『燃やされた現ナマ』 リカルド・ピグリア - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『燃やされた現ナマ』  リカルド・ピグリア


1965年ブエノスアイレス郊外の町で、共犯者、犯行の手引き者、役人の協力や軍の武器の横流しを受けるなどして犯罪を重ねてきた4人の若者が、郊外の銀行支店からの現金輸送車を襲撃した。メレレス、ドルダ、ネネの3人は銀行職員と警備員を殺害して多額の現金を強奪、途中でも殺人を行い、追跡のパトカーを振り切って隣国ウルグアイのモンテビデオに逃げ込み、食料や酒、行きがかりで買ったコカインやマリファナなどと、自分たちの取り分300万ペソの現金と大量の銃器弾薬を持って、リーダー格の元政治犯のマリートが手配した市内のアパートに潜む。4人はブラジルかパラグアイ、あるいはメキシコへの逃亡のための書類を整えてマリートが戻るのを待つが、ほどなくブエノスアイレス都市圏北部を管轄する捜査官で陣頭指揮を任されたシルバをはじめウルグアイ警察の知るところとなり包囲される。3人はシルバ、ウルグアイ警察との15時間余の壮絶な銃撃戦を交え、奪った千ペソ札に火を付けて窓からばらまくなどする様子は新聞やテレビが中継したが、結局天井や壁に穴を空けて攻撃されてメレレスとネネは射殺され、瀕死の重傷を負ったドルダは運び出される途中警官たちや市民からリンチに遭う。警察側も8人の死傷者を出して事件は収束したが、ドルダは傷が癒えるとブエノスアイレスに強制送還され翌年監獄での囚人暴動の最中に殺害された。警察のスパイの手に寄るとうわさされている。マリートはブエノスアイレスに戻り1969年の銃撃戦で落命したとかパラグアイに逃れ1982年に癌でこの世を去ったとか諸説がある。
著者の分身とも見られる新聞記者が現場で書いた記事や、関係者の尋問証書等の資料、アパートに警察が仕掛けた盗聴器の会話記録などを駆使して、犯人たちの生い立ち、犯罪者になった経緯、家族や愛人、強奪事件に関わった人たちの寸描をも組み込んで、警察と犯行グループの攻防をジャーナリスティックな文体でテンポよく描いている。エピローグで「この小説に描かれているのは実際に起こった出来事である」と書いているが、もちろんフィクションとノンフィクションを融合した文学作品である。著者は現代アルゼンチン文学を代表する作家(1940~2017年)。

〔桜井 敏浩〕

(大西 亮訳 水声社 2022年3月 246頁 2,400円+税 ISBN978-4-8010-0622-5 )
〔『ラテンアメリカ時報』 2022年夏号(No.1439)より〕