連載エッセイ201:藤津滋男「私の好きなラテンアメリカ、スペイン、ポルトガルの映画監督」 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載エッセイ201:藤津滋男「私の好きなラテンアメリカ、スペイン、ポルトガルの映画監督」


連載エッセイ198

私の好きなラテンアメリカ、スペイン、ポルトガルの映画監督

執筆者:藤津 滋生(一介の映画ファン)

 僕は小学校時代から現在まで観た映画の記録を取っている。映画好きな友人の影響で、昨年(2021年)までに何本観たかを調べ上げた。2,550本だった。広島在住の映画好きの友人は自分の持っている映画本の蔵書目録を作っていて、完成まじかである。ありがたいことに僕にも一冊分のコピーを用意してくれた。驚くなかれ、約27,000冊、B5用紙で2,308頁、それに索引が512頁。これまで映画本の目録は出ているが、これほどの大部なものは見たことがない。映画本コレクションとしてこれ以上のものはないだろう。それも個人というのが驚きである。

 片や映画評論家などを除き、一介の映画ファンとして生涯に何本映画を観ることができるだろうか。ある時から急に映画を観ることを止めてしまい、生涯にわたって映画を観続けると言うのは少ないのではないだろうか。僕の周囲を見てもそんな人が多いような気がする。

僕の映画を観る傾向は、アジア、ヨーロッパ、アフリカ、ラテン・アメリカ映画である。ハリウッド映画や日常のありふれた生活や若者向けが中心の日本映画はほとんど観ない。それとドキュメンタリーが好きだ。また、知らない国の風景・人物を描いたものが好き。付け加えるなら余計な説明がなく、コマとコマの間がゆっくりしていることも好きな条件の一つ。アメリカ映画のように動きが早くては筋を追うことに一生懸命になり、終わったらおもしろかったが、疲れたということになりかねない

映画は僕の人生の一部である。ほんのちっぽけな僕の人生に、経験出来ないこと、生きるすべを教えてくれる。誰かの弁ではないが、「映画って、ほんとうに面白い!」

 以下は趣味として映画を観続けている一介のシネマディクトの雑文である。見損なったラテン・アメリカ、スペイン、ポルトガルの映画監督の作品がかなりあると思われる。その面でも中途半端となったことをお断りしておきたい。なお、僕はスペインとポルトガルには旅行したことがあるが、ラテン・アメリカには足を踏み入れたことはない。

<凡例>
 1)舞台がラテン・アメリカ、スペイン、ポルトガルであっても監督が違う作品は省いた。
 2)各作品の内容紹介はネットでも簡単に見ることができるので、監督の略歴、各作品の簡単な内容紹介と僕の感想を中心とした。
3)一般公開ではなく、映画祭など、例えば「ラテンビート映画祭」などで上映された監督とその作品は拾えていない。
 4)ネットを開くと驚くべきサイトが見つかった。今回はそれらを参考にしたので挙げておこう。
(1)「ブラジルのおすすめ映画425作品」→https://filmarks.com
(2)京都外国語大学の「話題のブラジル映画」も充実している。
 https://www.kufs.ac.jp>Brazil>sumida>filmesbr
(3)「スペインのおすすめ映画1577作品」→https://filmarks.com
(4)「ポルトガルのおすすめ映画252作品」→https://filmarks.com

なお、映画の作品、監督の名を入れれば、どんなことでもネット上では調べられる。僕の好きなサイトは、作品名あるいは監督名に「映画.com」である。

🔳ラテン・アメリカ 
*国の順序は概ね北から南とした。各監督は生年順とした。不明の人は最後に回した

◆メキシコ

1)Alfonso Cuaron(アルフォンソ・キュアロン/1961.11.28-)
1991年に米国に進出し、「リトル・プリンセス」(1995年)、「大いなる遺産」
(1997年)、「ゼロ・グラビティ」(2013年)などを監督。僕は下記のメキシコ
を舞台にしたのは2作品しか観ていない。

