広大な中南米の歴史で、もっぱら革命や民衆運動、政治や戦争などの舞台で力のせめぎ合いをしてきた男たちの功罪、生き様から語られているが、彼らの傍らには常に家庭を守り、財産を管理し、子どもを生み価値観や習慣を教え、生計のために働いてきた女たちが居たことは言及されていない。中には政争に明け暮れる男に大きな影響力を行使して歴史を動かしたり、自ら社会的矛盾と戦い、革命の先頭に立った者、あるいは芸術や文学の分野で輝かしい業績を遺した女たちもいる。本書では上巻で21人、下巻で22人の計43人のラテンアメリカの歴史に遺る女たちが織りなす歴史絵巻が展開されている。
著者は、外交官だった夫君とともに、1965年よりメキシコ、アルゼンチン、ドミニカ共和国、ホンジュラス、ベネズエラ等中南米各地に在住し、その間メキシコ国立大学でコロニアル時代史、主にキリスト教布教史を聴講、アルゼンチンではイエズス会のグアラニ伝道史の研究に打ち込み『幻の帝国 -南米イエズス会士の夢と挫折』(2001年 同成社https://latin-america.jp/wp-content/uploads/2021/11/handbook.pdf )の著作を表している。本書は2006年から10年間40回にわたって本誌季刊『ラテンアメリカ時報』に連載された「歴史の中の女たち」を基に加筆したもので、これまでラテンアメリカ史に実は大きな影響力を及ぼしながら明らかにされることが少なかった女たちに焦点を合わせた魅力ある物語りの数々は、歴史の背景を知る楽しみを与えてくれ一読に値する。
〔桜井 敏浩〕
(五月書房新社 上-2012年10月 296頁 2.300円+税 ISBN978-4-909542-36-6
下-2022年 4月 384頁 2,500円+税 ISBN978-4-909542-39-7)
〔『ラテンアメリカ時報』 2022年夏号(No.1439)より〕