『疫病と海 シリーズ 海とヒトの関係学④』 第1章 疫病の人類史 「2 ラバヌイ(イースター島)の歴史を引き裂いたウイルス感染症」「コラム エルナン・コルテス上陸後の大惨事」 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『疫病と海 シリーズ 海とヒトの関係学④』 第1章 疫病の人類史 「2 ラバヌイ(イースター島)の歴史を引き裂いたウイルス感染症」「コラム エルナン・コルテス上陸後の大惨事」


新型コロナウイルス感染症COVID-19 禍と同じウイルス感染症で、南太平洋の孤島が歴史の記憶を消した「1862年事件」について焦点を合わせた章(P.38~55)を設けている。

日本の淡路島の半分の大きさに3,000~5,000人いたラバヌイにペルーから来た船団が1,000人以上の先住島民をグアノ(鳥糞)採掘や農園労働のために拉致し、1年程度で一部が戻された中に天然痘らしき疫病の感染者がいて、瞬く間に蔓延して島民は100人以下に急減してしまった。この人間狩りに続く疫病の災忌によってさらに最悪だったのは、1862年以前の長い歴史や口碑伝承、伝統文化など多くが細いラム酒瓶の首を通り抜けられないように人々の記憶に残らず、過去の系譜を分断されてしまったことである。

さらに、コルテス軍より先に人口のかなりがスペイン征服者が持ち込んだ天然痘に感染し倒されたアステカ文明のティノチティランの先住民への残虐行為を明らかにしたコラムも興味深い(P.56~60)。先住民を強制的に労働力として酷使できるエンコミエンダ制や暴力、残虐行為によって多大な犠牲を出したが、16世紀に海外からの入植者が持ち込んだのは天然痘だけではなく、1531年には麻疹が、1545年にはサルモネラ菌の一種と推定される疫痢で5年間にわたって最大規模の人命が失われたのである。

〔桜井 敏浩〕

(秋道 智彌・角南 篤編著 西日本出版社 2021年3月 243頁 1,600円+税 ISBN978-4-908443-59-6 )