著者は気鋭のブラジル研究者で、横浜国立大学経済学部教授。“高校生向けの経済学入門本”として書いたというが、本書は市場万能主義の是非や途上国経済への取り組みという現代の経済学の課題と、具体的なブラジル経済の変化を、産業立地のサンパウロやリオデジャネイロへの集中の度合いの減少、製靴と自動車産業を例にしての工場の地方移転、セアラ州の零細・中小企業に見る「内発的発展」の可能性、“大きな政府”でも“小さな政府”でもない“良い政府”を作る一手段としての住民「参加型予算」のポルトアレグレでの試行などの実例を詳述しながら、問題点をよく整理して分かり易く解説している。
高校生や大学新入生のみならず、ビジネスマンでももう一度経済学という見地からブラジル経済を通じて幅広く開発経済学を理解する上で格好の概説書であるが、芯には副題の示すように、新自由主義経済万能論への批判的な見方が論理的に示されている。コラム、経済学の用語やキーワードのミニ解説、ラテンアメリカやアジア、南アフリカ等の筆者の訪れた土地の風景素描など、様々な工夫が凝らされ、読みやすい。[桜井 敏浩]
(新日本出版社254頁2006年3月1600円+税)
『ラテンアメリカ時報』 2006年夏号掲載(社)ラテン・アメリカ協会発行