『ブラジルにおける違憲審査制の展開』 佐藤美由紀 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『ブラジルにおける違憲審査制の展開』 佐藤美由紀


日本ではブラジル憲法についてはこれまで断片的な解説と日本語訳はあったが、憲法学としての本格的な研究成果はほとんど目にしない。本書は違憲審査制の実態についての、気鋭のイベロアメリカ法学者の労作である。

独特の形態をもつブラジルの違憲審査制が、広大な領土を統治しなければならず、潜在的に拡大を狙っている州権力が相手の連邦制の体制維持機能、憲法に書き込まれた制度を支持する憲法体制維持機能、その憲法下で統治する政府の政策支持機能、憲法で保障される経済的利益、非経済的自由権といった権利が下位の規範に侵害された場合を救済する権利保障機能をも持つという指摘は興味深い。ブラジルは、50万人もが弁護士資格をもつといわれ、連邦最高裁が受理する事件は年間約10万件もある訴訟大国だが、違憲審査制を通じてブラジルの法曹界の思考様式を知ることは、ビジネス紛争の予防、発生した紛争処理のためにも参考になろう。[桜井 敏浩]

(東京大学出版会2006年11月315頁9500円+税)

『ラテンアメリカ時報』2006/7年冬号掲載(社)ラテン・アメリカ協会発行