連載エッセイ151:硯田一弘 「南米現地最新レポート」その32 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載エッセイ151:硯田一弘 「南米現地最新レポート」その32


連載エッセイ148

「南米現地最新レポート」その32

執筆者:硯田一弘(アディルザス代表取締役)

「4月3日発」

一昨日から日本の新年度4月になりました。と言っても1月に始まる暦年以外に4月に組織や制度を改める年度制度を持つのは日本の他、北朝鮮やインド周辺国だけのようで、南米では4月に何かが改まるということはありません。ただ、キリスト教国では3月末から4月にかけて復活祭があり、南米諸国ではこの時期はいつも少し浮足立った感じがしてきます。因みに今年の聖週間Semana Santaは4月10日から16日まで、17日の日曜日が復活祭です。昨日のLa Nacion紙の一面でも、聖週間の間は日常を離れて地方の行楽地でノンビリすごそう”Desconectarse de la rutina en Semana Santa”という記事を一面に掲載して唯一の大型連休(4月14-17日)に国内旅行をすることを推奨しています。

https://www.lanacion.com.py/la-nacion-del-finde/2022/04/02/desconectarse-de-la-rutina-en-semana-santa/

この復活祭大連休を前に、今までかたくなに国境でのコロナ対策管理を厳しくしてきた隣国アルゼンチンが、出入国の必要条件をコロナ前の状態に戻す決定を下しました。”Argentina normaliza requisitos de ingreso previos a la pandemia de Covid-19″やはり復活祭とそれに伴う聖週間が如何に重要な行事であるか、よくわかります。https://www.ultimahora.com/argentina-normaliza-requisitos-ingreso-previos-la-pandemia-covid-19-n2994402.html

しかし、旅行を計画しても困るのが自動車燃料の価格上昇です。世界的な動きではありますが、パラグアイでもご多分に漏れず燃料の価格は上昇し続けています。パラグアイのガソリン価格は以下の表に示すようにレギュラーで¥157、ハイオクで¥178程度にまで上昇していますが、国営石油会社のPetroParは国民からの不満を抑えるために3月末から補助金を充てて価格調整をしており、レギュラーなら¥125程度と民間企業の二割安となっています。この結果、PetroParの給油所はいつも大行列が出来ることになっています。

ちなみに、パラグアイのレギュラーガソリンの価格の推移は以下の通り、20年以上に亘って4桁の価格を維持してきました。

しかし先月の値上げにより、高級ハイオクなどで1万ガラニを超える5桁価格が登場した結果、多くの給油所で電光掲示サインボードの表示桁数が間に合わず、そこだけ印刷という看板が目立ってきています。ただ、PetroParだけが補助金を補填して価格を抑えることには、閑古鳥が鳴いている民間給油企業などの間から疑問の声も上がっており、当初5月上旬まで続けるとした調整価格は財源の不透明さなどから週明けにも見直されるとも報じられています。https://www.abc.com.py/nacionales/2022/04/02/petropar-define-el-lunes-cuanto-y-cuando-subiran-los-precios-de-combustibles-no-subsidiados/

日本でも同様の問題が発生していますが、燃料の価格はインフレに最も直結する重要指標でもあり、早急に必要条件を満たした調整策が必要になっています。

ちなみに復活祭の日程が毎年異なる事や、その計算の仕方はこれまでも何度も取り上げてきました。この日付を決める計算方法こそがコンピュータという単語の語源になったComputus、それに関する詳しい記述を見つけましたので御紹介します。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%83%97%E3%83%88%E3%82%A5%E3%82%B9

物価の上昇は世界的な流れですが、これを押さえる必要条件としての早期の和平実現や有効な気候変動対策の実施方法について計算できるスーパーコンピュータ利用方法の開発が待たれます。

「4月10日発」

ロシアの暴力が止まらないまま一か月半が経過し、世界各国の経済が大きな打撃を受けていることは日々の報道で目にします。その中で、週刊エコノミストのロシアのデフォルト危機が欧州各国に波及するリスクに関する記事を見つけました。https://mainichi.jp/premier/business/articles/20220408/biz/00m/070/001000d?cx_fm=mailhiru&cx_ml=article&cx_mdate=20220409

この地図ではロシアとアルゼンチンが破綻の危険性を孕んでいると示されている一方で、日本は米国と並ぶ安全な国という表現になっています。

ただ、別の資料によれば、日本のソブリンリスク(国の信用危険度)は2014年の時点ですら対象50カ国の34位、ブラジルよりも危険度の高い国という位置付けとなっています。ちなみに経済面で何かと評判の悪い南米ですが、チリとペルーは米国・韓国と同じ上位20位グループに入っています。

