連載レポート88:桜井悌司「ラテンアメリカ主要国の文化人人名録 国別編 ペルー - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載レポート88:桜井悌司「ラテンアメリカ主要国の文化人人名録 国別編 ペルー


連載レポート89

ラテンアメリカ主要国の著名文化人・スポーツ選手等の人名録(ペルー編)

執筆者:桜井悌司(ラテンアメリカ協会常務理事)

「はじめに」

ラテンアメリカ協会のホームページの「投稿欄」に2021年4月から12月まで、12回にわたって、「ラテン好きのためのリベラルアーツ」というタイトルで連載しました。内容は下記の通りです。

1回目  ラテンアメリカのノーベル賞受賞者
2回目  ラテンアメリカの国花と国鳥
3回目  ラテンアメリカ出身のメジャーリーガーたち
4回目  ラテンアメリカの著名サッカー選手 上中下
5回目  ラテンアメリカの歴代オリンピック・ゴールドメダリスト
6回目  ラテンアメリカの著名建築家
7回目  ラテンアメリカの著名作家たち 上下
8回目  ラテンアメリカの著名ボクサー
9回目  ラテンアメリカの著名画家たち
10回目 ラテンアメリカの著名作曲家たち
11回目 ラテンアメリカの国際空港と人名
12回目 ラテンアメリカ主要国の紙幣と人名

これら一連のレポートは、ラテンアメリカ全域をカバーしていますが、個々の国に関心のある方から見ると使い勝手が悪いかも知れません。そこで今回、上記レポートを基本にして、主要国の著名文化人・スポーツ選手等の人名録を作成することにしました。さらに詳細な情報入手を希望される方は、上記のレポートにアクセス下さい。今回はペルーを取り上げます。内容は、下記の通りです。

1)ペルーのノーベル賞受賞者
2)ペルーの著名作家・詩人
3)ペルーの著名画家
4)ペルーの著名サッカー選手
5)国際空港に見るペルー人
6)紙幣にみるペルー人

1)ペルーのノーベル賞受賞者

ペルーには、ノーベル文学賞を受賞したマリオ・バルガス・ジョサがいる。

*Mario Vargas Llosa(マリオ・バルガス・ジョサ)  2010年文学賞受賞

1936年~  。 ペルーの作家、批評家、ジャーナリスト。主要な作品は、「都会と犬ども」(La Ciudad y los Perros)、「緑の家」(Casa Verde),「誰がパロミノ・モレロを殺したか(Quien mató  a Palomiro Molero?」等、翻訳多数。受賞理由は、「権力構造の地図と、個人の抵抗と反抗、そしてその敗北を鮮烈なイメージで描いた。」国際ペンクラブの会長を若くして務めた他、アルベルト・フジモリ氏とペルーの大統領選挙を争ったことで有名。1993年、スペイン国籍を取得。

2)ペルーの著名作家・詩人

ペルーの著名作家・詩人として下記の8名を紹介する。

*インカ・ガルシラーソ・デ・ラ・ベガ Inca Garcilazo de la Vega

1539年~1616年。スペインのコンキスタドーレスとインカの王族の娘との間に生まれたメステーソの歴史家、文学者。1561年にスペインにわたる。代表作は、「インカ皇統記」Comentarios reales de las Incasでインカの歴史、伝統、風習等を表した。

*リカルド・パルマ Ricardo Palma Soriano

1833年~1919年。ペルーのロマン主義、風俗主義作家で、現在のペルーでも最も敬愛されている 作家、学者である。初代国立図書館長。代表作は、「ペルー伝説集」Tradiciones peruanas でペルーの歴史、伝統、風俗等を詳細に紹介した。1969年には、彼の名前をとった「リカルド・パルマ大学」が創設されている。

*クロリンダ・マット・デ・トウルネル Crolinda Matto de Turner 

1852年~1909年。ペルーの作家でインデイヘ二スモ小説の先駆者。独立精神旺盛で、インデイヘナを擁護する作品で多くの女性を鼓舞した。物理学、自然科学、哲学を独学で学んだ。代表作は、小説「巣なき鳥」Aves sin nido、 「クスコ伝説集」 Tradiciones Cuzqueñas

*ホセ・マリア・アルゲダス José María Arguedas Altamirano

1911年~1969年。 ペルーの小説家、文化人類学者。ケチュア語を駆使し、インデイオノ世界を描くインデイヘ二スモの大家。ペルーの国民作家として敬愛されている。代表作は、「深い河」Los ríos profundos、 「すべての血」Todas las sangres。

