本書は科研費によるレバノン・シリア移民をテーマに、2009~16年に行った共同研究(代表は黒木英充東京外国語大学教授)の中で、著者(ラテンアメリカ近現代史を専攻する立教大学異文化コミュニケーション学部准教授)が担当したラテンアメリカ8か国での調査成果を私的に纏めたもの。なお、書名の「トルコ人」は、旧オスマン朝の発行する旅券等を携行してきた、現在のレバノン・シリアから移民してきた人たちとその後継世代を指すラテンアメリカでの俗称。第一部では、メキシコ映画界の1940年代全盛期を支えた二人のレバノン人映画監督とのインタビュー、メキシコでレバノンのカトリック・マロン派の隠者聖チャルベルを祀る教会が増え土着化したことの解説、レバノン人のギリシャ正教アルゼンチン府主教がシリア内戦をどう見ているかについての著者によるインタビューを載せている。第二部にはグアテマラ出身のレバノン系作家エドゥアルド・ハルフォンの短編3編の著者による訳をのせ、第三部では著者が調査地で撮影したドキュメンタリー映画2本の関連資料、さらに韓国の釜山外国語大学イベロアメリカ研究所主催のラテンアメリカ社会のアイデンティティ国際学術講演会での著者のスペイン語講演を載せている。
著者が関心をもつラテンアメリカへ中東地域から生活拠点を移していったレバノンやシリアなどの人びとの一世紀半の足跡の一端を、映画や小説等を媒介させつつ辿ろうとするこれまでの論考等を集めたユニークな論集。
〔桜井 敏浩〕
(影書房 2021年12月 194頁 2,200円+税 ISBN978-4-8771-4490-6 )
〔『ラテンアメリカ時報』 2022年春号(No.1438)より〕