連載パナマ・レポート23:ルベン・ロドリゲス 2022年3月分 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載パナマ・レポート23:ルベン・ロドリゲス 2022年3月分


連載パナマ・レポート23: ルベン・ロドリゲス 2022年3月分

執筆者:Ruben Rodriguez Samudio(北海道大学法学研究科助教・パナマ共和国弁護士)

I. 新型コロナウイルスの現状

 3月26日時点で、パナマにおける新型コロナウィルスの感染者は762,394人、死亡者は8,159人、回復者は751,640人と確認された。2月下旬から新感染者数は減少傾向を示し、3月23日と24日に死者は出ていない。汎米保険機構によると、1月上旬では1週間に100,000人当たり1,949件の感染が発生したことに対して、3月下旬時点で、56件まで下がったことが発表している。2月中旬から移植患者のようなハイリスクグループに対して4回目のワクチン提供が行われている。政府はパナマにおいて新株が流行していないことを踏まえ、一般国民に対する4回目の接種を検討していないことを明らかにした。

Ⅱ.政府

A.マルティネリ元大統領の裁判

 3月24日に、パナマ選挙裁判所は、2017年にアメリカで逮捕され、パナマに返還されたリカルド・マルティネリ元大統領(2009年-2014年)に、国際法の特定性の原則が適用されることと解釈し、刑事裁判の対象外と判断した。特定性の原則は、引渡された犯罪人に対して、引渡した国(アメリカ)の同意がない限り、引渡しの理由となった犯罪以外についての訴追を禁止する原則である。

しかし、アメリカ政府は、マルティネリ元大統領がパナマに返還されてから自由に出国できるため、特定性の原則は適用されないと何度も発表し、今回の判決に対しても同じ意見を述べている。エスコフェリー(Escoferry)判事は、判決に対する反対意見を示した。さらに、 Panameñista党は、選挙裁判所が国際条約の解釈権限がないと述べ、判決、および判事に対する法的な措置の可能性を検討していると発表した。去年、マルティネリ元大統領は、任期中に野党メッセージの傍受命令を下した疑いについて無罪判決が下されたが、賄賂を受けた裁判は現在も続いていた。選挙裁判所の判決によって裁判の手続きが停止となる。

 マルティネリ元大統領の息子であるリカルド・マルティネリとルイス・マルティネリは、北・中・南米で行われたオデブレヒト汚職事件に関与した疑いのため、グアテマラで逮捕され、2021年12月にアメリカに引き渡された。マルティネリ兄弟は、アメリカのニューメキシコ州の裁判で資金洗浄の容疑を認め、判決の伝達を待っている。当時、マルティネリ元大統領は、息子の無罪を主張し、アメリカの裁判で無罪であることを証明すると主張したが、マルティネリ兄弟が容疑を認めてからはコメントを発表していない。

 また、スペインでは、マルティネリ元大統領がオデブレヒト汚職事件に関与した疑いについても捜査対象となり、2月にオンライン通話によってスペインの検察の尋問を受けた。さらに、マルティネリ元大統領が元愛人の観察や尾行をするため、スペインの治安警察を雇った疑いに関する取り調べが行われていることが分かった。スペインでは治安警察のメンバーを含めて逮捕され、4人に対して出国禁止命令が下されている。マルティネリ元大統領は、スペインの捜査は、神話のような作り話であるとコメントしている。しかし、海外のメディアにおいてマルティネリ元大統領だと思われる人物が元愛人の行動について質問しているメッセージのスクリーンショットが公開されている。

Ⅲ.経済

A.エンベラ特別区の債券

 エンベラ先住民族の特別区では、特別区内の公益事業を行うため債券発行についての交渉を行っていることが判明した。パナマ法において、先住民族特別区の自治制度が認められるため、こうした債券の発行は可能である。発行される債券は、機会費用債券、つまり、エンベラ族は特別区内にある天然資源を開発しない填補を目的としている債券である。現時点では、エンベラ総評議会の許可が必要である。

B.コロン県のフリーゾーン地(自由港)

コロン県にあるコロンフリーゾーン地(Zona Libre de Colon, ZLC)における1月の取引は、17億1500万ドルにのぼり、前年同期比45%増加したことが公表された。その中で、輸入は9億3700万ドル、輸出は、7億7800万ドルとなっていた。49%の輸入品は中国から入り、輸出品の目的地は、ベネズエラ(8.8%)、コスタリカ(7.8%)、チリ(6.5%)、グアテマラ(5.7%)である。コロンフリーゾーン地は、1948年に設立され、アメリカ大陸の最も面積の広い自由港であり、港内で行われる取引は、関税、所得税を含めて、様々な税金の免除対象となっている。

C.建設業界のストライキ

パナマ建設会議所(Cámara Panameña de la Construcción, CAPACS)と建設労働者等統一連合会(Sindicato Único de los Trabajadores de la Construcción y Similares, SUNTRACS)は、2022-2026の労働協約についての交渉において最低賃金の合意に至っていない。SUNTRACSが求めている2026年までに70セントの昇給に対して、CAPACSは、7セントの昇給を提案しているため、SUNTRACSは交渉する余地がないと述べ、4月から総合ストライキを行うことを発表した。他方、CAPACSは、建設業界がパンデミックによって最も悪影響を受けた業界のひとつであるためSUNTRACSの請求は受け入れがたい、また、現在の報酬は低くはないと反論している。

D.ボリウッド映画の撮影
 
パナマ政府とインド映画スタジオは、2022年にパナマでインド映画5本の撮影に関する協定を結んだと発表した。これらの映画では、インド人とパナマ人のタレントのコラボレーションを前提としている。一本目の映画は、パナマに移民した者の物語を舞台とし、5月から7月の間に撮影される予定である。ボリウッドは、インドのムンバイ市で政策される映画の総称であり、年間撮影数からするとアメリカのハリウッドを超えている。 

E.サイバー犯罪の増加
 
検察庁の報告によるとパナマでのサイバー犯罪事件は、パンデミック前と比べると344%増加していることが判明した。2016年の123サイバー犯罪事件に対して、2021年には5300事件が捜査された。その理由の一つは、テレワークの普及によって、多くの会社はスピードを優先させ、充分なセキュリティ対策を行っていないことにある。 もっとも狙われている企業は、銀行と金融業界、および政府機関である。また、サイバー攻撃の発生地として、パナマ(43%)、アメリカ(28%)エクアドル(24%)ロシア(1%)、未確定(4%)となっている。金融機関になりすましメール等を利用し、ログイン情報を奪うためのフィッシングおよび不正アクセスが増加している。決済ブランドを運営するVISAの報告によると、2021年12月にパナマの対面取引で65%がキャッシュレスで決済された。

以    上