エイミー・B・グリーンフィールド佐藤 桂訳
1519年、コルテスたちコンキスタドーレス(征服者)はアステカの市場で欧州にもないような素晴らしい赤色染料を目にする。大昔から上層階級の衣服や画材として神聖視されてきた赤色は、発色が大変難しい色だったが、それらに優るこの染料は、実はウチワサボテンに寄生するコチニール(カイガラムシ)だった。欧州に送られ大評判になり、スペインに多大な収入をもたらせたこの新大陸産染料は、原料産地はもとより、それが植物性なのか動物性なのかすら明かされず、英国の海賊がスペイン船団を襲撃する時の重要目標の一つになり、フランスの植物学者が危険を冒してヌエバ・エスパーニャ(メキシコ)に潜入するほど、人々が目の色を変えて追い回す貴重品になった。スペイン植民地統治時代の古文書研究者である著者が、欧州における“赤色”の文化史から、スペイン人によるコチニールの“発見”、欧州と新大陸での需給をめぐる変化などを、史実にもとづいて詳述している。歴史小説のように面白いノンフィクション。〔桜井 敏浩〕
(早川書房2006年10月390頁2000円+税)