『レジリエンス人類史』 稲村哲也・山極壽一・清水展・阿部健一 編 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『レジリエンス人類史』  稲村哲也・山極壽一・清水展・阿部健一 編


ホモサピエンス(賢いヒト)は、これまで幾度となく飢餓、災害、戦争、征服、感染症パンデミック、環境悪化など、危機に直面しながらも、それらを生き抜く「知」、すなわち“resilience”を発揮して克服してきた。

本書は、人類の起源と進化を、霊長類研究者、人と環境相互の生態研究者、焼き畑農業や狩猟、牧畜を生業とする社会をフィールドとしてきた文化人類学者の4人が編者となり、他に22人の研究者等によって纏められたレジリエンスの視点からの総合的な人類史。
ラテンアメリカを直接対象としているのは、「Ⅱ部食糧生産革命と文明形成」で、古代都市テオティワカンのレジリエンスを「メソアメリカ古代文明の超克-新大陸にうまれた生存戦略」(杉山三郎愛知県立大学名誉教授)、古代の大災害に機能しなかった神殿の放棄などを「機能しないレジリエンス-アンデス文明の盛衰にみる文化的内旋」(大貫良夫東京大学名誉教授)、「Ⅲ部レジリエンスの多様なひろがり」ではガリンペイロ(金採掘人)が侵入し持ち込む感染症に因る分断を「ヤマノミのこれまでとこれから-アマゾン先住民の強さと弱さ」(探検家の関野吉晴武蔵野美術大学名誉教授)、インカ時代の伝統「殺さない狩猟」や高度差を利用した農耕、ユニークな牧畜を「アンデス先住民社会の伝統と変容-「レジリエンス史観」から見える出来事として」(稲村哲也愛知県立大学名誉教授)の4編が取り上げられていて、それぞれラテンアメリカの“弱さ”を“強み”に変えたヒトの歴史、〈多様性〉と〈柔軟性〉を支えにしようとする新たな視点を提起してくれる。

〔桜井 敏浩〕

 (京都大学学術出版会 2022年3月 526頁 2,500円+税 ISBN: 978-4-8140-0401-0 )
〔『ラテンアメリカ時報』 2022年夏号(No.1439)より〕