連載エッセイ183:後藤猛 「イタリアーノ、ナニワーノ、ブラジレイロ」 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載エッセイ183:後藤猛 「イタリアーノ、ナニワーノ、ブラジレイロ」


連載エッセイ 180

イタリアーノとナニワーノとブラジレイロ

執筆者:後藤猛(NPO法人イスパニカ文化経済交流協会理事)

私は、大阪出身ですが、外務省では、イタリアのミラノ、ブラジルの北は、マナウスを始め北東部のレシフェ、そして、中部のサンパウロの各総領事館、更に南部のポルトアレグレ領事事務所等の在外公館に勤務致しました。そして、各地で体験し素朴に感じたことをお話させて頂きたいと思います。

1.イタリア人と愛犬

イタリアでは、良く「友人を作りたければ、犬を飼えば良い、また、「イタリア語を学びたければ、犬を飼えば良い」とも言われています。
確かにイタリアの町中に有る公園では、犬を連れて散歩している人同士が楽しくおしゃべりをしている姿をよく見かけます。イタリアでは、よく見ると犬同士が吠え合っている様子もあまり見かけませんし、飼い主同士が、親しくおしゃべりしている間、犬同士も互いにあたかも「久しぶり」といった感じで、じゃれ合っているように見えました。

また、レストランに入って一時間ほど食事をして、テーブルを後にしようとした時、隣のテーブルの床には、大きなシェパードがおとなしく、音も立てずに伏せていたことに驚きました。また、BARにも普通にシェパードのような大きな犬を伴い、カフェを飲んでいる様子も見かけます。牧畜が盛んで羊飼いに代表されるような生活が日常の生活に溶け込んでいるのかどうか私には良く分かりませんが、イタリアでは、犬との接し方が基本的にどこか違うように感じました。

ただ、ブラジルやポルトガル等では、このような光景は見たことが有りませんので、これはラテンというよりイタリア人特有の犬に対する接し方のように思います。

2.お金をかけずに楽しむことが上手

日本の各地でお祭りが有り、広場で盆踊りや縁日も出て楽しい時を過ごすことが出来ますが、ラテンの国の地方の町や村には、広場をよく見かけます。現在は、以前に比べ少なくなっているかも知れませんが、夕暮れ時には、村人が集い、おしゃべりを楽しんだり、また、広場で村人が演奏し音楽に合わせてダンスを楽しんだり、時には、良き男女の出会いの場となったりもしていたと聞いています。こうして見るとラテンの人々は、お金をかけずに楽しむのが、実に上手だなと感じます。

また、ブラジルでは、サンバのリズムが流れると、皆自然と体がリズムを取り、動き出すといった感じですが、現在、ブラジル各地では、「日本祭」が行われており、そこで行われている盆踊もブラジル人の間で人気のイベントになっています。

また、注目すべきは、私の見たブラジル人の海岸での過ごし方です。美しい海岸の風景を見ながら砂浜で、どう見ても日々顔を合わせている御家族や親戚と思われるグループが、ビール2、3本程度でビーチパラソルの下で長時間プラスチック製のシンプルな椅子と共にテーブルを囲み、海に入る様子も有りません。そよ風が吹く中、どのグループもひたすらお喋りをしながら楽しそうに過ごしている様子を見るたびに「なんとお金をかけずにおしゃべりだけで上手に長時間楽しく過ごせる」ことに感心していました。

また、ある日、レシフェでブラジル人に誘われ海水浴に出かけた時のことでした。遠浅の美しい海岸の浅瀬で海水に浸かり、ウイスキーやビールを載せることの出来るプラスチック製の丸いお盆を浮かべながらコップ片手に皆和気あいあいと話に興じていました。そして、紺碧の空の下、海水は、生暖かく、まるで「海の天然温泉」に浸かっているようで、真に「いい湯ダナ」といった感じで実に快適でした。ここでもお金をあまりかけずに十分楽しんでいる様子です。

3.ラテンの人のお宅拝見と日本人

ある時、ブラジルやポルトガル人の宅におじゃました時のことでした。まず、最初に家の中全体を案内してくれるのです。勿論、どの家庭も全てではないと思いますが、日本では、かなり親しい人を初めて迎えても家の奥まで案内することは、まず無いのではないでしょうか。やはり、日本人は、内と外を無意識に意識して生活していることが多いかもしれないと想像した次第です。

4.ラテンの国の料理

スペイン、ポルトガル、イタリアは、新鮮な魚介類が豊富にあり、美味しい海産物料理が沢山有ります。フランス料理も素晴らしいですが、パリは、今では交通の便もよく、常に新鮮な魚が入荷すると思いますが、一昔前は、そうはいかず、やはりソースをかける料理が発達したのではないかと想像しています。素材を生かし、ソースもかけない、シンプルな料理としては、ポルトガルのイワシの塩焼きが有名です。食べ方ですが、リスボンのアルファマ地区では、路地に、日本の七輪を思わせる器具にイワシを載せ、煙をムンムンさせながら焼 きます。そこで、あたり一面がイワシの臭いと煙に包まれることになります。
焼き立ての油の乗ったイワシを丸ごと皿に乗せ、各自が、小骨を外しながらイワシを赤ワインと共に食べますが、この至ってシンプルな食べ方は日本人としてとても親しみを感じました。

