執筆者:桜井悌司(ラテンアメリカ協会常務理事)
「はじめに」
国連の支援を受けて、「持続可能な開発ソリューションネットワーク」(Sustainable Development Solution Network)が、毎年「世界幸福度報告書」(World happiness Report)というレポートを発表する。この3月に2022年版が発表された。このレポートは、2012年に開始され、今年は10回目を迎えるが、世界の146カ国をカバーしている。2012年の第1回調査では、156カ国・地域をカバーしていたが、年々カバー対象国が減少している。
レポートは、154ページにもなり、開発論で世界的に有名なJeffreySachs, JohnF.Helliwell, Richard Layard, John-Emmanuel de Neve等6名の錚々たるメンバーの協力の下で、「持続可能な開発ソリューションネットワーク」が作成したもので、世論調査で有名な「Gallup World Poll data」も関与している。
各国の国民に「どれくらい幸せと感じているか」を評価してもらった調査に加えて、1人当たりのGDP、健康寿命、寛容性の度合い、社会的支援、人生の選択の自由度、腐敗の認識といった要素をもとに幸福度を計るものとなっている。
表1の2022年度調査に基づいて、世界の幸福度の趨勢をみると、ベスト10の中に、ヨーロッパ諸国が、8カ国が入っており、その内北欧4カ国がすべて、上位にランクインされている。イスラエル(9位)とニュージーランド(10位)の2カ国が欧州外の国である。イスラエルは、アラブ諸国に囲まれ、常に危険にさらされた国であるが、2020年度調査で14位、2021年度調査で12位とランキングを上昇させており、今回初めてベスト10入りした。「オッペンハイマーレポート」で有名なマイアミ・ヘラルドのオッペンハイマー氏は、そのコラムで、イスラエルが上位にランクされる理由を分析しており、今後上位をめざすラテンアメリカや日本にとっても有益な記事である。(協会のオッペンハイマー・レポートの3月22日付けをご覧ください。)
参考までに、日本は、2022年度調査では、54位であった。過去にさかのぼると、2012年、44位、2015年、46位、16年、53位、17年、51位、18年、54位、19年、58位、20年、62位、21年、56位と残念ながら、横バイかダウン気味という状況にある。
ラテンアメリカをみると、23位のコスタリカが最高位で、以下ウルグアイ、パナマ、ブラジル、グアテマラ、チリ、ニカラグア、メキシコ、エルサルバドルの8カ国がベスト50位までにランクインされている。政治・経済の低迷が続くベネズエラは、108位に低迷しているが、総じて、世界全体の中位に属していることが理解できる。
下記に表1「2022年度世界幸福度報告書にみる世界とラテンアメリカのランキングと得点」と表2「ラテンアメリカ諸国の過去7年の順位の推移〈2016年~2022年〉」を参照のこと。
表1.2022年度世界幸福報告書にみる世界とラテンアメリカのランキングと得点
順位 | 国名(世界) | 得点 | 順位、ラ米 | 国名 | 得点 |
1位 | フィンランド | 7.821 | 23位 | コスタリカ | 6.582 |
2位 | デンマーク | 7.636 | 30位 | ウルグアイ | 6.474 |
3位 | アイスランド | 7.557 | 37位 | パナマ | 6.309 |
4位 | スイス | 7,512 | 38位 | ブラジル | 6.293 |
5位 | オランダ | 7.415 | 39位 | グアテマラ | 6.262 |
6位 | ルクセンブルグ | 7.404 | 44位 | チリ | 6.172 |
7位 | スエーデン | 7.584 | 45位 | ニカラグア | 6.165 |
8位 | ノルウエー | 7,365 | 46位 | メキシコ | 6.128 |
9位 | イスラエル | 7.364 | 49位 | エルサルバドル | 6.120 |
10位 | ニュージーランド | 7.200 | 55位 | ホンジュラス | 6.022 |
12位 | オーストラリア | 7.162 | 57位 | アルゼンチン | 5.967 |
14位 | ドイツ | 7.034 | 63位 | ジャマイカ | 5.850 |
15位 | カナダ | 7.623 | 66位 | コロンビア | 5.781 |
