連載エッセイ194:硯田一弘 「南米現地最新レポート」その38 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載エッセイ194:硯田一弘 「南米現地最新レポート」その38


連載エッセイ191:硯田一弘

「南米現地最新レポート」その38

執筆者:硯田一弘(アディルザス代表取締役)

「10月2日発」

木曜日の昼過ぎ、拙宅の近く(約2㎞先)で大きな火事が発生しました。燃えたのはTSJE(Tribunal Superior de Justicia Electral)=中央選挙管理委員会の倉庫

https://www.ultimahora.com//transmision-resultados-elecciones-comprometida-incendio-tsje-n3026266.html

パラグアイでは来年4月30日に次期大統領を決める選挙が予定されていますが、その予備選が12月18日に行われる予定になっており、今回の火災では22千台の自動投票機のうち7500台が焼けて使い物にならなくなったとのことです。現場は普段は火の気のない倉庫で、今回の火事で従業員一名が亡くなりました。

火事の原因は調査中ですが、この火事が発生してからテレビニュースをつけっぱなしにしていましたが、どう見ても消防車の数が少なく、消火活動がまともに行われていない印象で、拙宅屋上からも良く見える現場からの黒い煙は約2時間近くも勢いを落とすことなく立ち上っていました。結果として判ったことは、Eusebio Ayara大通りに面したこの倉庫での火災を消すための消火栓が機能しておらず、集まった消防車はタンク車の登場を待ってタンクからの給水で消火活動に当たっていたということで、国政選挙を前にした中央選挙管理という民主主義の根幹をなす設備の消火栓が何故機能しなかったか?という点も、火災の原因と共に注目点となっています。

ここ数年は9月になると一気に気温が上昇して、あちこちで野火が発生し、アスンシオン市街地でも煙が立ち込めるという傾向が続いていましたが、今年は低温の日が続き、朝晩は肌寒いような気候で、7月末に街中をピンクに染めた街路樹の桃色ラパチョに続く筈の黄色ラパチョが中々開花せず、9月末になってようやくチラホラと黄色が目立つようになっていました。

今回の火事では選挙実施の為の沢山の資機材が焼失し、関係者は対応に追われていますが、左傾ピンクに染まった南米で唯一中道を保っているパラグアイの民主主義の灯を絶やさないよう、選挙準備の立て直しがされることを多くの国民が期待しています。

「10月9日発」

 

体育の秋、赤道から南は春ですが、今週はパラグアイで南米15カ国で構成される南米体育連盟Odesur(la Organización Deportiva Suramericana)の大会が開催されており、アスンシオン周辺の各競技場は大変な盛り上がりを見せています。

https://www.asu2022.org.py/

この大会で注目を集めているのが大会マスコットのTiríkaちゃん。

https://www.ultimahora.com//tirika-la-mascota-odesur-que-conquista-el-amor-del-continente-n3027564.html

モデルとなっているのはヤマネコの一種、ティリカ。

ブラジル・パラグアイ・アルゼンチンの森林に生息する希少種で、今大会のマスコットに起用されたことで保護活動に力を入れようという世論が盛り上がっています。

ブラジルで先週日曜に行われた大統領選挙では、現職のボルソナル氏が予想外の健闘を見せ、10月30日に元大統領のルラ氏との決選投票に持ち込まれることになりました。

ボルソナル氏は過激な発言で南米のトランプと評され、森林開拓を推進する環境破壊者との評判もある一方、社会主義的な政策を目指すルラ氏に対しては、資本主義政策を護るという点で多くの企業経営者達の支持も集めていることが今回の選挙で判明しました。

いずれにせよ、気候変動は南米大陸にも確実に及んでいます。

これを書いている10月9日の正午の気温は16℃。例年ならば確実に暑さが始まる時期なのですが、今年は9月以降でも暑さが気になる日は数日しかなく、向こう一週間の予報でも最高30℃を超える日が無いと言う異常気象が続いています。

Tirikaだけでなく人間の生存をも脅かしかねない気候変動への対応策、地球規模でシッカリ推進したいところです。各国が対策を競い合い、世界中で高い達成率を目指すべきですね。

