連載エッセイ164:硯田一弘 「南米現地最新レポート」その34 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載エッセイ164:硯田一弘 「南米現地最新レポート」その34


連載エッセイ161:硯田一弘

「南米現地最新レポート」その34

執筆者:硯田一弘(アディルザス代表取締役)

「6月5日発」

この一週間は久々に各地を走り回りました。

先ず日曜日午前中にチャコ地方の中心地Mariscal Estigarribia(アスンシオンから520㎞)に行って打合せを行い、その足でPuerto Casado(約360㎞)に移動、ここで一泊して月曜日朝打合せを済ませてからアスンシオンに戻りました。(約560㎞、合計約1500㎞)

火曜日はアスンシオンから東の街Ciudad del Este(約320km)にあるプロジェクト事務所に出向いて打合せをし、日本人移住地であるYguazú市で一泊、水曜日朝出発してブラジルのCuritiba市(690㎞)に行って面談をこなし、木曜早朝にクリチバを発ってエステ市に戻り、また打合せをしてから金曜日にアスンシオンの自宅に戻りました。(合計約2100㎞) 6日間で3600㎞走行というのは、2019年末にアルゼンチン・ボリビア旅行で走った3500㎞を上回る新記録です。因みに北海道北端の稚内から鹿児島まで走ると約2900㎞とGoogleで表示されます。

とは言え、北米アラスカのアンカレッジから南米アルゼンチンのブエノスアイレスまで約2万キロを一か月で走破した猛者が岐阜県中津川市に居られますので、このくらいはたいした距離ではないとも言えます。

しかし、これは5年前だったら不可能なスケジュールでした。Mariscal Estigarribiaとアスンシオンを結ぶ国道9号線は、アスファルト舗装はされていたものの、至る所に大きな穴が開いていて場所によっては時速30㎞程度で走ることを余儀なくされましたし、エステ市に向かう国道2号線も全線対面通行の細い道路で、しかもトラックなど速度の遅い車の交通量が多いので、至る所で渋滞が発生して、混雑時には到着時間が全く読めないという状況でした。友人が見つけてくれた2013年のイグアス市を紹介するサイトをご覧ください。 https://inaka-pipe.net/20131209/

9年前は、この写真にあるような対面通行の一本道だった訳です。今回ほぼ同じ場所から撮影してみました。

本線片側二車線+側道1車線の計6車線が整備されていて、これがアスンシオン近郊Itacurubiからエステ市まで240kmに亘ってほぼ完全に整備されています。

途中、ItacurubiとColonel Obiedoという街で旧道にぶつかりますが、Obiedoではバイパスの整備が進んでおり、Itacurubiのバイパス工事も今週開始されたと報道されています。https://www.abc.com.py/nacionales/2022/06/02/tras-cambio-de-trazado-para-no-afectar-nacientes-se-inician-obras-de-la-circunvalacion-de-itacurubi/

更に巡礼の聖地Caacupéや交通の要所Ypacaraíでも工事が進んでいますので、今年中にはアスンシオン郊外20㎞地点あたりから300㎞に亘る高速道路が整備されることになりそうです。 https://www.mopc.gov.py/index.php/noticias/ruta-py02-avanza-construccion-de-las-variantes-de-caacupe-y-coronel-oviedo

先月はブラジルのサンパウロまでバスで行きましたし、今回クリチバまで走ってみてわかったのですが、ブラジルの立派な高速道路は大都市周辺の精々50㎞程度が複線で、後は対面の道路が多いのに対し、パラグアイの2号線は東西二大都市を結ぶ300㎞が全線複々線化されて、正面衝突のリスクの無い道路ということになります。またチャコ地方に伸びる9号線でも同様の工事が順調に進んでいて、2号線に比べれば遥かに交通量の少なく直線の長いチャコ地方は自動運転がいち早く導入できる環境が整っている稀有な環境です。

今日の言葉varianteは、新型コロナの変異株を指す単語(variante Omicron等)として認識されていますが、パラグアイでは住宅や商店が密集して道路の拡張が困難なエリアでの迂回路という意味でも使われる事も多い昨今です。因みに嘗て渋滞のボトルネックだった国道2号線の真ん中の街Caaguazúは、迂回をさせないで旧道を整備して街中を貫通させる片側3車線+側道2車線の計10車線という凄い道路になっています。

ドライブを趣味とする世界中の人達を魅了すべく変貌するパラグアイ、是非レンタカーで走ってみてください。

「6月12日発」

今朝のアスンシオンは久々に外気温3℃、今年一番の寒さとなりました。南部イタプア県の日本人移住地ピラポ市では0℃まで下がって霜がおりたとの報道も。

南極からの寒波が来ているためで、日中も快晴だったにもかかわらず15℃程度までしか気温は上がらず、肌寒い日となりました。低い気温は火曜日くらいまで続く模様で、収穫期を迎えた小麦やトウモロコシが霜害に遭わないか心配の声もあがっています。向こう二週間の予報では、水曜日には一旦暖かくなるものの、まだ暫くは長袖の必要な日が続くことになるようです。

ところで、日本でもようやく観光入国が再開され、飲食や宿泊業の皆さんの期待の声が聞こえますが、アスンシオン近郊の保養地アレグアに新しいホテル・レストランが開業予定との記事がLa Nacion紙に掲載されましたのでご紹介します。

https://www.lanacion.com.py/la-nacion-del-finde/2022/06/11/este-sera-nuestro-legado-un-viaje-en-el-tiempo/

総面積2ヘクタールもの敷地内にある古い駅舎や建物を回収してモダンな設備を備えた44の客室と、500人を収容できるイベントホールを持つという観光ホテル開発はコロナ禍により開業が遅れたものの、7月には仮オープン予定とのこと。

