連載レポート84:桜井悌司「世界幸福度報告書2022とラテンアメリカ」 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載レポート84:桜井悌司「世界幸福度報告書2022とラテンアメリカ」


連載レポート85

「世界幸福度報告書2022とラテンアメリカ」

執筆者:桜井悌司(ラテンアメリカ協会常務理事)

「はじめに」

国連の支援を受けて、「持続可能な開発ソリューションネットワーク」(Sustainable Development Solution Network)が、毎年「世界幸福度報告書」(World happiness Report)というレポートを発表する。この3月に2022年版が発表された。このレポートは、2012年に開始され、今年は10回目を迎えるが、世界の146カ国をカバーしている。2012年の第1回調査では、156カ国・地域をカバーしていたが、年々カバー対象国が減少している。

レポートは、154ページにもなり、開発論で世界的に有名なJeffreySachs, JohnF.Helliwell, Richard Layard, John-Emmanuel de Neve等6名の錚々たるメンバーの協力の下で、「持続可能な開発ソリューションネットワーク」が作成したもので、世論調査で有名な「Gallup World Poll data」も関与している。

各国の国民に「どれくらい幸せと感じているか」を評価してもらった調査に加えて、1人当たりのGDP、健康寿命、寛容性の度合い、社会的支援、人生の選択の自由度、腐敗の認識といった要素をもとに幸福度を計るものとなっている。

表1の2022年度調査に基づいて、世界の幸福度の趨勢をみると、ベスト10の中に、ヨーロッパ諸国が、8カ国が入っており、その内北欧4カ国がすべて、上位にランクインされている。イスラエル(9位)とニュージーランド(10位)の2カ国が欧州外の国である。イスラエルは、アラブ諸国に囲まれ、常に危険にさらされた国であるが、2020年度調査で14位、2021年度調査で12位とランキングを上昇させており、今回初めてベスト10入りした。「オッペンハイマーレポート」で有名なマイアミ・ヘラルドのオッペンハイマー氏は、そのコラムで、イスラエルが上位にランクされる理由を分析しており、今後上位をめざすラテンアメリカや日本にとっても有益な記事である。(協会のオッペンハイマー・レポートの3月22日付けをご覧ください。)

参考までに、日本は、2022年度調査では、54位であった。過去にさかのぼると、2012年、44位、2015年、46位、16年、53位、17年、51位、18年、54位、19年、58位、20年、62位、21年、56位と残念ながら、横バイかダウン気味という状況にある。

ラテンアメリカをみると、23位のコスタリカが最高位で、以下ウルグアイ、パナマ、ブラジル、グアテマラ、チリ、ニカラグア、メキシコ、エルサルバドルの8カ国がベスト50位までにランクインされている。政治・経済の低迷が続くベネズエラは、108位に低迷しているが、総じて、世界全体の中位に属していることが理解できる。

下記に表1「2022年度世界幸福度報告書にみる世界とラテンアメリカのランキングと得点」と表2「ラテンアメリカ諸国の過去7年の順位の推移〈2016年~2022年〉」を参照のこと。

表1.2022年度世界幸福報告書にみる世界とラテンアメリカのランキングと得点

順位 国名(世界) 得点 順位、ラ米 国名 得点
1位 フィンランド 7.821 23位 コスタリカ 6.582
2位 デンマーク 7.636 30位 ウルグアイ 6.474
3位 アイスランド 7.557 37位 パナマ 6.309
4位 スイス 7,512 38位 ブラジル 6.293
5位 オランダ 7.415 39位 グアテマラ 6.262
6位 ルクセンブルグ 7.404 44位 チリ 6.172
7位 スエーデン 7.584 45位 ニカラグア 6.165
8位 ノルウエー 7,365 46位 メキシコ 6.128
9位 イスラエル 7.364 49位 エルサルバドル 6.120
10位 ニュージーランド 7.200 55位 ホンジュラス 6.022
12位 オーストラリア 7.162 57位 アルゼンチン 5.967
14位 ドイツ 7.034 63位 ジャマイカ 5.850
15位 カナダ 7.623 66位 コロンビア 5.781
16位 米国 6.977 69位 ドミニカ共和国 5.757
17位 英国 6.943 71位 ボリビア 5.600
20位 フランス 6.687 73位 パラグアイ 5,578
29位 スペイン 6.476 74位 ペルー 5,559
26位 台湾 6.512 76位 エクアドル 5.533
54位 日本 6.039 108位 べネズエラ 4.925
59位 韓国 5.935 ハイチ
72位 中国 5.585 トリニダードT

 

