『総合的現象としての観光』 江口 信清 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『総合的現象としての観光』 江口 信清


“観光”とは、人びとの移動による文化、社会の交流、地域・伝統の変化など、多様な要素が大きく影響しあう総合的現象として、本書では地理学、社会学、農学、考古学、文化人類学、ジェンダー論、環境論などの研究者による論考を集めている。

本誌でこの紹介を行うのは、ラテンアメリカ地域でのいくつかの事例を取り上げた論考が少なからず収録されているからである。すなわち、カリブ海のドミニカ国で西洋人が作り上げた先住民“人食い人種”神話を考察した「観光による国民国家とエスニック・マイノリティの関係性の変容」(江口信清 立命館大学)、メキシコのマヤ遺跡公園を事例に、考古学による意味づけと観光客の期待する古代文明イメージとのせめぎ合いを述べた「観光と考古学」(杓谷茂樹 中部大学)、自然環境への負荷が大きく、地元社会への利益が小さいマスツーリズムに代わるエコツーリズムをコスタリカやガラパゴス諸島などの事例から考察した「観光・環境とコミュニティ」(デーヴィット・ピーティ 立命館大学)、カリブ海のネーベス島に18世紀に建設されたホテルを例に、富裕層が多くの観光地を開拓した所を非富裕層が追い、それを逃れて富裕層はまた別な観光地を開拓するという行動様式を解説した「富裕層の観光行動と社会的締め出し」(江口信清)は、ふつうのラテンアメリカ関係文献には出てこない視点によるもので、それぞれ興味深い。[桜井 敏浩]

(晃洋書房184頁2005年5月2000円+税)

『ラテンアメリカ時報』 2006年秋号掲載 (社)ラテン・アメリカ協会発行