執筆者:深沢正雪(ブラジル日報編集長)
この原稿は、5月31日付けのブラジル日報のWEB版の記者コラム 「海岸山脈」に掲載されたものを、同紙の許可を得て転載させていただいたものです。
リオのコルコバードの丘にあるキリスト像
グーグルは5月24日「ストリートビュー(以下SVと略)」が15周年を迎えたと発表した。「SV」とは、9つのカメラとLiDARセンサーを搭載した車で世界中の通りを撮影し、その場所を訪れたかのようにコンピューター上で見られるサービスだ。これまでにSVカーが走行した距離は実に1600万kmを超え、現在100カ国以上をカバーしているという。
同社はこの機会に、SVで過去1年間、最も人気だった観光地や都市などのランキングを発表した。国別では1位インドネシア、2位米国、3位日本、4位メキシコ、5位にブラジルが入った。6位スペイン、7位イタリア、8位台湾、9位フランス、10位英国と続く。ブラジルは経済力以上に注目されていることが分かる。
都市別では1位にジャカルタ(インドネシア)、2位東京(日本)、3位メキシコシティ(メキシコ)、4位サンパウロ(ブラジル)だった。5位ブエノスアイレス(アルゼンチン)、6位ニューヨーク(米国)、7位イスタンブール(トルコ)、8位台北(台湾)、9位パリ(フランス)、10位は大阪(日本)がランクインした。
リオよりもサンパウロが入ったのは、観光よりもビジネスなどでSVが使われているせいか。実際、観光地と限定するとは、以下に★印を付けた通り、リオが圧倒的な存在感を見せる。
《SVで最も訪問された世界の観光地トップ10》
(1)「ブルジュ・ハリファ」アラブ首長国連邦
(2)「エッフェル塔」フランス
(3)「タージマハル」インド
(4)「自由の女神像」アメリカ
(5)★「クリスト・レデントル(リオのキリスト像)」ブラジル
(6)「ライオライト・ラビリンス」米国
(7)「ギザのネクロポリス」エジプト
(8)「ホワイトハウス」アメリカ
(9)「コロシアム」イタリア
(10)「国定公園」インドネシア
《SVで見るブラジルの3大観光名所》
(1)★クリスト・レデントル
(2)★ペトロポリス大聖堂(サンペドロ・デ・アルカンタラ聖堂)
(3)ベット・カレロ ワールド(SC州)
リオから内陸部に入った場所にあるペトロポリス大聖堂
印刷版の読者には大変申し訳ないが、せっかくなので「SVで見るブラジルの3大観光名所」を案内してみたい。
最初は1位、有名なリオのキリスト像(https://urlzs.com/ofch8)だ。せっかくなので360度ぐるりと見てもらい、リオ市街の美しい眺めを堪能してはどうか。
キリスト像建立90周年を記念して解説したコラム、ニッケイ新聞21年10月19日付《記者コラム》〝魂〟が込められたキリスト像=なぜ人々はリオに心惹かれるのか(https://www.nikkeyshimbun.jp/2021/211019-column.html)もぜひ読んでもらい、その歴史や由来を知って欲しい。
おまけで、リオの有名観光地ポン・デ・アスーカルの山頂からの夜景絶景360度動画(https://urlzs.com/FH3H5)もアップされていた。
次に2位のペトロポリス大聖堂(https://urlzs.com/84K1v)。ブラジルが帝政時代だった1884年に皇帝ドン・ペドロ2世と娘イザベル王妃によって建設が始められ、すぐに共和制革命が起きて一時中断し、その後工事を再開して1969年にようやく完成した大聖堂だ。同皇帝もそこに眠るなど、ブラジル王室と所縁の深い教会として有名だ。
夏場のリオは暑いため、その当時は、避暑のために高原地帯にあるペトロポリスに首都をうつしていた時代だ。SVで360度見てもらえば、石畳に椰子の木の街路樹が植えられたのどかな町の景色が堪能できる。教会内部の写真も多数アップされている。
3位のベット・カレロ・ワールードは、サンタカタリーナ州北部にある、ラテンアメリカ最大の遊園地。トリップ・アドバイザー調査では2014年、世界の良い遊園地リストの6位に選ばれた。1991年創業、14キロ平米の広大な敷地に、テーマ別に11のエリアが作られている。参考360度画像。(https://urlzs.com/Aghhu)
オマケで、有名なイグアスの滝の最上部「悪魔の喉笛」をアルゼンチン側からみた360度画像(https://urlzs.com/r3jy5)。下流のブラジル側から見た360度画像( https://urlzs.com/eT6Dq)も臨場感タップリだ。
個人的な趣味で紹介したい場所としては(1)「サンタカタリーナ州リオ・ド・ラストロ山脈」(Serra do Rio do Rastro)を登るつづら折りの坂道だ。ここは日光の九十九折りそっくり。海岸沿いは亜熱帯でも、ここを登っていくと上は高原になって一気に温帯気候に変わる。(https://urlzs.com/8PToJ)