表2 ラテンアメリカ諸国の過去7年の順位の推移〈2016年~2022年〉

ラテンアメリカ国名 2022年

第10回

2021年

第9回

2020年

第8回

2019年

第7回

2018年

第6回

2017年

第5回

2016年

第4回

2012年

第1回

調査対象国 146 149 153 156 156 155 157 156
コスタリカ 23位 16位 15位 12位 13位 12位 14位 12位
ウルグアイ 30位 31位 26位 33位 31位 28位 29位 50位
パナマ 37位 41位 36位 31位 27位 30位 25位 21位
ブラジル 38位 35位 32位 32位 28位 22位 17位 25位
グアテマラ 39位 30位 29位 27位 30位 29位 39位 37位
チリ 44位 43位 39位 26位 25位 20位 24位 43位
ニカラグア 45位 55位 46位 45位 41位 43位 43位 89位
メキシコ 46位 36位 24位 23位 24位 25位 31位 24位
エルサルバドル 49位 49位 34位 35位 40位 45位 46位 48位
ホンジュラス 55位 53位 56位 59位 72位 91位 104位 63位
コロンビア 56位 52位 44位 43位 37位 36位 31位 41位
アルゼンチン 57位 57位 55位 47位 29位 24位 26位 39位
ジャマイカ 63位 37位 60位 56位 56位 76位 73位 40位
ドミニカ共和国 69位 73位 68位 77位 83位 86位 89位 93位
ボリビア 71位 69位 65位 61位 62位 58位 59位 57位
パラグアイ 73位 71位 67位 63位 64位 70位 70位 70位
ペルー 74位 63位 63位 65位 65位 63位 64位 77位
エクアドル 76位 66位 58位 50位 48位 44位 51位 66位
ベネズエラ 108位 107位 99位 108位 102位 82位 44位 19位
ハイチ 143位 142位 147位 148位 145位 136位 150位
トリニダードT 42位 39位 38位 38位 43位 38位
スペイン 29位 27位 28位 30位 36位 34位 37位 22位
日本 54位 56位 62位 58位 54位 51位 53位 44位

Covit-19以前の調査と今回の調査の比較」

2020年調査は、2019年に行われたもので、新型コロナウイルス感染前となる。2021年と22年の調査は、コロナ感染以降なので、その変化を見ることにする。表3でランクを上げた国を最初に記し、ランクを下げた国をいかに記す。

これを見ると、ラテンアメリカのほぼすべてといってよいほど、ランキングを加工させている。唯一、ニカラグアとホンジュラスという中米の小国がランクを1つ上げていることがわかる。ここにあげる19カ国の内17カ国が軒並みダウンしている。比較的ダウンの度合いが少ない国は、パナマ、ドミニカ共和国、アルゼンチン、ジャマイカ、ウルグアイ、チリで、残りは6ポイント以上のランクダウンであった。特にダウンの激しかった国は、エクアドル、エルサルバドル、コロンビア、メキシコ、ペルーである。ラテンアメリカのコロナの感染状況は、日本でも報道されているが、アルゼンチン、チリ、ブラジルの順位の下げ具合は、2ポイントから6ポイントであったが、コロンビア、メキシコ、ペルーでは、11ポイントから12ポイントと大幅に下がった。

表3 Covit-19以前と比較してランクを下げた国リスト(2020年調査~2022年調査の3年間の比較)

国名 ランクの上昇・下降 推移
ニカラグア +1 46位→45位
ホンジュラス +1 56位→55位
パナマ -1 36位→37位
ドミニカ共和国 -1 68位→69位
アルゼンチン -2 55位→57位
ジャマイカ -3 60位→63位
ウルグアイ -4 26位→30位
チリ -5 39位→44位
ブラジル -6 32位→38位
ボリビア -6 65位→71位
パラグアイ -6 67位→73位
コスタリカ -8 15位→22位
ベネズエラ -9 99位→108位
グアテマラ -10 29位→39位
ペルー -11 63位→74位
メキシコ -12 24位→36位
コロンビア -12 44位→56位
エルサルバドル -15 34位→49位
エクアドル -18 58位→76位

 

「2012年~2022年調査の7年間の比較でみると」

次に、2012年の第1回調査から今回の2022年の第10回調査まで見て、下記の表4に基づき、19カ国のランキングにどのような変化があるかを調べてみよう。ランキングを上げた国は6カ国、下げた国が13カ国となっている。最もランキングを上げた国は、ニカラグアで何と44ポイントも上昇した。以下ドミニカ共和国の24ポイント、ウルグアイの20ポイント、ホンジュラスの8ポイント、ペルー、パラグアイと続く。下げた国でも1ポイントから4ポイントという小さな下げ幅の国は、チリ、エルサルバドル、グアテマラ、コスタリカの4カ国である。10ポイントから18ポイントを下げた国は、エクアドル、10ポイント、コロンビア、11ポイント、ブラジル、13ポイント、ボリビア、14ポイント、パナマ、16ポイント、アルゼンチン、18ポイントの6カ国である。最もランクを下げた国は次の3カ国である。メキシコ、22ポイント、ジャマイカ、23ポイントで、混迷を深めるベネズエラは、89ポイントのダウンとなった。総じてラテンアメリカの大部分は、幸福度調査では低迷したと言えよう。

表4.2012年~2022年の過去10回の調査にみるランキングの推移

国  名 ランクの上昇・下降 推移
ニカラグア +44 89位→45位
ドミニカ共和国 +24 93位→69位
ウルグアイ +20 50位→30位
ホンジュラス +8 63位→55位
ペルー +3 77位→74位
パラグアイ +1 70位→71位
チリ -1 43位→44位
エルサルバドル -1 48位→49位
グアテマラ -2 37位→39位
コスタリカ -4 12位→16位
エクアドル -10 66位→76位
コロンビア -11 41位→52位
ブラジル -13 25位→38位
ボリビア -14 57位→71位
パナマ -16 21位→37位
アルゼンチン -18 39位→57位
メキシコ -22 24位→46位
ジャマイカ -23 40位→63位
ベネズエラ -89 19位→108位

以   上