1982年のメキシコ危機、累積債務不履行問題以降のメキシコ経済の立て直しにおいて、メキシコは忠実に新自由主義経済政策を採用した結果、貿易、外国投資の自由化、規制の撤廃や国営企業の民営化によって競争的経済が創出された。この実験的ともいえる構造調整策の実施と急速な自由化による開発戦略は、80年代初頭から90年代はじめにかけての短期間で「途上国」から離陸した事例として、一定の成功を収めたと評価されている。
また、90年代後半以降から、いち早くグローバル化とFTAに着目し、それが94年の米国、カナダとの NAFTAの発効、EUや日本などとのFTA交渉の推進につながった。
これらをメキシコの経済開発戦略の転換が行われたデラマドリ、サリナス政権期の変化と、セディージョ政権期において本格化したNAFTAなどが、メキシコの経済発展に与えた影響を分析し、その軌跡を追い、それにより展開したグローバリズムと、変化した自国経済の運営において直面しているリージョナリズムの相克を、輸出志向工業化、マキラドーラ、製造業部門の貿易構造の変化、NAFTAにより一層拡大した米国企業との国際分業の展開、メキシコ通貨危機などの分析を通じて浮かび上がらせようとした、大変内容の濃い論集である。特に、「開発戦略としてのNAFTA」と「マキラドーラ化を超えて」については、ビジネス界の観点からも多大な関心をもって読める。
このような、国際政治経済学の立場での分析と実績の検証をこつこつとまとめた、メキシコ経済の研究書の出版が実現したことは喜ばしい。[桜井 敏浩]
(晃洋書房226頁2006年2月2800円+税)
『ラテンアメリカ時報』 2006年夏号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行