『ラテンの秘伝書』 風樹 茂、サガー・ジロー(イラスト) | 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『ラテンの秘伝書』 風樹 茂、サガー・ジロー(イラスト)


米国で MBA を取った入社5年目の商社マン山下君は、英語が得意なグローバル・スタンダードの信奉者。その彼がニューヨークならぬ南米某国の駐在を命じられ、赴任するところから、ラテンでの生活の壮絶な体験を重ねる。フライトの遅れ、手荷物の未着、迎えの運転手の遅刻から始まり、下宿生活、ラテン呆け”した所長をはじめ規律とは無縁にみえる事務所のスタッフ、仕事や商慣習も生活も遊びもことごとくこれまでの経験や価値観とは異なるラテンでは、エリートも翻弄されることばかり。社長の来訪に強引に大臣のアポを取り付けプロジェクトを売り込んだものの、事務所運転手の肝心なところでの遅刻に切れて首をいい渡したとたんに、事務所のスタッフの態度が急変し戸惑うが、そこで所長の命で歴代駐在員が書きまとめた「ラテンの秘伝書」が示され、頭を叩き割られるような衝撃を受けて目から鱗が落ちる。

仕事よりも家族、恋人、友人を大事にし、目的・不確かな明日よりも今を大切に生きるラテンの人々、貧富の格差、機会の不平等、経済不安や社会の腐敗などの矛盾の中で生き抜く知恵、生活を楽しむ術などは、社会の約束事の中で生真面目に会社と社会の歯車になって生きていけばよしとする日本人とは根本的に異なる世界があることを、山下君のラテンでの経験の積み重ねから面白おかしく解説している。ラテン駐在経験者なら、納得のいく、思わずうなずける事例ばかりである。[桜井敏浩]

(東洋経済新報社238頁2006年3月1400円+税)