*マリオ・バルガス・ジョサJorge Mario Vargas Llosa2010年ノーベル文学賞 受賞

1936年~  。 ペルーの作家、批評家、ジャーナリスト。主要な作品は、「都会と犬ども」LaCiudad y los Perros)、「緑の家」(Casa Verde),「誰がパロミノ・モレロを殺したか(Quién mató a Palomiro Molero?」等、翻訳多数。受賞理由は、「権力構造の地図と、個人の抵抗と反抗、そしてその敗北を鮮烈なイメージで描いた。」国際ペンクラブの会長を若くして務めた他、アルベルト・フジモリ氏とペルーの大統領選挙を争ったことで有名。1993年、スペイン国籍を取得。セルバンテス賞、アストウリアス皇太子賞も併せて受賞。

*アルフレド・ブライス・エチェニケ Alfredo Bryce Echenique 

1939年~ 。ペルーの作家。フランス、スペイン等欧州での生活が長い。代表作は、「ジュリアスの世界」Un mundo para Juliusでこの作品により、ペルーの国民文学賞とフランスの最優秀外国小説賞を受賞。その他「幾たびもペドロ」Tantas veces Pedroや「マルテイン・ロマーニヤの大袈裟な人生」La Vida exagerada de Martin Romañaがある。

*ホセ・ワタナベ José Watanabe

1945年~2007年。ペルーの日系詩人、児童文学者。クアデルノ誌の若手詩人コンクールで最優秀賞を獲得。児童文学の出版や日本の俳句にも造詣が深い。彼の作品の一部は、日本語でも翻訳されている。「ペルー日系詩人、ホセ・ワタナベ詩集」等。

*フェルナンド・イワサキ Fernando Iwasaki

1961年~  。ペルーの作家、歴史家、評論家で日系。バルガス・ジョサが高く評価している。現在、セビリャに在住し、スペインやラテンアメリカの有力紙に寄稿している。代表作は、10人の乙女の恋を描いた「悪しき愛の書」(Libro de mal amor),「ペルーの異端審問」(Inquisiciones Peruanas)等。

3)ペルーの著名画家

インターネットで検索すると下記のようなリストが出てくる。その中から、下記の5名を紹介する。
13 pintores peruanos que todo amante del arte debe conocer  por Regina Sierra 2020 Octubre  

画家名 画家名
Pancho Fierro (1807-1879) Rebeca Oquendo (1847-1941)
Teófilo Castillo Guas (1857-1922) Carlos Baca Flor (1867-1941)
Julia Codesido (1883-1979) Cota Carmillo (1909-1980)
Teodoro Nuñez Ureta (1912-1988) Fernando de Szyszlo (1925-2017)
Tilsa Tsuchiya (1928-1984) Alvaro Suárez Vértiz (1949- )
Luz Letis (1961- )  Kukuli Velarde (1962- )
Claudia Coca (1970- )  

 

*テオドロ・ヌニェス・ウレタ  Teodolo Nuñez Ureta

1912年~1988年。ペルーの画家、作家。後に国立美術学校のディレクターを務める。ペルーの最も重要な壁画家の一人。ラテンアメリカの美術において独創的かつ特異なスタイルで知られている。代表作は、ミラフローレス市役所にある壁画。社会正義のための闘いを取り上げたものが多く、人間性、喜び、悲しみを表現している。

*フェルナンド・デ・シスロ  Fernando de Szyszlo Valdelomar

1925年~2017年。ペルーの画家、彫刻家、版画家、大学教授。ラテンアメリカにおける抽象アーチストを推進した主要人物で、代表的なプラスチック・アーチストの一人。プレコロンビアを扱った作品が多い。主要作品は、「インティウァタナ」Intihuatana。彼の作品は、ペルー国内のみならず、米国のニューヨークのMOMA、グッゲンハイム美術館の他、ワシントン、ヒューストン、リマ、サンパウロ等で見ることができる。

*ビクトル・デルフィン Victor Delfín

1927年~  。ペルーの代表的な彫刻家、画家。日本でも知られた作品は、リマのミラフローレスのParque de Amor(アモール公園)にあるEl Beso(キス)というテーマの巨大な彫刻。1993年に設置されたが、カップルにとってのベストのフォト・スポット。彼の作品は、北米・中南米でも見られる。

*テレサ・ブルガ Teresa Burga

1935年~2021年。ペルーのビジュアル・アート、マルチメデイア・アート、コンセプチュアル・アートの先駆者。主要作品は、「Cubes」、「下手に描かれた手」(Mano mal dibujada)。2021年初めに死亡したが、直前に「Covit-19 声から声へ」というプロジェクトを手掛けた。ペルー国内のみならずメキシコ、アルゼンチン、スイス、ニューヨーク等で展示会を行った。

*アルバロ・スアレス・ベルティス  Alvaro Suárez Vértiz

1949年~ 。父親も画家で、国立美術学校のディレクターであった関係で、小さいころから絵画に目覚めた。ドン・キホーテにあこがれ、代表作に、「Don Quijote y Sancho」がある。メキシコでも創作活動を行った。作品は色とブラッシングを多用したものが多い。自分をCarabiticismoの創始者としており、新しい美術の流れを作ったと言われている。

