連載エッセイ190:高橋正行 コスタリカコーヒーと私 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載エッセイ190:高橋正行 コスタリカコーヒーと私


連載エッセイ 187

コスタリカコーヒーと私

執筆者:高橋正行(自家焙煎 豆こねくと 店長)

「コスタリカコーヒーとの出会い」

コスタリカは人口500万人規模の小さな国です。国土の4分の1が国立公園になっており、自然保護に力を入れています。世界の5%の動植物がコスタリカに生息していると言われ、色鮮やかな鳥や爬虫類を観察することができます。そんな大自然に囲まれたコスタリカを初めて訪れたのは、高校3年の時でした。AFSという留学機関を通じて、交換留学で、一年間現地の高校に通いました。実家を離れて暮らしたことのない自分が、海外で一年間、過ごしたことは本当に冒険でした。初めのころは、辞書を片手に何とか生活をしていたのですが、次第に現地の言葉も覚え、コスタリカの人たちに支えられ、一年間生活できたことは、私にとってとても貴重な経験で、自信にもなりました。ホームステイ先の、私の家族は、毎朝ネルドリップでブラックのコーヒーを淹れてくれました。エレーディアという標高の高い地域に住んでいましたが、高原にいるかのような爽やかな気候で、毎朝淹れたてで飲むコーヒーの味は格別でした。初めて飲んだ時の優しいコスタリカのコーヒーの味わいは忘れられず、現在、コスタリカの農園から直接コーヒーの生豆を仕入れ、自家焙煎でコーヒー豆を販売しております。お客様にはやっぱりコスタリカのコーヒーはおいしいねと言ってもらえるよう日々努力をしています。


(収穫後、トラックに積まれるコーヒーチェリーの写真)

「コスタリカのコーヒーについて」

コーヒーの栽培には、年間平均気温約20度前後、また、1200mmから3000mm程度の年間降水量といった赤道付近でみられる特徴の気候が必要となります。そのような気候条件を満たすコスタリカはコーヒーの栽培にとても適しています。また火山が多いコスタリカは、土壌が火山灰質で、水はけがよく、有機物質がたくさん含まれているため、コーヒーの木の成長には欠かせない質の良い土壌となっています。

近年、コスタリカのコーヒーは品質の高いコーヒーとして、世界中から注目されています。

一般的にブラジル、コロンビア、グァテマラといったコーヒー産業国のコーヒーは有名ですが、コスタリカは、生産量が少ないながらも、高品質のコーヒー豆を栽培し、世界から認められるコーヒーを栽培しようと取り組んでおります。コスタリカでは、アラビカ種のコーヒーしか栽培しておりません。コーヒーの品種には、ロブスタ種とアラビカ種があります。ロブスタ種は主にインスタントコーヒーなどに使われる品種で、栽培はしやすいのですが、品質は必ずしも良くありません。アラビカ種は、品質はとても良いのですが、病気に弱く栽培が難しい品種です。

国をあげて品質の高いコーヒー豆を生産するため、コスタリカではアラビカ種のコーヒーのみを栽培しているのです。また、コーヒー豆の品質を規格するため標高によってグレードがつけられています。昼夜の寒暖差が激しい標高の高い地域では、コーヒーチェリーは、ゆっくり熟し成長するので、糖度が高くしっかりとした良い実がなります。標高が高いほど香り高い高品質のコーヒー豆が育つため、1200m以上の標高で栽培された豆はSHB(ストリクトハードビーンズ)と格付けされ、最上級の品質の規格のコーヒー豆として格付けされます。品質が保証されるコーヒー豆はSHB規格の豆になります。取引している農園からは、必ずSHB規格の豆を輸入しています。


(自ら現地でコーヒーチェリーの収穫の手伝っている筆者の写真)

「ではどんな農園と取引しているのか」

コスタリカの中でコーヒーの名産地と呼ばれているナランホ地方、タラス地方の地域の農園と取引をしています。ナランホ地方のコーヒーはマイルドな口当たりで、柔らかい酸味が特徴です。一方でタラス地方のコーヒーはしっかりとした酸味と香りで強いコクが特徴です。ナランホ地方では、モンテロサ農園という農園と取引しています。カッピング鑑定士や、農業技術者などの協力もあり、コーヒーの品質はしっかりと管理されています。また、様々なコーヒーの品種の栽培に取り組んでおり、特に、この農園で栽培されているゲイシャ種のコーヒーはとても品質が高く、べっこう飴のような甘さと柑橘系の爽やかな酸味があり、この農園でしか味わえない風味に仕上がっています。

タラス地方では、メカ農園という農園と取引しています。標高1500m~1800mに位置する農園で、寒暖差が激しく、気候も不安定で晴れたり、霧がかったり、また、スコールが降ったりと激しく変わる気候が印象的な土地柄でした。コーヒーチェリーは収穫後、約一か月間天日干しにし、コーヒー生豆を乾燥させる工程があるのですが、目まぐるしく変わる天候の中、丁寧に乾燥工程を作業されていました。コーヒーが集荷されるまでに大変な労力を費やしていることを目の当たりにし、コーヒーへの情熱を強く農園主さんから感じました。


(メカ農園の家族と一緒の写真)


(モンテロサ農園の家族と一緒の写真)

「店でのお客様の声」

コスタリカのコーヒーを直接に味わっていただくために武蔵小杉駅から歩いて5分のところに「豆こねくと」という名前のコーヒーショップを開いています。幸いにも、お客様からは鮮度が良く、香りが香ばしいとご好評いただいております。コスタリカのコーヒー豆を鮮度の良い状態でお渡しするため、焙煎したてでお渡しすることを心がけています。そのためコーヒー豆のご注文をいただいてから、焙煎をしています。

15分ほど時間がかかりますが、焙煎時の香りやコーヒー豆の煎る音など、待っている間もお客様にはコーヒー豆ができるまでの間を楽しんでいただいております。コスタリカのコーヒー豆も、ブラックハニー製法、アナエロビック製法などの特有の香りを持つコーヒー豆もご好評をいただいております。コスタリカのゲイシャも販売しておりこちらもファンがついており、お客様にはご好評です。

「これから取り組んでいきたいこと」

今後、取り組んでいきたいことは、仕入れるコーヒーの生豆の品質を上げることです。近年、スペシャルティコーヒーが注目されています。スペシャルティコーヒーとは、消費者がおいしいと満足して評価するコーヒーのことです。そのためには、コーヒーに印象的な風味があり、爽やかで明るい酸味がなければなりません。品質の高いコーヒーにはそれらの味わいを強く感じることができます。1990年代、コーヒー産業は供給過剰からコーヒー豆の価額は暴落し、品質の悪いコーヒーが出回り、安い価額で大量にコーヒー豆を生産しなければならない状況にありました。そのため生産者は経営難に陥り、農園を手放さなけれならないこともありました。しかし、近年、スペシャルティコーヒーの登場により、消費者にコーヒーの価値を改めて考え直してもらい、品質の良いコーヒー豆は高値で取引されるようになりました。

品評会で高い評価を受けた豆はオークションにかけられ、高額な金額で取引されています。こうした流れはコーヒー農園を支えることにもなります。私も今後、お客様に美味しいと言ってもらえるようなスペシャルティコーヒーが提供できるよう農園と連携をとり、日本のお客様に美味しいと言っていただけるような一杯のコーヒーを提供できるよう努めていきたいと考えております。

アクセス情報
豆こねくと 住所 神奈川県川崎市中原区小杉町2-294-6 武蔵小杉駅 徒歩5分
https://www.mame-connect.com/
https://www.facebook.com/mameconnect/