『ブラジル企業多国籍化の構図 -国家・為替相場がもたらす影響と変化』 松野 哲朗 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『ブラジル企業多国籍化の構図 -国家・為替相場がもたらす影響と変化』  松野 哲朗 


本書はまずブラジル多国籍企業の台頭、多国籍企業にみる国家と為替相場の影響分析のフレームワークを設定して理論的枠組みを明らかにすることから説き起こしている。次いでほぼ30年ぶりに産業政策を復活させた2003年からの労働者党(PT)政権の国家による産業振興の試みを概説し、ブラジルの企業で最も世界的規模で活動している3社、世界最大規模の食肉の加工、輸出のJBS、ハイテク企業として小型旅客機、ビジネスジェット機、軍用機製造のエンブラエル、鉄鉱石を中心にボーキサイト、石炭等の鉱産物を採掘、販売するヴァーレ(旧名リオ・ドセ)を事例研究として、これらから多国籍企業が保有する優位性・進出相手国に立地する優位性・内部化により得られる優位性(OLI)に着目し、多国籍企業と国家、為替相場の関係を考察し、21世紀に入っての3社の集中的な多国籍化はそれらからの外部・内部要因が同時に整ったことから発生した現象であると結論づけている。

著者は日本経済新聞でマニラ支局やデスクを歴任、早期退社して筑波大学、東京外国語大学で学び直して、現在は大学講師を務めながら纏めた博士論文に加筆したのが本書である。ブラジル多国籍企業が、その優位性を活用し劣位性を克服することによって成長したことを精緻に分析し、ブラジル資本の企業の多国籍化を解説した意義ある労作。

〔桜井 敏浩〕

(日本評論社 2021年12月 256頁 5,500円+税 ISBN978-4-535-54025-5 )
〔『ラテンアメリカ時報』 2022年春号(No.1438)より〕