「ペルーの代表的な建築とその設計者」

*Catedral de Cuzco 17世紀半ばに完成(クスコ)、Juan Bautista Egidiano(イエズス会)
*Cathedral of Arequipa、1800年代半ば(アレキーパ)、Lucas Poblete
*Municipal Theatre、1909年(リマ)、 Francisco Schmidt
*Archbishop’s Palace、1920年(リマ)、Ricardo Malachowsky
* Aldabas-Melchormalo Building、1932年(リマ)、 Augusto Guzmán Robles,
*Reiser and Curioni Building、1943年(リマ)、Augusto Guzmán Robles

4)ペルーの著名サッカー選手

ペルーは、ブラジルやアルゼンチンほどのサッカー大国ではないが、過去において名プレーヤーを出している。ここでは4名を紹介する。

*テオフィロ・クビージャス( Teofilo Juan Cubillas Arisaga) TOP9

1949年生まれ、1989年引退。 MF。 愛称は「El Nene」(赤ちゃん)。アリアンサ・リマ→FCポルト→フォートローダデール・ストライカーズ(米国)等。ペルー代表1968年~82年、国際試合81戦26得点。ペルーのサッカ―史上最高の選手と言われている。FIFAワールドカップに3度出場。1970年(最優秀若手選手賞、ベスト11)と1978年のWCではそれぞれ5点ずつ得点した。1972年のコパ・リベルタドーレスで得点王、南米年間最優秀選手賞を獲得。1975年には、コパ・アメリカで優勝。多くのランキングでも登場するペルーの数少ない選手。

*ウーゴ・エル・チョーロ・ソティル(Hugo Alejandro Sotil Yeren)

1949年生まれ、1987年引退。FW。 デポルテイーボ・ムニシパル→FC.バルセロナ→アリアンサ・リマ等。ペルー代表1970年~78年、国際試合62戦18得点。1970年代の最も評価されるプレーヤー。パスワークとドリブルで有名。1970年のFIFAワールドカップでベスト8に貢献,1975年のコパ・アメリカの優勝決定戦でコロンビアからゴールを奪う。1978年のワールドカップにも出場。 ラテンアメリカのサッカーに影響を与えたベスト10で第6位に選ばれている。

*フアン・カルロス・オブリタス(Juan Carlos Oblitas Saba)

1951年生まれ、1986年引退。 FW。 愛称「El Ciego」(盲人)。ウニベルシタリオ→ベラクルス(メキシコ)→スポーテイング・クリスタル等に所属。ペルー代表1973年~85年、国際試合63戦11得点。1975年のコパ・アメリカでペルー優勝。数多くのチームの監督を務めたが、ペルー代表監督として1996年~99年、2015年以降も監督を務めている。

*フーリオ・セサル・ウリベ(Julio Cesar Uribe)

1958年生まれ、1994年引退。 MF。 スポーテイング・クリスタル→カリアリ(イタリア)→アメリカ(メキシコ)等に所属。ペルー代表1979年~89年、国際試合39戦9得点。1982年ワールドカップ出場、87年、89年、コパ・アメリカに出場。監督としても実績があり、2001年と2007年のコパ・アメリカの監督、2000年~02年、2007年ペルー代表監督。

5)国際空港に見るペルー人

インターネットで検索すると、ペルーには89の空港がある。内国際空港は5で、国内空港は84となっている。人名のつく空港は31空港である。ここでは、下記4空港を選択する。

ペルーで人名のついた空港 4空港

空港所在都市 空港名、人名
Lima Aeropuerto Internacional Jorge Chávez
Cuzco Aeropuerto Internacional Alejandro Velasco Astete
Arequipa Aeropuerto Internacional Rodríguez Ballón
Iquitos Aeropuerto Internacional Coronel FAP Francisco Secada

* ホルヘ・チャベス  Jorge Chávez

1887年~1910年。リマ国際空港名は彼の名前に因んでいる。航空機の初期段階に活動したペルーのパイロットで、ペルー人両親の元パリで生まれた。フランスの航空学校で操縦を学んだ後、1910年に初飛行で欧州の飛行競技会で次々と高度飛行記録を作る。1910年、アルプス越えの飛行に挑戦するが、着陸寸前に墜落死した。彼の墓はフランスにあったが、ラス・パルマスにあるペルー空軍の将校学校に安置されている。

* アレハンドロ・べラスコ・アスターテ  Alejandro Velasco Astete

1897年~1925年。クスコ国際空港名は彼の名前に因んでいる。ペルーのパイロット。第一次世界大戦に連合軍に参加。准尉としてパイロット教官となる。リマからクスコまで直行フライトでアンデス山脈を越えた最初のパイロット。その後1925年にプノ市で行われたエアーショーで観客を避けるために墜落死亡した。28歳の若さであった。ペルーの航空業界にパイオニア的役割を果たした。