海岸山脈と呼ばれるこの壮大な風景がどのようにしてできたのか、《海岸山脈はどうやって生まれたのか》(https://www.nikkeyshimbun.jp/2017/170307-column.html)、《樹海=実は壮大なブラジルの歴史物語》(https://www.nikkeyshimbun.jp/2020/200728-41colonia.html)としてまとめてある。ぜひ読んで欲しい。
(2)アマゾン川河口の最大の町パラー州ベレンのベル・オ・ペーゾ市場の川岸の360度画像。(https://urlzs.com/6VqT4)も興味深い場所だ。
(3)「もしやリオのファベーラはSVがあるのだろうか?」と思って見てみた。リオ市のイパネマ海岸近くにある有名なファベーラ「カンタガーロ」に人形マークを置こうとしてみたら、SV車が撮影した道路を示す青い太線が一本もその地区に入ってなかった(写真)。やはり、危なくて撮影できないようだ。
(4)あと、サンパウロ市南部のビジネス街ベリーニ地区(https://urlzs.com/drBCV)。これは、日本のステレオタイプの「ブラジル」から、だいぶ外れるのではないか。周りにはガラス張りの高層ビルばかり。これだけ見たら欧米の都市かと思うだろう。ファリア・リマ大通りとジュッセリーノ・クビチェッキ大通りの交差点だ。
特殊鋼鉄の大鳥居
(1)サンパウロ市リベルダーデ区東洋街の目抜き通りガルボン・ブエノ街( https://urlzs.com/GbXTZ)。右にスーパー「丸海」、左に化粧品店「池崎」。まっすぐ進むと大鳥居が見えてくる。
(2)日系人の多いパラナ州北部のアサイ市には「アサイ城」( https://urlzs.com/7cGnN)が建っている。元々は戦前にブラジル拓殖会社が日本人移住地として始めた町で、日本移民100周年を記念して当時のブラジル人市長が建設を始めた。その経緯は次のようにニッケイ新聞が詳しく報じている。
18年7月3日《アサイ=冗談から始まった「旭城」=ブラジル初の日本式城の裏話(上)ブラジル人市長奮闘、大半の日系反対》(https://www.nikkeyshimbun.jp/2018/180703-71colonia.html)、18年7月4日《ブラジル》アサイ=冗談から始まった「旭城」=ブラジル初“日本式”城の裏話(下)シンボル、観光活性化に期待(https://www.nikkeyshimbun.jp/2018/180704-72colonia.html)
(3)サンパウロ市近郊モジ・ダス・クルーゼス市の「お茶屋敷(Casarão do Chá)」(https://urlzs.com/kCm3A)も、和風ガウディのような不思議な建築だ。長野県の片倉財閥の中核企業「片倉製糸」の今井五介が私財で土地を購入し、農学士の揮旗深志、大工の花岡一男が建設に関わって、戦争中の1942年に完成したという由緒ある建物だ。ニッケイ新聞19年10月8日《青年海外協力隊員から陶彫作家、モジお茶屋敷へ》(https://www.nikkeyshimbun.jp/2019/191008-column.html)に詳細が書いてある。
(4)サンパウロ州サンジョゼ・ドス・カンポス市の小島隆治公園にある鋼鉄の鳥居はSV(https://urlzs.com/amF6v)からもしっかりと確認できる。2008年に日本移民100周年を記念して、高さ17メートルの特殊鋼製巨大鳥居が建立されたもの( https://www.nikkeyshimbun.jp/2008/080703-72colonia.html)。ブラジルが誇る世界的な飛行機製造会社エンブラエルのお膝元だけに、日本にはない実にモダンなデザインの大鳥居で、ある意味、ブラジルらしい。近づいた画像(https://urlzs.com/gfVPL)を見るとさらに大きさが感じられる。
エスピリット・サント州にあるアメリカ大陸唯一の大仏
(5)アメリカ大陸唯一の大仏(https://urlzs.com/MHPT8)も、必見ポイントだろう。全長35メートルもあり、リオのキリスト像より大きい。しかも世界最大のカトリック人口を誇るキリスト教大国において、ブラジル人の禅宗僧侶が作ったという意味でも興味深い。やはりその経緯について連載記事がある。ニッケイ新聞21年9月15日《ブラジルに35mの大仏出現=小さな町が仏教で地域おこし=静岡県の永明寺の協力で建立(上)》(https://www.nikkeyshimbun.jp/2021/210915-21colonia.html)、同9月16日《ブラジルに35mの大仏=小さな町が仏教で町おこし(中)=「鬼の宗教」と拒否された歴史超え》(https://www.nikkeyshimbun.jp/2021/210916-21colonia.html)、同9月17日《ブラジルに35mの大仏(下)=「修業は終わりがない。生涯続く」》(https://www.nikkeyshimbun.jp/2021/210917-21colonia.html)。
SVとは関係ないが、(6)ブラジル日本移民史料館(山下リジア運営委員長)も、展示内容を全てバーチャルで見られるサイト(https://www.bunkyo.org.br/br/museu-historico/)を立ち上げている。ぜひ一度のぞいてみて欲しい。(深)