「10月16日発」

今週もアスンシオンではしっかり雨が降りましたが、パラグアイの東側、ブラジルとアルゼンチンの国境地域は相当量の降雨に見舞われたようです。

先週は出張でブラジル側のFoz do Iguaçuに滞在しましたが、この時も夜半から猛烈な雨が降り出して、滞在したホテルでは仲間の部屋が明け方に雨漏りに襲われた程でした。

降り続く雨の影響で、有名なイグアスの滝は危険水位に達したため今週木曜日から立ち入り禁止になったようです。

https://cnnespanol.cnn.com/video/imagenes-crecida-cataratas-iguazu-argentina-perspectivas-buenos-aires/

またパラグアイとブラジルの国境には世界最大の発電量を誇るイタイプダム(パラナ川)がありますが、実はその近くのパラグアイ側を流れるAcaray川にある水力発電ダムで水位の上昇に伴って放水路を開門したと報じられています。

https://www.ultimahora.com//acaray-abrio-vertedero-mantener-niveles-operativos-seguros-n3028654.html

この結果、当然川の水位も上昇しており、パラグアイ川が流れるアスンシオンではこの半月で約90㎝、東のパラナ川流域では2mも上昇しており、過去二年間は深刻な渇水による河川交通の水位低下が懸念されましたが、今年は一転して大雨の影響による農作物への懸念が生じてきました。

例年に比べて冷涼な気候の春を迎えていることは先週も書きましたが、パラグアイ東部では今週も雨が続くとの予報で、穀倉地帯での天候が気がかりな春となっています。

「10月23日発」

金曜日に所用で近所にある商工省に出向いたところ、事務所にあったテレビで放送していたのが今日お伝えするニュース「Paraguay rechaza intención argentina de cobro de peaje en hidrovía(パラグアイは河川通過料金を徴収しようとするアルゼンチンの意向を拒否)」です。 https://www.paraguay.com/nacionales/paraguay-rechaza-intencion-argentina-de-cobro-de-peaje-en-hidrovia-209194

パラグアイ川とパラナ川の水運はパラグアイ川河口のアルゼンチン・ブエノスアイレスから最上流部のブラジルPuerto Caceresまでが3,442㎞、艀による年間の輸送量は2000万トンで、ミシシッピ川に次ぐ交通量を誇る南米大陸の幹線です。

しかし、下の図でお分かりの様に、水深10pies(feet)=約3mしかない場所が殆どで、ここを通すには写真のような平底の艀を幾つも連結してプッシャーボートという船で押して動かす仕組みになっています。

いずれにしても、ブラジル・ボリビア・パラグアイ・ウルグアイにとっても重要なインフラであるパラグアイ・パラナ川水系で、川下のアルゼンチンがPeaje(料金所)を設置して通過料金を徴収するというのはあり得ない提案であり、パラグアイだけでなく流域各国は断固として反対の意を示すことになるでしょう。

ところで、冒頭でも申し上げた商工省ですが、その中にあるREDIEX(投資輸出促進局)の事務所が綺麗に改装されていました。商工省の建物は、1990年代末の中南米通貨危機の際に倒産した銀行のオフィスビルを財務省が接収して、商工省に割り当てたものだそうで、入り口近くに陣取るREDIEXの事務所も何となく役所らしい古めかしさと野暮ったさが同居したような空間でした。それが今回3ヶ月ぶりに出向いてみると、綺麗な空間にリフォームされていました。実はパラグアイはリフォームが大変上手な国で、古びて貧乏くさいような建物でも、簡単にスタイリッシュでオシャレな空間に作り替える天才的なデザイナーと施工業者が沢山います。先日もJICAから派遣されてアスンシオン近郊で陶芸を教えている師匠が参加する展示会がパラグアイ日本センターで開催されたので、見物がてら出向いて、近所のガレット屋さんで昼食を摂ったのですが、この建物も住宅街の古い家屋を綺麗にリフォームしたもので、出されたメニューと建物の洗練度に陶芸家師匠も感心していました。

日本では耐震強度の問題があって何でもかんでも建て替えが必要ということですが、既に十分な強度が確保してある物件であれば、パラグアイでの人を惹きつけるデザインのリフォームを参考にされては如何でしょうか?

