『古代アンデスにおけるワリ国家の形成 -小集落からみた初期国家の出現過程』 土井正樹 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『古代アンデスにおけるワリ国家の形成 -小集落からみた初期国家の出現過程』 土井正樹 


古代アンデス文明における初期国家の政治形態は、大規模遺跡を上位とし小規模遺跡を下位とするピラミッド型の支配構造が想定されていたが、本書はアンデス地域に生まれた最初の帝国といわれる「ワリ」を、ピラミッド型の頂点で国家社会を統率したリーダーの視点からではなく小集落に暮らす一般の人たちの下からの視点から捉え直そうとするもので、中央アンデスの中間ホライズン(紀元後650年~1000年頃)に栄えたワリ国家の形成過程と小集落に暮らす一般の人の国家形成の長期にわたる関わりを明らかにすることを目指している。著者が行ったアヤクーチョ谷での踏査・発掘調査での遺構、出土品を分析し、土器については装飾以外の製作技法の属性、通時的変化を明らかにし、経済活動、祭祀施設の建築がワリの形式過程とどのように関連しているか、発掘された土偶と小像と小集落での祭祀と関わり、小集落の人々にとっての国家の意味を考察している。最後にタンタ・オルホ遺跡での墓とワリ期の墓との関連性から、墓の構造と社会的地位との関連付けを批判的に検討し、小集落住民に対する国家体制の干渉と住民の主体性についての考察によって、社会的リーダーの役割だけを重視する国家形成論からの脱却を図ろうとした労作。
著者はアンデス考古学、文化人類学を専攻する関西外国語大学准教授で、博士学位論文を見直し、加筆修正したもの。

〔桜井 敏浩〕

(臨川書店 2022年2月 314頁 18,000円+税 ISBN978-4-653-04189-4 )
〔『ラテンアメリカ時報』 2022年夏号(No.1439)より〕