16位 | 米国 | 6.977 | 69位 | ドミニカ共和国 | 5.757 |
17位 | 英国 | 6.943 | 71位 | ボリビア | 5.600 |
20位 | フランス | 6.687 | 73位 | パラグアイ | 5,578 |
29位 | スペイン | 6.476 | 74位 | ペルー | 5,559 |
26位 | 台湾 | 6.512 | 76位 | エクアドル | 5.533 |
54位 | 日本 | 6.039 | 108位 | べネズエラ | 4.925 |
59位 | 韓国 | 5.935 | - | ハイチ | ― |
72位 | 中国 | 5.585 | - | トリニダードT | ― |
表2 ラテンアメリカ諸国の過去7年の順位の推移〈2016年~2022年〉
ラテンアメリカ国名 | 2022年
第10回 |
2021年
第9回 |
2020年
第8回 |
2019年
第7回 |
2018年
第6回 |
2017年
第5回 |
2016年
第4回 |
2012年
第1回 |
調査対象国 | 146 | 149 | 153 | 156 | 156 | 155 | 157 | 156 |
コスタリカ | 23位 | 16位 | 15位 | 12位 | 13位 | 12位 | 14位 | 12位 |
ウルグアイ | 30位 | 31位 | 26位 | 33位 | 31位 | 28位 | 29位 | 50位 |
パナマ | 37位 | 41位 | 36位 | 31位 | 27位 | 30位 | 25位 | 21位 |
ブラジル | 38位 | 35位 | 32位 | 32位 | 28位 | 22位 | 17位 | 25位 |
グアテマラ | 39位 | 30位 | 29位 | 27位 | 30位 | 29位 | 39位 | 37位 |
チリ | 44位 | 43位 | 39位 | 26位 | 25位 | 20位 | 24位 | 43位 |
ニカラグア | 45位 | 55位 | 46位 | 45位 | 41位 | 43位 | 43位 | 89位 |
メキシコ | 46位 | 36位 | 24位 | 23位 | 24位 | 25位 | 31位 | 24位 |
エルサルバドル | 49位 | 49位 | 34位 | 35位 | 40位 | 45位 | 46位 | 48位 |
ホンジュラス | 55位 | 53位 | 56位 | 59位 | 72位 | 91位 | 104位 | 63位 |
コロンビア | 56位 | 52位 | 44位 | 43位 | 37位 | 36位 | 31位 | 41位 |
アルゼンチン | 57位 | 57位 | 55位 | 47位 | 29位 | 24位 | 26位 | 39位 |
ジャマイカ | 63位 | 37位 | 60位 | 56位 | 56位 | 76位 | 73位 | 40位 |
ドミニカ共和国 | 69位 | 73位 | 68位 | 77位 | 83位 | 86位 | 89位 | 93位 |
ボリビア | 71位 | 69位 | 65位 | 61位 | 62位 | 58位 | 59位 | 57位 |
パラグアイ | 73位 | 71位 | 67位 | 63位 | 64位 | 70位 | 70位 | 70位 |
ペルー | 74位 | 63位 | 63位 | 65位 | 65位 | 63位 | 64位 | 77位 |
エクアドル | 76位 | 66位 | 58位 | 50位 | 48位 | 44位 | 51位 | 66位 |
ベネズエラ | 108位 | 107位 | 99位 | 108位 | 102位 | 82位 | 44位 | 19位 |
ハイチ | ― | 143位 | 142位 | 147位 | 148位 | 145位 | 136位 | 150位 |
トリニダードT | - | - | 42位 | 39位 | 38位 | 38位 | 43位 | 38位 |
スペイン | 29位 | 27位 | 28位 | 30位 | 36位 | 34位 | 37位 | 22位 |
日本 | 54位 | 56位 | 62位 | 58位 | 54位 | 51位 | 53位 | 44位 |
「Covit-19以前の調査と今回の調査の比較」
2020年調査は、2019年に行われたもので、新型コロナウイルス感染前となる。2021年と22年の調査は、コロナ感染以降なので、その変化を見ることにする。表3でランクを上げた国を最初に記し、ランクを下げた国をいかに記す。