こういう調査では小国パラグアイは出てこないので、個別のデータを調べてみると、今週発行されたIMF国際通貨基金(スペイン語ではFMI=Fondo Monetario Internacional)の報告書がみつかりました。

https://www.imf.org/es/News/Articles/2022/04/06/mcs040622-paraguay-staff-concluding-statement-of-the-2022-article-iv-mission

この報告書冒頭には「パラグアイ経済は2019年以来厳しい状況に置かれており、特に旱魃による影響を受けて穀物の収入が減る打撃を受けた。しかし政府のコロナ対策支出は2021年には前年より減少し、税収も回復したことで改善の兆しは見せている。政府の赤字はGDP比3.7%に減り、IMFのSDR(特別引出権、Special Drawing Rights、スペイン語ではDEG=Derechos Espaciales de Giro、これが今日の言葉)から2億7千万ドル相当の配分を受け、更に8億ドルの長期国債を発行したことで経済の立て直しを図っている。」と記載されています。

また、新型コロナ対策として昨年8月にIFMが最大規模のSDR配分を決定したことが紹介されています。

https://www.imf.org/es/News/Articles/2021/07/30/pr21235-imf-governors-approve-a-historic-us-650-billion-sdr-allocation-of-special-drawing-rights

旱魃の影響で主要産業である農業が打撃を受け、気候変動の影響を受けやすいとの記載もあります。ここでは別の指標ND-GAIN(ノートルダム気候変動適応指標)というランキングが用いられ、パラグアイは181カ国中94位で脆弱であるとのこと。因みに日本は17位という位置付けです。

https://gain.nd.edu/our-work/country-index/rankings/

解説は延々と続きますが、冒頭の「厳しい状況」という表現のわりに、全体的にはインフレ率も中銀の4%は無理そうながら6%程度で抑えられそうとのことですし、社会保障政策も機能しているとの評価もされています。

ソブリンリスクでの国別比較表はありませんが、カントリーリスクのレベルは以下の表に示されています。

https://tradingeconomics.com/country-list/rating これによるとパラグアイの評価は南米の優等生チリ・ウルグアイ、新興優等国ペルー・コロンビアに次ぐ位置づけとなっていることが判ります。

  S&P Moody’s Fitch
Chile A A1  A-
Peru BBB Baa1 BBB
Uruguay BBB Baa2 BBB-
Colombia BB+ Baa2 BB+
Paraguay BB Ba1 BB+
Brazil BB- Ba2 BB- 
Bolivia B+  B2  B
Ecuador B- Caa3 B-
Argentina CCC+ Ca CCC
Venezuela N/A C RD
United States AA+ Aaa AAA 
Japan A+ A1 A

今日の言葉Giroは、本文でご紹介した手形とか為替といった金融用語としてよりも、回転という意味で使われることが多く、南米の音声カーナビを使う時には憶えているべき単語です。「右に曲がります」というのは”Gire a la derecha”(ヒーレアラデレチャ)と、指示されますので覚えておきましょう。

パラグアイ政府は、右でも左でもなく、中道をシッカリ直進しています。西のアルゼンチン国境に面したアスンシオンと、東のブラジル・アルゼンチン三国国境のエステを結ぶ国道2号線の整備も劇的に進んで、時間的距離も短くなっています。IMFの調査団も東西二大都市の距離感が大幅に縮まったことに驚いたことと思います。

「4月17日発」

今週は世界中のカトリックの国々では聖週間Semana Santaの為に水曜日の午後から祝日となっています。当然学校は休み、銀行を含む多くの職場も木曜日からは休業に入り、特に15日は聖金曜日Viernes Santo、キリストが磔刑に処せられた日として、厳格なカトリック教徒は肉食を慎み、或いは断食をしてキリストの受難を想う日であるので、街中が閑散として、コロナのロックダウンが再現されたように感じられました。世界中でロックダウンが始まった2年前の3月から4月にかけては、丁度4月上旬のセマナサンタの時期であったことからも、当初は違和感なく毎日が聖週間、という雰囲気でありましたが、セマナサンタが明けても活動が再開されず、日々の不安が増していたことを思い出しました。日本では第七波の到来などとも言われており、これ以上セマナサンタ状態が続かないことを真剣に祈る今年の聖週間です。パラグアイではセマナサンタ明けの来週月曜からマスクの着用義務が解除されます。

