執筆者:硯田一弘(アディルザス代表取締役)
今週月曜日はパラグアイでは愛国英雄の日(Día de los Héroes de la Patria)という祝日でした。この祝日は本来3月1日なのですが、今年は2月27日の日曜日とくっつけて連休にすることで、観光産業への貢献度を高めようという、パラグアイ版Go Toキャンペーンの様な大統領令によって2月28日となったものです。確かに土曜日も含めれば三連休になった為に街は静かでしたが、実際には三日間とも毎日40℃を超える猛暑で、出掛ける気分になりにくい日が続いただけでした。
しかも、連休最終日の月曜日の夕方5時過ぎ、それまでジリジリ照り付けていた太陽が雲で隠れたと思ったら、いきなり短時間の夕立となり、雨が降り止むと今度は突然濃厚な煙にアスンシオンの街中が巻き込まれ、五里霧中ならぬ五里煙中となりました。
特撮映画に出てくるような大煙幕、アルゼンチンのコリエンテス州で1月から断続的に発生していた野火によるもので、三日間の猛暑で熱膨張していたパラグアイの空気の下を南からの冷気が大量の灰や煙を巻き込んで北上することで発生したもの。筆者は夕立の為に家の中にジッとしていたので良かったですが、この煙幕が襲ってくるところを視ていたらものすごく怖かったのではないか、と思います。このイメージは写真より動画の方が伝わると思うので、下のYoutubeのリンクをクリックしてご覧ください。
https://www.youtube.com/watch?v=gNffTKUlrkg
この野火は「コリエンテス州の火事2022」というウィキペディアの専門ページが立ち上がるほどのもので、80万ヘクタールが焼失した、と書いてありますhttps://es.wikipedia.org/wiki/Incendios_en_Corrientes_de_2022
80万ヘクタールというのは火事がピークとなった2月22日頃のデータであり、実際にはもっと大きな面積が焼けている筈。3月1日発行のニューズウィーク日本語版には焼失面積は90万ヘクタールと記されています。
因みに神奈川県・東京都・埼玉県の一都二県を合計した面積は84万ヘクタール。この火事の規模感がどの程度のものか、実感頂けると思います。東京ドーム何個分なんていうかわいらしいレベルではありません。でも日本のマスコミはこの表現が好きなので、比較の為に記しますと東京ドームおよそ20万個分が灰になったということです。更に別の日本のデータと比較してみますと、昨年の日本中の全栽培面積が399万ヘクタール、田圃が221万ha、畑が178万haですから、日本の畑の全面積の半分以上が燃えたイメージです。
https://www.maff.go.jp/j/tokei/kekka_gaiyou/sakumotu/menseki/r2/menseki/index.html
野火による森林や草原の焼失についてご心配の皆様、大丈夫です。自然の力は偉大で、真っ黒になった森や野原は、一旦雨が降るとあっという間に緑に覆われて息を吹き返します。今週はパラグアイでも待望の雨が降りました。とは言え、コリエンテスの野火は大豆や小麦の畑も類焼したようですし、そもそも今年は南米南部での降雨が記録的な少なさとなっていて、今月をピークとする各種穀物の収穫量は例年を大幅に下回るとの予想。これにウクライナ危機の問題も絡んで、今年の食糧相場は大いに荒れることが懸念されます。
今日の言葉cenizaは34年前にベネズエラに着任して最初に覚えた単語cenicero(灰皿)の元の単語。当時は喫煙者が多かったので、日本から来られたお客様をホテルやレストランに御案内した時に先ず伝える重要単語でした。因みにお姫様シンデレラの本当の名前はEllaで、英語の灰Cinderを被ったEllaなので、意地悪な継母が名付けた仇名CinderEllaとなったものだそうです。日本では花咲爺さんが枯れ木に灰を撒いて花を咲かせますが、これは灰に含まれるカリ成分(英語ではPotash=壷の灰)が有効に作用したものと思われます。コリエンテス州では実際に野火の後降った雨の御蔭で一斉にピンクの野草が開花したと木曜日に報じられています。今回の大規模な灰の嵐がパラグアイにも花を咲かせてくれると良いです。