これを見ると、ラテンアメリカのほぼすべてといってよいほど、ランキングを加工させている。唯一、ニカラグアとホンジュラスという中米の小国がランクを1つ上げていることがわかる。ここにあげる19カ国の内17カ国が軒並みダウンしている。比較的ダウンの度合いが少ない国は、パナマ、ドミニカ共和国、アルゼンチン、ジャマイカ、ウルグアイ、チリで、残りは6ポイント以上のランクダウンであった。特にダウンの激しかった国は、エクアドル、エルサルバドル、コロンビア、メキシコ、ペルーである。ラテンアメリカのコロナの感染状況は、日本でも報道されているが、アルゼンチン、チリ、ブラジルの順位の下げ具合は、2ポイントから6ポイントであったが、コロンビア、メキシコ、ペルーでは、11ポイントから12ポイントと大幅に下がった。
表3 Covit-19以前と比較してランクを下げた国リスト(2020年調査~2022年調査の3年間の比較)
国名 | ランクの上昇・下降 | 推移 |
ニカラグア | +1 | 46位→45位 |
ホンジュラス | +1 | 56位→55位 |
パナマ | -1 | 36位→37位 |
ドミニカ共和国 | -1 | 68位→69位 |
アルゼンチン | -2 | 55位→57位 |
ジャマイカ | -3 | 60位→63位 |
ウルグアイ | -4 | 26位→30位 |
チリ | -5 | 39位→44位 |
ブラジル | -6 | 32位→38位 |
ボリビア | -6 | 65位→71位 |
パラグアイ | -6 | 67位→73位 |
コスタリカ | -8 | 15位→22位 |
ベネズエラ | -9 | 99位→108位 |
グアテマラ | -10 | 29位→39位 |
ペルー | -11 | 63位→74位 |
メキシコ | -12 | 24位→36位 |
コロンビア | -12 | 44位→56位 |
エルサルバドル | -15 | 34位→49位 |
エクアドル | -18 | 58位→76位 |
「2012年~2022年調査の7年間の比較でみると」
次に、2012年の第1回調査から今回の2022年の第10回調査まで見て、下記の表4に基づき、19カ国のランキングにどのような変化があるかを調べてみよう。ランキングを上げた国は6カ国、下げた国が13カ国となっている。最もランキングを上げた国は、ニカラグアで何と44ポイントも上昇した。以下ドミニカ共和国の24ポイント、ウルグアイの20ポイント、ホンジュラスの8ポイント、ペルー、パラグアイと続く。下げた国でも1ポイントから4ポイントという小さな下げ幅の国は、チリ、エルサルバドル、グアテマラ、コスタリカの4カ国である。10ポイントから18ポイントを下げた国は、エクアドル、10ポイント、コロンビア、11ポイント、ブラジル、13ポイント、ボリビア、14ポイント、パナマ、16ポイント、アルゼンチン、18ポイントの6カ国である。最もランクを下げた国は次の3カ国である。メキシコ、22ポイント、ジャマイカ、23ポイントで、混迷を深めるベネズエラは、89ポイントのダウンとなった。総じてラテンアメリカの大部分は、幸福度調査では低迷したと言えよう。
表4.2012年~2022年の過去10回の調査にみるランキングの推移
国 名 | ランクの上昇・下降 | 推移 |
ニカラグア | +44 | 89位→45位 |
ドミニカ共和国 | +24 | 93位→69位 |
ウルグアイ | +20 | 50位→30位 |
ホンジュラス | +8 | 63位→55位 |
ペルー | +3 | 77位→74位 |
パラグアイ | +1 | 70位→71位 |
チリ | -1 | 43位→44位 |
エルサルバドル | -1 | 48位→49位 |
グアテマラ | -2 | 37位→39位 |
コスタリカ | -4 | 12位→16位 |
エクアドル | -10 | 66位→76位 |
コロンビア | -11 | 41位→52位 |
ブラジル | -13 | 25位→38位 |
ボリビア | -14 | 57位→71位 |
パナマ | -16 | 21位→37位 |
アルゼンチン | -18 | 39位→57位 |
メキシコ | -22 | 24位→46位 |
ジャマイカ | -23 | 40位→63位 |
ベネズエラ | -89 | 19位→108位 |
以 上