一方、ロシアによるウクライナ侵略の動きが鈍ったものの、まだ全く油断できない緊張状態が続いている中、毎日新聞に「私たちはゆでガエル? 世界で民主主義の危機」という記事が掲載されました。

https://mainichi.jp/articles/20220413/k00/00m/030/302000c?cx_fm=mailasa&cx_ml=article&cx_mdate=20220416

記事では、国の民主主義レベル毎に色分けされた世界地図が引用され、民主的な青系色の国と非民主的な赤色系の国とに塗り分けて世界の状況を”判り易く”示しています。

筆者注:赤丸で囲んだのがパラグアイ。

この「茹でガエル」というタイトルに似た内容を最近読んだ気がしたので調べてみると、一か月前のパラグアイ紙Ultima Horaに同じ表現の記事が掲載されていました。

https://www.ultimahora.com/corrupcion-mafia-y-contrabando-n2992199.html

記事のタイトルは「汚職・マフィア・密輸」と刺激的で、一部の政治家や富裕な実業家がカネと権力で官僚を意のままに動かして国を間違った方向に動かしており、その結果治安が脅かされることになっている。“síndrome de la rana en agua tibia”(茹で蛙症候群)という言葉を使って「黙って見ていては民主主義が堕落するから、茹で殺しにされる前に声をあげよう」と主張しています。

毎日新聞が引用しているV-Dem研究所の”Autocratization Changing Nature?”(独裁は人間の本質を変えるのか?)と題された今年の民主主義現状報告書を繙いてみました。

https://v-dem.net/media/publications/dr_2022.pdf このV-Dem研究所による民主主義の定義とは、公正な選挙の実施と表現の自由の保証という二つの柱による、ということのようで、そうした視点から各国の民主主義の現状を分析したのが今回の報告書であるようです。

しかし、チリ・ウルグアイに次いでアルゼンチン・ペルー、続いてブラジルまでが青色系で、コロンビア・エクアドル・パラグアイが赤色系って、納得できない分類です。スウェーデンのV-Dem研究所、南米のことを理解していないように感じます。報告書の10ページから始まるランキングによると、民主主義上位10%グループのトップ3はスウェーデン・デンマーク・ノルウェーの北欧三国、次いで4位は中米コスタリカ、17位には韓国が入っています。次の上位20%グループでは、チリ21位、ウルグアイ23位で、日本28位・米国29位・台湾32位よりも上位につけています。で、上位30%グループにアルゼンチン38位・トリニダードトバゴ39位・ペルー40位・スリナム43位・パナマ53位となっています。更に、トップ40%グループでブラジル59位・ドミ共68位・コロンビア69位・エクアドル70位と続きます。折り返し前のトップ50%グループで、ようやくパラグアイ77位・メキシコ87位・ボリビア89位・ガイアナ90位が出てきました。パラグアイの一つ手前はインドネシア。南米諸国は全て上位半分に納まっています。下位の90カ国には主にアフリカ諸国が並んでいますが、やっぱり違和感あるのはアジアの先進国シンガポールが97位で入ってること。シンガポール在住の方、如何でしょうか?

因みに、CELAG(ラテンアメリカ地政学研究センター, El Centro Estratégico Latinoamericano de Geopolítica)の「パラグアイの民主主義と政治危機」という分析レポートによると、1995年以降の国民による政権への評価は概ねポジティブで、こうした政治的安定性が最近のパラグアイ経済の好調にも結び付いていると考えられます。

https://www.celag.org/democracia-y-crisis-politica-paraguay-busca-su-destino/

前述の「汚職・マフィア・密輸」レポートの著者Gloria Ayala Person氏はキリスト教徒企業家協会の会長で、証券会社やコンサルティング企業も経営する女性経営者ですが、現政権や与党を批判するような発言が有力新聞であるUltima Hora紙に掲載される点をみても、表現の自由も守られている事の表れと判断できます。

いろんなレポートで日本は優位と伝えられて、ぬるま湯に満足していると、いつの間にか湯がたぎってしまうかも知れませんので、注意しましょう。

話はガラッと変わって、今日の言葉ranaに関するオマケの話題。

美食の国ペルーの首都リマで筆者が一番おススメするレストランがCanta Rana(蛙の唄)。マチュピチュ旅行の行き帰り、リマでは一回しか食事の機会がないとしたら、是非ここへどうぞ。ウニのセビチェや海産ごはん等、日本人の口にも合うペルー料理が気軽に楽しめます。

https://www.tripadvisor.com.pe/Restaurant_Review-g294316-d1075886-Reviews-Canta_Rana-Lima_Lima_Region.html

