ、チリ、コスタリカ、キューバとなっており、域内では教育熱心な国であり、所得も比較的高い国である。ラテンアメリカの人口1000万人以上の国で上記4カ国に続く国が出現することを期待したい。

⑤ 最後に、仮に贈収賄があった時に、収賄者の当事者が受け取らずに、勇気を出して〇X社から贈賄の話があったというようなことを告発するという方法である。贈収賄は一蓮托生なので、これはあり得ない話かも知れないが、このような告発者が増えると、贈収賄に少しブレーキがかかるかも知れない。

以      上