ヨーロッパでは、通常、魚料理は、既に骨を取り除いた料理が出てくる場合が多いと思いますが、ポルトガルの場合は、イワシを丸ごとそのまま焼きます。この食べ方は、他のヨーロッパ諸国では、あまり見られないのではないかと思います。イギリスから来た人は、「イギリスで煙と臭いを出し料理すると大変なことなる」と言っていました。ポルトガル人は、1543年に最初のヨーロッパ人として種子島に漂着していますが、当時の日本人もこのどことなく穏やかなラテン系民族に親近感を持ち、様々な交流が始まったものと思っております。

5.ラチーノとナニワーノ

大阪の人は、ラテン的イタリア人的と言われることが有りますが、日本に留学した経験のあるブラジル人に留学時代の印象を聞いてみますと、大阪に留学した学生は、比較的すんなり地元の人と溶け込めたと話す学生がいました。大阪では、お好み焼きやたこ焼き、特に、たこ焼きに関しては、「大阪の各家庭の台所に必ず有って、東京の台所に無いものは、「たこ焼きの鉄板」と言われるぐらい、大阪の家庭で「たこ焼き」を作ることは一般的ですが、これにブラジル人学生が招かれ、家族と溶け込めたと言っていました。また、会話もすんなりと始まり、「ところでブラジルはどんな所?」といった具合だったそうです。

これを聞いた時、大阪の人は、やはり外国人に対し、外国人を「外国人」として過度に意識することなく、自然体で受け入れる傾向にあるのかも知れないと感じました。外国人として過度に意識して、これは、「口に合うかどうか」等と気づかうと、かえって「自分がこれだけ気を使っているのに」とか、ギクシャクすることになるかも知れませんので、外国人と接するときは、ナニワーノのようになるべく自然体でお互いに交流出来ることが必要ではないかと感じます。

6.おしゃべり好きなラテンの人々は、ナニワ―ノに似ている?

普段の生活で、挨拶は勿論のこと、日ごろの生活で、言葉のやり取りが多いこともラテン的特徴かもしれません。イタリアにも各地に温泉がありますが、私がトスカーナ州に有るサトゥルニア温泉に行った時のことでした。この温泉は、自然に湧き出ている川の天然温泉ですが、そこでくつろいでいると、側に居合わせたイタリア人から声がかかり、自然と打ち解けたことを覚えております。

また、イタリアのBARのカウンターでの光景ですが、主人と客とが親しげに話している他、その場に居合わせた客同士も自然に溶け込み、誰がどの人の友人であり、どの人が初対面であるなし等関係なくごく自然にお互いにユーモアを交えながら話し込んでいることが良く有ります。ユーモアを交えながら話すことは、有る種、潤滑油的な作用があるのではないかと想像しております。笑いの多いのも大阪の特徴ですが、これもラテン的で会話の中での潤滑油になっているのかも知れません。

また、イタリアの店内で、お金を支払う際に店主が「グラッツエ」(有難う)と言うと、お釣りをもらった客も「グラッツエ」の返事は実に心地良さを感じます。また、すれ違った際にも、お互いに「スクージ」(失礼)という言葉がごく自然に出ていて、これもまた実にスムーズで心地良さを感じます。また、小さな子供に会うと、ごく自然に「チャオ」とか声をかけています。日々の生活の中で互いに言葉を発することが実に多いと感じました。一方、大阪でも物を買ったりしたときに売り手のみならず、買い手も「おおきに、ほな、さいなら、またよろしゅう」等の挨拶を聞くことが有ります。この他、大阪で最近は少なくなってきていると思いますが、たまたま電車に居合わせたおばさんが初対面にも拘わらず「飴ちゃん食べる?」から始まり、身内の話をして、最後に「ほな、さいなら」と言いて下車していったことも有りました。相手を過度に意識することなく、気軽に話しかけてくる大阪の人は、ある意味ラテン的な潤滑油を備えているとも言えるかもしれません。

7.ナニワーノの国際人的感覚

今では、日本で標準語を通して意思疎通を行っていますが、江戸時代には、なかなかそうは行かなかったと想像しています。当時は、各藩の方言があり、何か交渉する際には、通訳(通詞)的な人がいたのではないかと思っています。そういう意味では、その時代、各藩の人は、一種お互いに国際感覚で暮らしていたのでは無いかと想像しております。また、特に、江戸時代、大阪は、商人の町として全国から人が集まり、ある意味江戸城下のような権威にこだわることが少なかったことも影響し、商人の町としてお互いにスッと打ち解けることが出来る土壌が備わっていたのではないかと勝手に想像しています。

8.大阪市はミラノ市とサンパウロ市との姉妹都市

大阪市は、サンパウロ市と1969年に姉妹都市として提携し、また、ミラノ市とは、1981年に姉妹都市提携を行っており、以来、経済、文化、スポーツ、学術交流等の様々な分野で交流を深めていますが、これもラテン系同士の何らかの不思議なご縁では無いかと感じております。また、2025年には、大阪万博の開催が予定されておりますが同万博を通じて各国の友好親善が一層深まることを願っております。


ブラジル、レシフェの海岸・街並み風景