約1000kmにもなる米国南西部の国境で、毎日夜メキシコ側からの密入国者たちと、それを取り締まる米国の国境警備隊の果てしない攻防が繰り広げられている。貧しいメキシコ・中米から、実に多くの人々がより豊かで就業機会が見込まれる米国に何としてでも入り込もうとするのは大きな経済格差に因るものだが、一方の米国側にも実はこの廉価な労働力なしにはもはや立ち行かない産業界の事情がある。
国境の西半分を流れるリオ・グランデを泳ぎ渡るWet Backと呼ばれる不法移民の存在は以前からあったが、1990年代に入ってクリントン政権下での政策変更以降取り締まりが厳しくなり、国境線に沿ってフェンスが設けられ多くの探査機器が敷設された。必然的に、不法入国者たちは警戒の手薄な過疎地に向かうことになったが、首尾良く国境を越えた先に広がるのは広大な昼は灼熱、夜は厳しく冷え込む砂漠や吹雪の高山地帯であり、過酷な自然の中で熱射病、渇き、あるいは寒さによって犠牲者が続出することになった。
死を賭して豊かな米国を目指す密入国者とそれを手引きするコヨーテといわれる業者、取り締まる国境警備隊員の苦労と悩み、地元住民の複雑な心境、試行錯誤の不法入国者対策を打ち出す移民関係行政官や政治家、安い労働力を求める産業界など、さまざまな立場の人びとのドラマを取り上げ、果てしない越境者との攻防の姿を浮き彫りにする。北方の富める国と、命を賭けて就業機会を求める国境の南の人々の実態を描いたノンフィクション。[桜井 敏浩]
(パーソナルケア出版部2006年3月464頁1800円+税)