パラグアイで新種の蛇が発見されたという発表がありました。
https://zse.pensoft.net/article/61064
Phalotris shawnellaと学術命名されたこの蛇の生態など、詳しいことは未だ判っていないようですが、極めて希少種であることは間違いない様です。今世紀になってこのサイズの新種生物が見つかるということは、パラグアイには未だ開発の手が加わっていない地域が多くあることを示していると記事には書かれています。生物学的には宝の山ということでしょうか。
今週は、久しぶりにクルマでパラグアイ南端の町エンカルナシオンまで出かけてきました。目的はエンカルナシオン手前にあるLa Paz日本人移住地の隣村Framにある食品会社での打ち合わせですが、この会社が持つ港が町の近くにあって、この港には30万トンの収容能力を持つ貯蔵施設の他、最近完成した肥料工場もあり、これも視察させてもらいました。パラグアイの肥料消費量は年間200万トン程度、化学肥料に限定すると120万トン程で、その殆どがブラジルやペルー等から輸入されており、国産の化学肥料は土壌改良用の石灰等を除いては、これまで殆どありませんでした。
今回訪問したFerticom社はパラグアイ国内で産出される蛇紋岩Serpentineを粉砕してマグネシウムやケイ素主体の成分をベースに、輸入された窒素燐酸カリ成分を配合して化成肥料を製造する工場で、Bunge等国際資本の会社も取り込んで大規模な運営を行っています。蛇紋岩というのは蛇紋石Mg3Si2O5(OH)4というマグネシウムとケイ素を主成分とする岩石で、これらの成分はコメ作りには重要な要素となります。http://www2.city.kurashiki.okayama.jp/musnat/geology/rock/igneousrock/serpentinite.html
https://www.geologiadelparaguay.com/rocas-metamorficas-del-paraguay.htm
話は変わりますが、昨日11日チリで新政権が発足しました。https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN1201Z0S2A310C2000000/
Gabriel Boric新大統領は弱冠36歳、チリ史上最年少の元首です。
就任式に日本から政府特使として派遣された小田原外務副大臣が新大統領の就任祝いに、Boric氏が大好きだというポケモンのゼニガメ(英語でもスペイン語でもSquirtle=噴射亀?リス亀?)のぬいぐるみをプレゼントしたそうで、現地紙で報じられています。
https://www.cnnchile.com/pais/regalo-boric-squirtle-pokemon-por-que_20220310/
報道の時点では次期大統領だった若いBoric氏、日本からのプレゼントにご満悦の様子ですが、乗ってるクルマは韓国のHyundaiセダン。左派寄り新政権は経済政策では社会主義的な方向に走ると言われてきましたが、実際の運営はどうなるか?これから注視すべきところです。
それから南米ネタではありませんが、今週の出来事に関してもうひとつ。アップル社が今週廉価版のiPhone SEの新型を発表しました。基本モデルの価格は米国ではUS$429ですが日本では57,800円、つまり135円/$という設定です。同時に発表されたiPad AirはUS$599、日本で74,800円→125円/$。その他の製品も125円/$という設定。因みに昨年10月に発表されたMacBook Pro14インチはUS$1999、日本で239,800円でしたので、114円/$、同16インチはUS$2499、日本で299,800円→120円/$。その一か月前9月に発表されたiPad MiniはUS$499、日本で59,800円→120円/$、iPhone13はUS$799、日本で98,800円→124円/$でした。更に遡ると2018年9月発売のモデルは113円/$だったようですから、長期的円安を予見するアップル社の慧眼に驚くと同時に、アップルの予測通りに弱体化する円経済の方向性に不安を感じざるを得ません。
