【季刊誌サンプル】ラテンアメリカ・カリブ地域の経済情勢とウクライナ侵攻の影響 田中 秀治(IDB アジア事務所長 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

【季刊誌サンプル】ラテンアメリカ・カリブ地域の経済情勢とウクライナ侵攻の影響 田中 秀治(IDB アジア事務所長


ラテンアメリカ・カリブ地域の経済情勢とウクライナ侵攻の影響

田中 秀治(IDB アジア事務所長

本記事は、『ラテンアメリカ時報』2022年秋号 (No.1440)に掲載されている、特集記事のサンプルとなります。全容は当協会の会員となって頂くか、ご興味のある季刊誌を別途ご購入(1,250円+送料)頂くことで、ご高覧頂けます。

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ラテンアメリカ・カリブ地域の経済情勢とウクライナ侵攻の影響 田中秀治(IDBアジア事務所長)

はじめに

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行の影響を受けて、ラテンアメリカ・カリブ地域(LAC 地域)の経済は 2020 年に急激な減速を経験した。2021 年には、各国の積極的な財政金融政策と新型コロナウイルスへの対策により迅速な回復への基礎が築かれ、2022年に入ると GDP は回復の兆しを見せ始めた。他方で、雇用回復の足取りは遅く、貧困と不平等は拡大傾向にあった。

LAC 地域の各国が複雑な課題に直面している中で、本年 2 月 24 日にロシアによるウクライナへの軍事行動が開始された。ロシアによるウクライナ侵攻は、LAC地域にとっても不確実性を増加させ、既存の課題をより深刻なものとするとともに、新たな課題をもたらすこととなった。米州開発銀行(IDB)では、本年4月に公表した、「回復から復興へ〜危機をチャンスに変える〜」と題するマクロ経済レポートにおいて、ウクライナ侵攻がLAC地域に与える影響について分析を反映させている。

本稿では、このレポートの記述を基に、その後の状況も踏まえて、LAC地域の経済情勢とウクライナ侵攻の影響を概観することとしたい。

ウクライナ侵攻が新型コロナ後のLAC地域のマクロ経済に与える影響

LAC地域の経済は、2020年のGDP成長率がマイナス7%という、19世紀初頭以来の低い水準を記録したが、2021年には予想を上回る強力な成長を見せた。2021年が進行していくに伴って成長率見込みは上方修正され続け、最終的には全世界平均を上回る6.7%の成長率を達成した。その一方で、経済回復に伴う需要の回復に由来する価格上昇や先進国の金融引き締め策等を背景に、この回復は一時的なものにとどまり、2022年のLAC地域のGDP成長率は2%台前半にとどまると見込まれていた。

このような状況の下でロシアによるウクライナ侵攻が始まった。その結果としてもたらされた商品価格(一次産品価格)の更なる上昇は、LAC経済にとって短期的には追い風となるが、中長期的には先進国経済の減速と相まってマイナスの影響を及ぼすと考えられる。IDBのマクロ経済レポートで示された試算によれば、2022年から2024年までの3年間において、ウクライナ侵攻はLAC地域のGDPを年平均で0.1%押し下げる効果があると見込まれている。ウクライナ侵攻に、先進国における金融政策正常化への取り組みが進むことを加味したシナリオの下では、年平均のGDP押し下げ効果は1.5%にも及ぶと見込まれている。それぞれの年の影響を見ると、ウクライナ侵攻に金融政策正常化を加味したより悲観的なシナリオの下では、2022年のLAC地域の平均成長率は1.2%に減速し、2023年には更に落ち込み0.4%のマイナス成長が見込まれている。2024年には反転することが予想されているが、それでもウクライナ侵攻前には2.2%成長が予測されていたのに対して、1.3%の成長にとどまる見込みである。

以上はLAC地域を通じた平均の予測であるが、ウクライナ侵攻が経済に与える影響には、それぞれの国の特性によって濃淡があることに留意が必要である。特に強い影響を受けると予想されるのは、中米とカリブの諸国であり、これらの国では外貨獲得を観光に頼る一方で、特筆すべき輸出商品がないため、エネルギーや食糧の輸入に対する高い依存度を背景に、対外経済の影響を強く受ける結果となる。

ウクライナ侵攻が貿易に与える影響

パンデミック後の需要拡大を背景として、商品価格は既に上昇傾向にあったが、ロシアのウクライナ侵攻により、商品価格はさらに上昇することになった。その結果、LAC地域全体を通じてみると、短期的には対外経済にとって好ましい影響がもたらされた。しかし個々の国の性質によって影響の受け方は大きく異なっている。以下、3つのグループに分けて考察することとしたい。

まず、対外経済に占める商品輸出の割合が高い国にとっては、追い風となることは明らかであり、ボリビア、チリ、コロンビア、エクアドル、ガイアナ、ペルーとスリナムがこのグループに含まれる。これらの国々にとっては、ウクライナ侵攻後のエネルギー価格及び商品価格の上昇によって、2022年の経常収