『ラテンアメリカ現代史 —メキシコ・中米・カリブ海地域』 二村久則、野田 隆、牛田千鶴、志柿光浩 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『ラテンアメリカ現代史 —メキシコ・中米・カリブ海地域』 二村久則、野田 隆、牛田千鶴、志柿光浩


世界現代史シリーズのうち、総説・ブラジル、アンデス・ラプラタ地域に次ぐラテンアメリカ第3部。

「メキシコ」は、独立期から対米・対仏戦争とメキシコ革命を経て、1920年代から農地改革や石油国有化を行った新国家が確立し、その後長期にわたって与党となるPRI(制度的革命党)の成立、経済発展の道を歩み始め、メキシコ・オリンピックの年に、近代化の影といわれるトラテロルコ事件等の反政府運動弾圧があり、石油産出によるブームも1982年の債務危機により経済は苦悩の10年を経験し、政治はPRIの一党独裁の終焉、71年ぶりの政権交替を迎えている。

「中米地域」では、スペインの植民地時代から中米連邦の成立と崩壊、長く続いた外国の政治的干渉と経済の支配を経て、第二次大戦後は軍政と左翼勢力の衝突、内戦の歴史をたどってきたが、その終結後各国に自由選挙が定着してきており、1999年末のパナマの返還も実現し、貧富の格差や治安、自然災害などの課題を抱えているものの、新たな時代に踏み出している。

「カリブ海地域」は、スペインをはじめ英国、フランス、オランダなど、19世紀に至るまで帝国主義支配の影響を引きずってきたが、20世紀は米国による経済・政治支配の拡大が際立った。しかし、旧英領での脱植民地化、キユーバ革命、ドミニカやハイチでの独裁体制から民主化への模索、地域統合の試みなど、ここでも変化が生じている。それぞれの文化や社会にも触れ、複雑なこの地域の歴史的な背景について、整理された知識を提供してくれる。

〔桜井 敏浩〕

(山川出版社 523頁 2006年4月 3,300円+税)

(『ラテンアメリカ時報』  2006年秋号掲載  (社)ラテン・アメリカ協会発行)