https://www.zakzak.co.jp/soc/news/180929/soc1809290005-n1.html
これ以上円安が進むと、海外への投資にも差しさわりが出ることが懸念されます。
蛇は洋の東西を問わず豊穣と富の象徴でもあります。今回ご紹介した蛇の話も、新たなビジネスをもたらすキッカケかもしれません。これ以上円安が進まないうちに是非パラグアイでの投資をご検討ください。
南米で生活していて、その地域の安全性を測る目安の一つがrejaすなわち鉄格子です。
大都市では殆ど例外なく建物の扉や窓などの開口部には厳重な鉄の格子がはめ込まれ、泥棒が侵入できないようになっています。道路に面した一階部分は勿論、普通ならハシゴを掛けて登らなければ届かないような二階以上の部分にまでrejaが付いていると、その地域は危険だから気を付けよう、という目安になる訳です。
ブラジル・サンパウロの鉄格子。装飾の一部にもなっていて、これが治安の悪さの指標になっていることに気付きにくいとも言えます。
2016年にパラグアイに引っ越して来て何より奇異に感じたのは、街中であまりrejaを見かけないことでした。住居用の家屋だけでなく、高級ショッピングセンターの高価な商品を飾るショーウィンドウにすら防犯用の鉄格子が嵌っていない様子は、南米慣れした目には異様な光景にすら見える訳です。高級車ポルシェの販売店ですら全面ガラス張りの店舗に鉄格子が嵌っていないのです。
リマからサンパウロに引っ越した2014年、テレビのニュースで毎朝どこかの銀行のATMが爆破されて現金が盗まれる様子を視て、ブラジルの泥棒の手口の凄さに驚きましたが、そのブラジルと国境を接する国で、こんなに安全な暮らしがあるというのは、真逆の意味で驚かされました。ところが、今日のabc color紙にRejas llegan a la estación de ferrocarril(鉄道駅に鉄格子が到着)という記事が出ていて、遂にパラグアイにも格子生活の波が訪れたか、とガッカリしました。ただ、良く読むと、これは窃盗を防止するものではない模様。
アスンシオンの旧市街の数少ない観光の目玉の一つである鉄道駅(正確には博物館)が鉄格子で覆われるというニュース。 https://www.google.com.py/maps/place/Estacion+Plaza+Uruguay/@-25.283911,-57.630051,78m/data=!3m1!1e3!4m5!3m4!1s0x945da73bf021ab89:0xc26ff3c8ff4b3bdb!8m2!3d-25.2838857!4d-57.6299352?hl=es-419
金目のモノは多くない筈のこの建物に何で鉄格子を設置するのか、というと、盗難防止ではなく、ここに住み着く輩を排除するためのものだそうです。セントロ地区にはパラグアイでも珍しい貧民街があったり、原住民がバラック小屋を建てて避難民のような生活をしている場所がありますが、これらは国会議事堂の周辺で、どちらかというと所得の格差是正を求める政治的メッセージの為にそこに棲みつくという恣意作戦のひとつのようなものでもあります。実は今回の鉄道駅への侵入も、どちらかというとこうした左翼系の活動で、これを阻止するための無粋な鉄格子設置というのが実態です。ただ、富の偏在を是正すべきという意見はパラグアイでも広く語られていて、政府も低所得者への再配分の為の政策には真摯に取り組んでいます。それを示すのが今日のLa Nacion紙に掲載された中南米各国との最低賃金の比較です。
この記事によると、パラグアイの最低賃金は月に323ドル(約38,700円)、域内の中間に位置する第6位。特徴的なのは、ドルに換算した323ドルという金額、過去7年間ほぼ変わっていません。つまり、それだけ安定している証左でもあります。
それからパラグアイの安全性を示すもう一つの指標として、失業率の低さというのがあります。これは今月から始まったPBNパラグアイビジネスニュースの記事を掲載してくれる南米唯一の日刊日本語新聞「ブラジル日報」から詳しくお読み頂けます https://www.brasilnippou.com/2022/220319-41colonia.html
