『アンデス文明ハンドブック』 関 雄二監修 山本 睦・松本 雄一編 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『アンデス文明ハンドブック』  関 雄二監修 山本 睦・松本 雄一編


 日本のアンデス文明研究の最も大きな成果の一つである形成期の神殿更新論という視座から、巨大建造物をなぜ、誰が建てたか、社会や人々を結びつける上での役割は何であったか、神殿での饗宴や儀礼品の製作はどのように行われたかなどを解説した「第Ⅰ部 神殿と共に生きた人々」、紀元前後から16世紀のアンデスにおいては国をつくった社会とつくらなかった社会の存在、ナスカの地上絵をめぐる景観と土器の儀礼破壊、ワリ帝国の支配、宗教国家ティワナク、建国しなかった北部カハマルカ文化、多民族国家ランバイェケ、モニュメントの無いチャンカイ文化の都市国家、インカの興隆とインカの人々の出自について概説した「第Ⅱ部 アンデスにおける国家と帝国」、最後に「第Ⅲ部 現代社会とアンデス文明」は一転してパブリック考古学の実践、ナスカの地上絵を例に学術調査と保護のあり方、遺跡保全における考古学者と地元地域社会の役割という、現代社会とアンデス文明研究の関わりの課題まで取り上げている。

一般の読者を対象に、20人の研究者がそれぞれの調査・研究成果を共通の問題意識で集大成した、学会での発表論文、報告書を集めた専門書とはひと味違う読み応えのある啓蒙書。

〔桜井 敏浩〕

 (臨川書店 2022年3月 392頁 3,400円+税 ISBN978-4-653-04519-9 )
〔『ラテンアメリカ時報』 2022年春号(No.1438)より〕