リフォームなら徴収される料金も安く上がる筈です。

「10月30日発」

今年度の補正予算が29兆円、財政支出が39兆円、事業規模で71兆円という報道が日本のニュースで流れましたが、この数字の意味を正しく把握している日本人、どれだけいるでしょうか?(なんでも知ってる5歳のチコちゃんに訊いてみたいです。)

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA2845J0Y2A021C2000000/

コロナ禍や円安等で疲弊する国民経済を救うために、大谷選手や村上選手のホームランのような派手な政策を打って欲しいと国民は欲しています。(ホント?)

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20221028/k10013873221000.html

パラグアイでもご多分に漏れず物価は上がってます。庶民の暮らしへの影響も日々報じられていますが、そんななか、食料と飲料に関する消費税をゼロにする法案の策定が検討されていると報じられています。

https://www.ultimahora.com//ejecutivo-analizara-aspectos-tecnicos-ley-deduccion-del-100-del-iva-n3030803.html

「Ejecutivo analizará aspectos técnicos de ley sobre deducción del 100% del IVA(政府高官が消費税の撤廃を検討)」という記事です。撤廃と言っても消費税という制度を無くすのでなく、一番大事な生活必需品とされる食品と飲料の税率5~10%をゼロにしよう、というものです。

パラグアイは法人税・所得税・消費税の主要税率が各々10%という判り易い税制で外資の導入を図っていますが、この消費税のうちの食品分野の税負担を無くすことで国民の支持を得たいという考えの様です。勿論、税金を減らせば国の収入が減る訳で、そうなると大型減税を打ち出したものの大幅な通貨安に見舞われ、結局全部白紙に戻して政権を取り換えたイギリスのような羽目に陥りかねませんので、こうした措置は慎重に検討されるべきです。

パラグアイでは消費税収入が税収全体に占める割合は44%、20%の日本よりも大きなインパクトがあります。一部の方々からの顰蹙を覚悟して言いますと、日本の消費税レベル、まだまだ低いです。

GDP=国内総生産に対する国債=借金の比率で堂々の世界一の日本と比べ、パラグアイは下から数えた方が早い151位。https://ecodb.net/ranking/imf_ggxwdg_ngdp.html

もちろん、日本は世界で中国に次いで多い外貨準備高を誇っており、最近の円安の御蔭で含み益も順調に増えていますから、74位のパラグアイと比べて安心安全な通貨と言えます。ん?本当にそうでしょうか??今回の29兆円の経済対策も、円安によって値上がりするエネルギー=輸入品の価格調整に使われるものもあって、安心できる訳ではありません。

パラグアイでも通貨グアラニは対米ドルで価値を下げています。でも、南米の経済優等生であるペルー(5年間で22%下落)やチリ(同48%下落)と比べても、29%という下落率は落ち着いています。この数字、実は日本円と同じ下落率。日本の場合は過去5年間ベタで100~115円圏内にあったものが今年3月から急落したので、ジワジワ下がってる南米通貨と比べて通貨安の経済に与えるダメージは大きいことは明白です。

しかも、使うおカネの三分の一は借金。(歳入の赤い部分)

https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/condition/002.pdf

年間国民一人当たり約30万円の借金をしてる計算です。毎年ですよ!

今後の世界経済がどのような局面を迎えるのか、慎重な観察が必要ですが、ただ様子を観ていて茹でガエルになるのではなく、危機感をもって行動することが重要です。安い金利の円で借入を行ない、外貨に換えて成長する南米で投資を行う。ん?そうすると益々円安が進んでしまいますね。でも、32年ぶりの円安と言われる1990年、なんで円安になったかというと、日本企業が積極的に外国投資を行ったからです。食糧自給率世界一のパラグアイへの投資、お待ちしています。