* ロドリゲス・バロン  Alfredo Rodríguez Ballón

1906年アレキーパ生まれ~1933年。アレキーパ国際空港名は彼の名前に因んでいる。ペルーの民間航空の推進者。カリフォルニアの米国航空学校で機械のメカニックについて学ぶ。卒業後、航空会社のPANAGRA社に入社。コロンビアとの紛争に参加。機構の急激な変化により墜落死した。27歳の生涯であった。

* フランシスコ・セカーダ大佐  Coronel FAP Francisco Secada

1900年イキトス生まれ~1972年。イキトス国際空港名は彼の名前に因んでいる。ペルーの空軍パイロット。15歳でペルー海軍学校に入学、卒業後海軍に勤務したが、1929年に飛行士になるためにラス・パルマス学校に入学。1931年パイロットの資格を得る。母親にあてた手紙で「イキトスに飛行機で戻ります」と書いた。コロンビアとの紛争が始まると、前線に志願し、勇敢に戦った。そして約束通り、飛行機でイキトスまで直行した。爆撃機で数々の戦果を挙げた。後に、ロレート県選出の上院議員を務めた。

6)紙幣にみるペルー人

ペルーの紙幣は下記の5種類である。軍人のキニョーネス、外交官政治家のポーラス、著作家のバルデロマール、歴史家のバサードレ、ペルー等の守護聖人のサンタ・ローサ・デ・リマと5人とも様々な分野からの代表である。

金額 色彩 人名
10ソル 緑色 José Quiñones González
20ソル オレンジ色 Raúl Porras Barrenechea
50ソル 茶色 Abraham Valdelomar Pinto
100ソル 青色 José Basadre Grohmann
200ソル ピンク色 Santa Rosa de Lima (Isabel Flores de Oliva)

*ホセ・キニョーネス・ゴンサレス  José Abelardo Quiñones Gonzalez

1914年~1941年。ペルーの軍人飛行士。1941年のペルー・エクアドル戦争においてサルミージャの戦いで戦果を挙げたが、同年7月23日にエクアドル軍の砲撃で墜落死。ペルー政府は1966年法律で彼を国民的英雄とした。7月23日は、「ペルー空軍の日」となっている。生まれ故郷のチクラヨの空港は、「Aeropuerto Internacional Capitán José AbelardoQuinoñes González」と命名されているほか、リマのサン・イシドロには彼のモニュメントがある。

*ラウール・ポ-ラス    Raul Porras Barrenchea

1897年~1960年。ペルーの外交官、歴史家、政治家。サンマルコス大学で法学士、哲学・歴史・文学博士号を取得。後にサンマルコス大学やリマ・カトリック大学で教鞭をとる。1957年、上院議長、1958年~60年外務大臣を務める。ペルー外交の指導的人物で卓越したヒスパニストの歴史家。著作には、インカ・ガルシラーソ・デ・ラ・ベガやピサーロ等ペルーの歴史関連の書籍が多数。

*アブラハム・バルデロマール   Pablo Abraham Valdelomar Pinto

1888年~1919年。ペルーの語り手、詩人、エッセイスト、ジャーナリスト、劇作家。ペルーにおけるアヴァンギャルドの創始者と言われている。先住民のストーリー、とりわけインカ時代のケチュア社会を多く取り上げた。代表作は、「肺結核者の町」Ciudad de los tisicos、「カルメロ紳士」El caballero Carmelo、「太陽の息子たち」Los hijos del sol。

*ホルへ・バサードレ   Jorge Basadre Grohmann

1903年~1980年。ペルーの偉大な歴史家、文芸評論家、政治家。ペルーの共和国ジダ近代史について多数の著作を発表した。教育大臣を2期務めた他、ペルー国立図書館館長、サンマルコス大学、ペルーカトリック大学教授も歴任。サンマルコス大学、主要作品は、「ペルー共和国の歴史」。生まれ故郷のタクナには、「Universidad Nacional Jorge Basadre Grohmann」という大学がある。

*サンタ・ローサ・デ・リマ Santa Rosa de Lima(Isabel Flores de Oliva)

1586年~1617年。ペルー生まれのアメリカ大陸初の聖人。本名はIsabel Flores deOliva。厳しい苦行を行ったことで知られており、31歳で死亡。死後の1671年、クレメンス10世により、列聖された。刺繍や庭師の守護聖人。またペルー国家警察、パラグアイ国家警察、アルゼンチン陸軍の守護聖人の他、フィリピンの守護聖人でもある。ペルーでは、8月30日はサンタ・ローサの日で祝日に指定されている。

以    上