17世紀に南米南部、現在のアルゼンチン、パラグアイ、ブラジルで、グアラニ族社会の中にイエズス会士が「神の王国」とも言うべき伝道村を建設し、カトリックに改宗したインディオ達に教義とともに音楽、美術、建築などを教えた。イエズス会士の活動は結局スペインとポルトガル本国政府の政治的な抗争の結果南米から追放され、踏み留まった宣教師たちと信者のインディオ達はスペイン人に殺戮された。この“ミッション”と呼ばれた伝道村跡は今もこの地域に散在し世界文化遺産に指定されたものもあるが、遺された彫刻絵画は中南米独自のバロック芸術と評価できるものだった。
この顛末を主題とした映画(米ワーナーブラザーズ 1986年)“ミッション”に触発された当時46歳の立花が、1986年から87年にかけて写真家佐々木芳郎と共に初の南米取材を行った際の30年も前に書かれた原稿(一部は『文藝春秋』1987年5月号等に既掲載)と残されていた未完の直筆原稿、当時数回の南米取材で佐々木が撮った写真を基に集大成したのが本書である。1974年に『文藝春秋』に発表した「田中角栄研究」で一躍注目され、旺盛な文筆活動を続け「知の巨人」と呼ばれて2021年に亡くなった立花の、キリスト教と異文化の衝突、中南米バロック芸術様式などから感じたキリスト教観が、あらかじめ調べていた伝道村の歴史、取材紀行記の中で述べられ、佐々木の素晴らしい写真の数々がその思いを感じさせてくれる。
〔桜井 敏浩〕
(文藝春秋 2022年5月 168頁 2,700円+税 ISBN 978-4-16-391547-0 )
〔『ラテンアメリカ時報』 2022年夏号(No.1439)より〕