『国境の時代』 宮脇 昇・樋口 恵佳・浦部 浩之編著 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『国境の時代』 宮脇 昇・樋口 恵佳・浦部 浩之編著


日本や世界の国土の外的・内的側面を多角的に検討し、空間の歴史的変遷を認識することで、境界線、すなわち「国境」についての戦略的的思考を培うことを目的に、日本と欧州・コーカサス等の国境問題を地域研究者等が考察した論考集。

うち浦部浩之獨協大学国際教養学部教授による「第9章 ラテンアメリカの国境問題 -チリ・ボリビア・ペルー三国間の長い軋轢の歴史」(P.191~211)は、19世紀初頭の独立期に端を発し、1879~83年にチリとボリビア・ペルー連合との間の「太平洋戦争」でのチリの勝利の結果ペルーとボリビアは領土の一部を割譲せざるを得なくなったこと、特に海岸部の15万㎢を失ったボリビアは現在に至るまで経済的・地政学的に甚大な打撃を受けており、チリとの国交は1975~78年の一時期を除いて国交は断絶したままであり、2013・16年には相互に国際司法裁判所(ICJ)に提訴するに至った歴史を詳述している。

本稿では、三国間の国境問題の発生とチリ・ボリビア間の国境条約が、肥料・硝石の原料として輸出価値が高いグアノ(海鳥の糞の堆積)採取権益を求めての国境の線引きの解釈をめぐって紛争となり、チリの圧勝で終わった太平洋戦争の結果、1904年に一旦条約が結ばれ国境は変更されてボリビアは内陸国となったこと、その後何度か対案提案が出され交渉が行われたが頓挫したこと、1990年代になっての地域国際秩序の変化にともない、チリとペルー、ボリビア関係は改善に向けて対話が模索されてきたが、この百年越しの根深い国境問題は太平洋戦争を最後に武力による解決が図られたことはなく、国境問題を国際司法的な手続きで解決を探る傾向がラテンアメリカでは強いこと、多国間外交の枠組みに依る解決も1998年のペルー・エクアドル国境確定を4か国の調停・保証で全面的解決した例の如く、外交的そして司法的な手段によって解決を探るという経験の蓄積によって、この問題についての一定程度の共通了解がラテンアメリカに存在していることを指摘している。ペルー南部とボリビアの海への出口地帯のチリ領化の経緯とその外交・国際法の交渉の今日に至るまでの流れがよく理解できる論考である。

〔桜井 敏浩〕

(大学教育出版 2022年5月 268頁 2,300円+税 ISBN978-4-86692-202-7)