『ピアソラ 自身を語る』 ナタリオ・ゴリン 斎藤充正訳 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『ピアソラ 自身を語る』 ナタリオ・ゴリン 斎藤充正訳


1955年10月、ペロン政権を倒したクーデターの直後、パリ留学から戻ったピアソラが創設したタンゴ楽団は、それまでの伝統的なタンゴ界にいわば地動説を持ち込んだガリレオのような出現だった。タンゴは踊るためのもの、ピアソラはタンゴを台無しにしたといわれ、1960年代初頭の彼の演奏に聴衆から「マエストロ、タンゴを弾いてよ!」といわれることが一再ならずあったほど、彼のモダン・タンゴを理解し、支持する者は少なかったが、自分はタンゴの救世主だと、次々に新たな挑戦を繰り返し新風を吹き込む。時代によって大きく様相を異にする彼のタンゴは、決して孤高や独善から生まれたものではなく、多くのタンゴ演奏家をはじめ欧米の音楽関係者、映画関係者、女性たちなどとの交流を通じて飛躍し、次第に高く評価されることになったが、本書はアルゼンチンのジャーナリストが生前のピアソラとの密接なインタビューの積み重ねから、彼に自らの人生を語らせ、その軌跡を追っている。訳者は『アストル・ピアソラ —闘うタンゴ』(青土社)があるピアソラに精通しており、巻末の詳細な人名索引、年表、ピアソラとともに仕事をした音楽家、歌手リスト、ディスコグラフィーも付いていて、死後14年経った今でも熱狂者が多いピアソラ・ファンには堪えられない。[桜井 敏浩]

(河出書房新社398頁2006年7月3800円+税)