執筆者:Ruben Rodriguez Samudio(早稲田大学法学研究科講師・パナマ共和国弁護士)
A.交渉テーブルの現状
7月上旬に教員、作業員、医療従事者、先住民族、およびその他の社会的な団体が行った猛烈な抗議デモに対応するために設けられた交渉テーブルでの交渉の第二ラウンドが10月中に開始する。交渉第一ラウンドでは、作業員の労働組合連合が民間企業の代表参加に強く反対し、民間企業側もテーブルの目的と交渉の方法論を批判した為、参加しなかった。民間企業評議会(Consejo Nacional de la Empresa Privada, CONEP)は、参加希望を示しつつ、不平等な扱いを理由として、第二ラウンドに参加しないことを発表した。CONEPの他、81の機関は政府に交渉テーブルの参加申請を提出している。また、一部の団体は、仲裁者として国連が交渉テーブルへ参加することを求めている。政府はこれに対し、国際機関は国の事情を把握していない恐れがあるため、国連の参加提案は慎重に検討すべきだと発表した。
秩序不安化への対応として、政府は、ガソリン、食材価格の凍結等様々な約束をした。食材価格について、政府は必要最低限の食材(canasta básica de alimentos)価格を30%引き下げ、および170常用薬品一律の30%値下げを命令した。しかし、スーパーなどの企業は、対象となった商品を販売する義務がないため、食材が不足し、薬局連合会が値下げの対象となった170薬品の販売停止、および一時的な閉店を行った。
A.経済成長
世界銀行は、2023年に中米の経済的成長は3.3%まで上がると予測している。その中で、パナマの成長は2022年に6.3%、2023年に5%とされている。さらに、2022年と2023年のインフラは2%で安定することが予想されている。パナマの専門家も2022年の成長が7%まで上がると述べている。
アメリカの格付け機関であるフィッチ・レーティングスは、比較的低いインフラ、1人当たりの平均給与、パナマ運河の成長を理由として、パナマの信用格付をBBB-にした。フィッチ・レーティングスは、2022年のパナマGDP成長は、9%になると述べている。これに対して、同じ米国格付け機関であるムーディーズは、財政支出、給与の引き上げなどを理由として、格付け見通しは「安定」から「ネガティブ」に変更した。
A.EU租税回避地のブラックリスト取消却下
2022年10月24日、ヨーロッパ連合は必要な改正を行っていないことを理由に、パナマを租税回避地ブラックリストから削除することを拒否した。特に税務情報交換、海外源泉所得の非課税制度が批判されている。
2020年2月上旬に、EUは租税回避地ブラックリストの検討を発表し、5月上旬に決定した。当時、ブラックリストへの追加決定に対してパナマ政府は、「近年の法改正や政策を配慮していない上、EUはパナマに対する通知または返答の機会を与えていない」と反論した。パナマ政府は、2016年以降、脱税防止として国内法を国際基準に満たすため、121か国と税務情報交換協定を結んでいる。
B.韓国との取引関係
近々パナマと韓国の取引が増加している。パナマ議会は、2021年7月に韓国との自由貿易協定を承認した。協定の批准によってパナマのコーヒー、ラム、パーム油、トマトペーストが関税免除となる。更に、パナマの牛肉、豚肉、果物(パイン、バナナ、スイカ、メロン、パパイヤ)、鶏肉加工品、砂糖、小麦粉、魚とその加工食品等について特恵関税制度が確立され、パナマの金融部門、海事産業、観光事業、流通業は韓国市場へのアクセスを確保できた。
これに対して、韓国のロボットテクノロジー、教育テクノロジー、バイオ・テクノロジー.の商品やサービスがパナマに提供できることになった。さらに、両国は、知的財産の保護、環境保護、投資保護に関して合意した。韓国の2021年パナマへの投資は、ラテンアメリカへの投資の84%(36億ドル)を占めているため、ラテンアメリカにおいても最も重要な取引相手となっている。他方、2021年の韓国への輸出額は4億5千万ドルであった。
C.移民問題
コルティソ大統領は、アメリカ政府に移民問題についての協力を求めた。近年、アメリカを目指しているベネズエラ人の移民が増加している。1月から10月までの間、コロンビアから入国した20万6千人の内17万人はベネズエラ人であったと明らかにした。10月中旬にバイデン米政権は、陸路でメキシコから入国したベネズエラからの移民はメキシコに送還するという政策を発表した。この政策によってラテンアメリカ諸国にいるベネズエラ移民が影響を受けている。
パナマとコロンビア政府は、2021年8月上旬、移民の急増化を背景に協定を締結した。コロンビアに接しているダリエン県からパナマに入国した移民は、2016年から2020年までの累計人数を上回り、パナマ政府が設立した移民支援センターでは対応できなくなってきている。さらに、コルティソ大統領は、2021年9月下旬に国連総会において移民問題に対応する資力がないと主張し、国際協力を要請した。