① 「ROMA/ローマ」(2018年)
 1970年代のメキシコを舞台に、とある中産階級の住み込み家政婦として働く先住民の若い女性の視点から激動の1年を描く。メキシコシティにローマという地名が実際にあるらしい。Netflixが映画に進出。記念すべき作品である。白黒映画。第75回ベネチア国際映画祭コンペティション部門で最優秀賞受賞はじめアカデミー賞でもノミネート。

② 「天国の口、終りの楽園」(2001年)
 幼なじみの17歳の少年2人は夏休みに美しい人妻を誘い3人で“天国の口”という名の海岸を目指して旅するロードムービー。この作品もアカデミー賞などを受賞。成長著しいガエル・ガルシア・ベルナルが出演。

2)Alejandro González Iñárritu(アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ/1963.8.15-)

メキシコシティの中流家庭で生まれる。イベロアメリカーナ大学卒業。本国のメキシコはもちろんアメリカに呼ばれて数々の話題作を監督している。いろんな賞も総なめといった所。1本だけ観ていた。

① 「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」(2014年)
 名の知れた俳優が勢揃いといった感じ。( )入りの長いサブタイトル。「バードマン」というヒーロー映画で一世を風靡した俳優が再起をかけてブロードウェイの舞台に挑む姿を、「バットマン」のマイケル・キートンが主演で描く。言っては何だが、よくもまあ、こんな作品を作れるものだ、監督の頭をのぞいてみたくなる。第87回アカデミー賞4部門受賞。

◆グアテマラ

1) Jayro Bustamante(ハイロ・ブスタマンテ/1977.5.7-)

① 「火の山のマリア」(2015年)」
  農業を営む貧しい両親のもとに生れ育ったマヤ族の17歳の女性。両親は地主に嫁がせようとするが、彼女はコーヒー園で働く男の子を身ごもっていた。グアテマラにも火山がありその麓が舞台。遠景に富士山に似た火山が聳えている。ブスタマンテ監督の長編第一作であり、グアテマラ映画初の日本上映。また、2015年のベルリン国際映画祭最高の銀熊賞受賞している。

② 「ラ・ジョローナ~彷徨う女~」(2019年)
 グアテマラの元司令官は30年前の内戦時に大量虐殺を指示した罪で告発される。やがて、彼は夜な夜な聞こえてくる女の鳴き声に悩まされるようになる。メイドが次々と辞めていき、先住民の女性が新しく雇われる。「ラ・ジョローナ伝説」とは、夫に捨てられ、ふたりの子どもを溺死させた末に自殺した女が、死後も魂となってこの世を彷徨い続けているというもの。なお、アメリカ映画の「ラ・ジョローナ 泣く女」という類似の作品がある。

◆キューバ

1) Tomas Gutierrez Alea(トマス・グティエレス・アレア)+ Juan Carlos Tabio(ホアン・カルロス。タビオ)

① 「苺とチョコレート」(1993年)
 1980年代のハバナが舞台。同性愛者であるために祖国から追われる者と、彼に一方的に愛されて迷惑する堅物の共産主義者。この2人の青年がやがて心を通わせ真の友情に目覚める。イチゴのアイスクリーが好きな同性愛者、チョコ・アイスクリームを食べているのが失恋して傷心の大学生で、「苺とチョコレート」というタイトルが付いたのだろう。ベルリン国際映画祭銀熊賞他受賞。アレア監督の単独で「天国の晩餐」(1978年)という未見の作品がある。

◆コロンビア・エクアドル

1)Alejandro LandesEchavarría(アレハンドロ・ランデス/1980.6.24-)
  
映画の他に脚本家、ジャーナリストとして活躍しているらしい。今のところ以下の1作。

① 「MONOS 猿と呼ばれし者たち」(2019年)
  コロンビア内戦を背景に少年、少女たちのサバイバル。こんな世界があるのかと目を開かせられる。

◆ペルー

1)Oscar Catacora(オスカル・カタコラ/1987.8.18-2021.11.26)
 