7月のアレグアと言えば、例年恒例の苺祭りが催され、多くの観光客が押し寄せる場所。リゾート再開発が進むウパカライ湖北側のサンベルナルディノと併せ、この地域は益々観光地として人気を集めることになりそうです。

「6月19日発」

今週は日本ラテンアメリカ協会のオンラインイベントで昨年4月に続いて二回目のパラグアイ紹介をさせて頂きました。今回は住宅事情と生活情報という話題を参加者の皆さんにお届けしました。また、東証プライム上場企業である萩原工業が、製造業として9年ぶりに日本からパラグアイに進出することが発表されたので、その事もお伝えしました。

https://infonegocios.com.py/nota-principal/empresa-japonesa-producira-en-paraguay-fibra-sintetica-para-construccion-su-primera-inversion-en-latinoamerica

パラグアイの代表的な経済2紙がニュースとして取り上げました。https://www.5dias.com.py/locales/empresa-japonesa-se-establecera-en-ciudad-del-este
この会社が作るバルチップという特殊繊維は建設や土木工事の現場でコンクリートに混ぜて使われるもので、かつて土壁に藁を混ぜて強度を上げたのと同じ理屈でコンクリートの強度を大幅に引き上げる効果を持っていて、南米ではチリやペルー・コロンビアの鉱山やブラジルの工場建設等の現場で多く使用されています。

https://www.barchip.co.jp/business/

以前もお伝えした通り、パラグアイでは今年末の完成を目指して年間200万トンの生産能力を持つセメント工場が建設されており、完成後は国内の道路舗装等の現場で従来の石畳(enpiedrado)から路面のスムースなコンクリート道路に置き換わることが予定されています。伝統的な石畳の工事。パラグアイの石は切り出して破砕した角の多いもので、ゴツゴツしていてクルマでは走りにくいし、歩くのも大変!

一方、従来のコンクリート舗装では鉄筋や鉄製の網を地面に敷いて、それからコンクリートを流しいれるという工法が取られ、手間とコストがかかるために舗装無しの土道が多く残っているのが実態でした。

こうした手間を省いて、工期を短縮し、更にコンクリートの強度を上げることが出来るのが、バルチップに代表される繊維補強コンクリートと言う訳です。

世界的に重要性が増しているこの工法ですが、ウィキペディアではスペイン語版もポルトガル語版も無いというのも特徴的なことで、南米ではこの資材の認知度が未だ高くない=大きな市場性があると言えるでしょう。

こうした土木技術の進化によって、道路インフラも飛躍的に整備され、パラグアイが益々南米経済における重要性を高めていくことは間違いありません。

アスンシオンの最新シネマコンプレックス(映画館)であるCineMarkのマーケティングマネジャーがコロナ禍で劇場が閉鎖されていた間に、チケットのオンライン購入のためのアプリを大幅に進化させ、顧客と劇場の双方にメリットのあるeコマースの仕組みを構築したという記事です。

日本では当たり前かも知れませんが、映画館の数自体が少なかったパラグアイでは、逆に新しい劇場が新しい仕組みを導入しやすく、今では携帯のアプリでチケットを割引価格で購入し、入場の際にスマホの画面に映し出されたQRコードを機械にかざすだけで鑑賞できる仕組みになっています。映画の料金も日本の三分の一程度、しかもスクリーンの数も多く、一つの劇場での選択肢も沢山あるパラグアイ、映画ファンにも魅力的な環境が整っています。ちなみにこの記事で登場したマネジャーはパラグアイで最古のレストランBar San Miguelのオーナー一族です。

Restaurante Bar SanMiguel

古い仕事をするファミリーの中から最新デジタル技術のサービスも生み出されています。

「6月26日発」

円安の進行が物価にも大きく反映してきています。日本では卵やモヤシ、バナナなどが物価の優等生と言われてきましたが、こうした食材にも円安の影響は出てきています。

https://news.yahoo.co.jp/articles/b08ef9fd55b094393f6c4c1417c3b5020859f9c8

パラグアイではモヤシの生産は盛んではないものの、モヤシの原料となる緑豆の生産は行われていて、日本で食べられているモヤシの原料となっています。卵では、パラグアイで消費される半分近くを生産する120万羽の養鶏場が日本人の手で経営されていますが、現状では日本市場には届いていません。勿論、生鮮食品であるバナナも栽培されていますが、隣国のアルゼンチンが主要な輸出先となっています。

このバナナ、実は世界中で同一の品種が栽培されていて、この為に病害に弱く一旦病気が発生すると世界レベルで供給が止まるリスクを孕んでいることはあまり知られていません。https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210312/k10012906411000.html

今回ご紹介するのは、国立アスンシオン大学農学部の研究チームがバナナの病害の原因を突き止めたというニュース。https://www.ultimahora.com/paraguayos-descubren-hongos-y-bacterias-que-afectan-plantaciones-banana-n3008813.html

この研究成果によって、バナナ産業が生き残れるということが書かれています。

パラグアイのバナナ産地は西のアスンシオンと東のエステ市の中間ほどに位置するCaaguazú県のTembiaporáという村で最も多く栽培されていて、総面積7千ヘクタールのバナナ園から年間約4万トンのバナナが主にアルゼンチンに輸出されています。

https://www.youtube.com/watch?v=28DGewMdt8A

日本のバナナの輸入量は約100万トン、4分の3はフィリピンから、残りはエクアドル・メキシコ・グアテマラ等の中南米産からの輸入となっています。

バナナは熱すると美味とは言えない芋の様な味に変化するので、加工には向かない食品ですが、これまでも飼料用などへの応用を検討するなど、いろいろな試みが加えられてきました。今回パラグアイで病気対策が出来上がると、世界のバナナを救う事になるかも知れません。期待しましょう。

以   上