今週は、自動車燃料の高騰に抗議する職業運転手の集団による道路の封鎖があちこちで発生し、却って燃料の消費量を増やしてしまう皮肉な出来事もありましたが、政府も燃料の高騰による物価上昇を阻止しようと、販売価格を下げる措置を決定しました。https://www.ultimahora.com/estado-dejara-recibir-petropar-g-12000-millones-mes-al-bajar-los-precios-n2992170.html
コロナ禍にウクライナ侵攻・地震と不安要素テンコ盛りの昨今ですが、こんな時こそ地球の裏側にも目を向けて、鍬入れしてみては如何でしょう。
3月最終週直前(la penúltima semana del mes de marzo )の今週は火曜の夜に大雨が降ってアスンシオン周辺の至る所で大水が出て、珍しく日本でも報道されるほどでした。
https://news.yahoo.co.jp/articles/439a370b95dc776330658d8522f48025415b2b80
この翌日水曜日も、朝方大雨が降って拙宅の隣の街路樹が根こそぎ倒木して電線を切った為に5時間近く停電となりました。パラグアイに限らず、南米では大雨が一気に降って街路樹が折れたり倒れたりして道路が通行止めになったり停電したりということが頻繁に発生します。これだけの大木を倒す雨の量の凄さに驚くと同時に、木の根の張り方が狭くて浅い事にも驚かされます。日本では川の土手に桜を植えて決壊を防ぐ工夫がされていますが、パラグアイでも根を広く深く張って綺麗な花を咲かせて人々が周りを踏み固める樹木が必要かも知れません。
さて、今週は久々にパラグアイ川を渡ってチャコ地方の入り口周辺の様子を見てきました。アスンシオン市内で高層アパートやオフィスビルの建築工事が盛んな事は今までもお伝えしてきましたが、チャコ地方の入り口とも言える川向うの地域も4カ月ぶりに訪れてみると随分と開発が進んでいました。と同時に、少し幹線道路から奥に入ってみると、数年前には見られなかった宅地開発と植林が隣接した地域で進んでいて、道路も未舗装ながら以前のような四駆でないと走れないような状態から、セダンでも動き回れるように改修が進んでいるイメージでした。
アスンシオン近郊での植林、手前には椰子の木陰で休む肉牛の姿
アスンシオンからパラグアイ川を渡った先は、アルゼンチンとの国境にも近く、既に国境は解放されているものの、アルゼンチン側ではワクチン接種証明書や独自の健康証明の提示を要求してくることから、往来が完全に復旧したとは言えない状態です。その結果、アルゼンチン通貨ペソの下落を受けて割安となったガソリンやディーゼル油が飲料水用のボトルに詰められて不法に国境を渡ってパラグアイ側に流入、道端のあちこちで販売する光景を目にしました。
この写真は昨年10月の新聞記事のものですが、現在では当時よりももっと多くの道端販売が行われている印象でした。https://www.lanacion.com.py/investigacion/2021/10/25/arrasan-las-ventas-de-combustible-de-contrabando-en-zona-de-frontera-2/
パラグアイ国内のガソリン価格はウクライナ侵略以降の国際価格の上昇もあって現在オクタン価93の製品でGs.7,630/ℓ=日本円で135円程度ですが、道端販売品はオクタン価不明でGs.6,500/ℓ=約115円で、少し前のパラグアイ価格と同等の設定になっています。ちなみにパラグアイでもアルゼンチンでもガソリンは青色に着色されています。日本はピンク色。これは他の燃料と間違えて給油しないように、という配慮から意図的に着色されているためです。https://bike-lineage.org/etc/bike-trivia/gasoline_color.html
さて、明日27日から冬時間に戻るので、日本との時差は13時間になります。もうすぐ日付が変わるのですが、今夜は12時になると一旦11時に戻って一時間長く寝られる計算になります。一週間を振り返る記事がUltima Hora紙に纏められていますのでご紹介します。では、一時間長い夜を楽しみます。おやすみなさい。