著者は国立民族学博物館外来研究員。本書は総合研究大学大学院博士課程時に、ペルー北部クルス・ベルデ遺跡から出土する貝殻に着目して、先史時代の漁撈民の貝類採集活動に迫った分析の成果を取り纏めたもの。現在この海域はエル・ニーニョ現象によって漁民の生活が不安定化しているが、紀元前4200~3800年の彼らの漁撈が常に自然環境下の資源の許容量を超えることがないように組織されており、その戦略が無理のない形で柔軟に適応することに成功した要因だったことを明らかにしている。
現代の人々がこれまで慣れ親しんできた生活水準に固執するあまり、環境を破壊させてまで枯渇する資源を技術で補おうとしているが、ペルーの先史時代の漁撈民が変化に即して自然環境を補いつつ生きてきた歴史を知ることによって、環境への適応の仕方は様々ありその方向も多様であることを教えてくれるという結語の意義は重い。ブックレットではあるが、若い研究者の体験に根ざした最新の研究成果を広く発信しようとするシリーズの26巻目の新刊。
〔桜井 敏浩〕
(風響社 2021年10月 64頁 700円+税 ISBN978-4-89489-303-0 )
〔『ラテンアメリカ時報』 2022年春号(No.1438)より〕