『乾いた人びと』 グラシリアノ・ハーモス - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『乾いた人びと』  グラシリアノ・ハーモス


ブラジル北東部アラゴアス州出身の文学者ハーモス(1892~1953年)によるブラジルの心理小説と言われる文学の古典的名作(原作1938年)。13章のそれぞれは独立したエピソード、光景だが一貫したストーリーで構成されている。
牧童ファビアノは旱魃により荒廃した熱帯乾燥林荒野カーチンガの牧場から、雇い主に無断で妻と二人の幼い子供、牝犬と共に飛び出し、一家で生存出来る場所を求めて彷徨い歩く。一度は見捨てられた牧場に住みつき農園主と契約を交わして生活が楽になりかかったが、再び旱魃に見舞われ流浪の旅に出る。一時凌ぎで牧場にいても町に移っていた時も、農園主や商人に勘定を誤魔化されカーキ色の制服を着た警官に不当な暴力を受けるなどの苦難は続く。旱魃現象に起因とはいえ、自然との戦いを無力にしている農牧開発の低い技術水準、退歩し非生産的なブラジル北東部の社会構造によって、農牧民に並み以下の生活すら許されないカーチンガで生きなければならない一家の「苦悩」の姿を描いている。

〔桜井 敏浩〕

 (高橋都彦訳 水声社 2022年1月 176頁 2,000円+税 ISBN978-4-8010-0623-2 )
〔『ラテンアメリカ時報』 2022年夏号(No.1439)より〕