『メキシコ文化の機能不全 -パンデミック・T-MEC・文化財』 ホルヘ・サンチェス=コルデロ - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『メキシコ文化の機能不全 -パンデミック・T-MEC・文化財』  ホルヘ・サンチェス=コルデロ


著者は、メキシコの法曹人、外交官、評論家として活躍しており、文化財・文化遺産保護に関しては第一人者と言われ、日本では『法と文化 -文化財保護に向けての司法的挑戦』(西田書店、2020年)の訳書が出されている。訳者はメキシコ国立自治大学(UNAM)博士課程、駐日メキシコ大使館勤務を経た明治大学講師。

 本書が分かり易い語りで挙げているのは、メキシコでの新型コロナウイルス感染症のパンデミックの下で、同様にアステカ時代に欧州人との接触から天然痘・麻疹等で、植民地時代も黄熱病やチフス等で先住民社会の人口の激減という危機がもたらされたことがあったが、その後今日に至るも国の公共衛生政策から先住民が置き去りにされているということ、2019年に米国議会でも批准された米墨加自由貿易協定(T-MEC。英語表記はUSMCA)はメキシコにおいても通商面については絶賛されたが、文化の領域ではそうではなく、技術やインターネットの中立性でも敗れ、メディアや映画等を含めメキシコ文化へのレクイエムとなったこと、食事は文化であって生物学的必要性ではないとすれば、食物の輸入増はメキシコの伝統の食事と衛生安全保障に多大な懸念をもたらしたこと、海外へ流出した文化財の回復・保護のために国家の課題の一つとして文化財の擁護が必要であり、いまこそ文化財を世界的に保護するための「知的な戦い」が必要であることを強調している。日常的な事実、事例を挙げ、グローバルな視点から世界各地の状況分析も加えて説く語りは読み易い。

〔桜井 敏浩〕

(松浦芳枝訳 西田書店 2021年11月 180頁 2,300円+税 ISBN978-4-88866-662-6 )
〔『ラテンアメリカ時報』 2022年春号(No.1438)より〕