“黒いダイア”胡椒が、アマゾン下流のトメアスで栽培され、1955年の胡椒ブーム時には収穫量は1000トンを超え、ブラジル国内の消費量1200トンのほとんどを賄い、翌年からは輸出が始まったが、この地に胡椒栽培を成立させたのには日本人のアマゾン移住者が大きく貢献している。
本書は、トメアスなどアマゾンで胡椒、カカオ、マラクジャ、アセロラの育成、さらにセラード農業開発に取り組んだ日本人移民の中に入って尽力し、ドミニカでの胡椒栽培等指導のため駐在中に強盗によって非業の死を遂げた国際協力機構(JICA)職員 大堂志郎氏を主人公にしたドキュメンタリーだが、一政府機関職員の事績を追うことはともかく、日系人のアマゾンやセラードでの農業の実態を取材していて、ブラジルでの日系人の農業に果たした役割の一端を知る上で参考になる。著者は、田原総一朗氏のスタッフをしていたこともあるルポライター。『アマゾン見聞録 —ベレンからの報告』 (リトル・ガリヴァー社)の著作がある。[桜井 敏浩]
(リトル・ガリヴァー社2006年6月245頁1800円+税)