ベネズエラの首都カラカスでは夜になるとピーピー鳴く蛙Sapitoが沢山いて、あれだけ鳴いてるのだから簡単に見つかると思いきや、何年住んでいても見られないで結局残念ながら帰任になる駐在員が多かったことを蛙の話題で思い出しました。https://www.youtube.com/watch?v=5jhXaTTkJfM

この声を聴いて眠りにつく市民は今でも多い様です。そしてパラグアイには猫の様にニャーニャーと鳴く不思議なガマガエルが居ます。 https://www.metatube.com/es/videos/303946/Sapo-hace-sonidos-de-gato/ スペイン語でranaをポルトガル語でsapoと紹介しましたが、スペイン語でもsapoで通じます。ポルトガル語でのranaも同様です。

「4月24日発」

今週は久々に日本からの出張者が来られました。一行の到着はブラジル側のFoz do Iguacuなので、出迎えに行った結果パラグアイ東の街Ciudad del Esteから国土を横断して西端の首都アスンシオンまで往復700㎞を走り抜けました。

ビジターの到着前にアルゼンチン側Puerto Iguazu市も視察してきたのですが、先ずここが驚きの連続。聖週間セマナサンタ=イースターホリデー(4月14-17日)の最終日ということもあり、観光客の波は引いた後でしたが、4月21日木曜日がブラジルの祝日(O Dia de Tiradentes)の為に二週間連休にするブラジル人も多く居て、それなりの賑わいを見せていました。

先ずは為替レートが一直線で下がり続けている為に、相対的に物価が安くなっているアルゼンチンで給油を試みたのですが、国境に一番近い給油所は、ブラジルから来た車が長蛇の列をなしていたので、Puerto Iguazuの街中の給油所に行ったものの、店頭に価格の表示は無く、アルゼンチン人の列と外国人の列に仕分けられていて、しかもペソか米ドルの現金決済のみとのこと。仕方なく20ドル分を入れて貰ったところ、19リットルちょっと、つまり円換算で135円/ℓという値段での購入となりました。因みにパラグアイでのレギュラーガソリン価格はGs.8,310=156円、ブラジルではR$7.21=200円なので、それなりに得した気分でした。

次に酒屋でアルゼンチンワインを買おうと店に入り、めぼしいのを物色しつつクレジットカードの使用について店員に訊ねたところ、VISA/Master/AMEX等のカードは使用できるものの、決済レートがAR$40/US$程度になって損するから止めるように、とのアドバイス。一般に公示されている換算レートはAR$114/US$程度ですが、米ドル現金であればAR$140/US$で換算してくれるとのことで、1本AR$1,200のワイン2本を購入することが出来た上に、現金でブラジルR$10のお釣りまで貰えました。これをもしカードで決済していたら2,400÷40=US$60=7700円の引き落としとなっていた訳です。

前回最後にアルゼンチンに行ったのは2020年の1月で、この時は何でもカードで決済しましたが、僅か二年ちょっとの間にアルゼンチン経済は完全に昔に戻って公定レートと実勢レートの乖離が3.5倍になっており、ドル現金が無ければ何も楽しめない国、ベネズエラを彷彿とさせる状況に肝を冷やしました。一方、ブラジルとパラグアイとの国境には現在友情の橋という橋が架かっていますが、慢性的に発生している渋滞の解消の為に新しい橋の建設が進んでおり、ここを視察してきました。ブラジル側の三国国境公園には高さ88mの観覧車も設置され、昨年12月から営業しており、ここから眺める新橋建設現場の様子は、別の意味で驚きでした。

三国国境公園周辺は、観覧車だけでなく国際級のホテルも建設され、滝観光のお客様にとって新たな観光スポットが出来上がります。

前述のアスンシオン=エステ市の道路も、8割がたが複々線化工事が完了し、しかもこの橋が建設されるなど、パラグアイにおける交通インフラ整備のスピードは近年驚くべき速さで進んでおり、この橋が完成する来年初め頃にはエステ市周辺の経済環境も大幅に改善されることは間違いありません。パラグアイのインフラ整備に必要なセメントは現在ブラジル等からの輸入に頼っていますが、チャコ地方で新たに建設中のCECON社の年間200万トン能力の新工場が完成すると、更に各方面で開発が加速する事が予測されています。今週は、道路建設協会CAVIALPAの幹部がCECONの工事現場を訪問して、建設工事が予定通りに進んでいることに驚いたとの記事が掲載されました

https://www.lanacion.com.py/negocios_edicion_impresa/2022/04/20/cavialpa-se-sorprende-con-el-avance-visto-en-cecon/

良い意味での驚きに満ちたパラグアイ、これからも色々な新規案件で世界を驚かせることになるでしょう。