下記の1作を撮り、2作を撮影中にわずか34歳で亡くなった。惜しい監督を亡くした。

① 「アンデス、ふたりぼっち」(2017年)
ペルーのアンデス山脈の山深く夫婦二人の日常。アンデス山脈の風景や夫婦の服装 
  なども見どころ。

2)Oscar Sanchez Saldana(オスカル・サンチェス・サルダニヤ/生年不詳)+Robert Julca Motta(ロベルト・フルカ・モッタ/生年不詳)

① 「マタ・インディオス、聖なる村」(2018年)
 同じくペルーが舞台となっていると言うので足を運んだ。土着の信仰とキリスト教の板挟みに悩む村人。ペルーの田舎にまでキリスト教が根付いている。

3)Melina Leon(メリーナ・レオン/生年不詳)

①「名もなき歌」(2019年)
こんな不条理なことがあっていいものか、と憤りを覚えた作品。無学の先住民の女性が出産する。その直後に生れたばかりの赤子を何者かにさらわれる。国際的な乳幼児売買の組織によって。

◆アルゼンチン

1)Sebastian Borensztein(セバスティアン・ボレステイン/1963.4.22-)

①「明日に向って笑え!」(2019年)
こんな実現不可能な金儲けの冒険も面白い。アルゼンチンで大ヒットしたのもむべなるかな。

2)Gaston Duprat(ガストン・ドゥプラット/1969.12.8-)+ Mariano Cohn(マリアノ・コーン/1975.12.1-)
 
兄弟とか二人で映画を監督するのは時々ある。アメリカのコーエン兄弟とか。二人でもう一本撮っているようだが、未見。

① 「ル・コルビュジェの家」(2009年)
 近代建築の祖、スイス生まれのル・コルビュジェの設計した家に住む州都ラ・プラタのデザイナーと向かの粗野な男とのいさかいをユーモアこめて描く。「隣人は、選べない!」と、けだし名言だ。大成建設が協賛している。

② 「笑う故郷」(2016年)
スペインに拠点を置くアルゼンチン出身のノーベル賞作家が40年ぶりに帰郷する。町は歓迎の行事をしかけ、初恋の人との再会、故郷の住人との悲喜劇が展開する。「まったく人間って奴は」というセリフ通りに話が進む。

3)Luis Ortega(ルイス・オルテガ/1980.7.12-)

①「永遠にぼくのもの」(2018年)
1971年にアルゼンチンで12人以上を連続殺人する事件が起きた。犯人は2人の少年だった。これをモデルにしている。主人公の一人を演じたロレンソ・フェロはルキノ・ビスコンティ監督の「ベニスに死す」の美少年・ビョルン・アンドレセンを見た時の衝撃だった。スペインの売れっ子監督ペドロアドモドバルが製作に加わっている。道理で、アルモドバルの匂いがすると思った。アニマルズの「朝日のあたる家」が効果的に流れた。ところで、俳優の面白さに取り付かれたら止められないと言う。自分と違う人物を演じるのだから、そうかも知れない。ごく普通の少年が、人殺しを演ずるのだから。それによってお金が稼げる。
ルイス・オルテガはどんな経歴で他にどんな映画を撮っているかを知りたくてネットにアプローチしたが、まったく不明だった。

◆ブラジル

1)Glauber Rocha(クラウベル・ローシャ/1938.3.14~1981.8.22)

 ルイス・ブニュエル賞ほかたくさんの賞を引っさらった監督。ブラジル映画を牽制し、「シネマ・ノーヴォ(新しい映画)」と呼ばれた。日本未公開作品を含めた5作品を収めた「傑作シリーズDVD-BOX」が出ている。買って未見の4作品を観たいものだ。

2)「アントニオ・ダス・モルテス」(1969年)

映画のタイトルは領主に歯向かう山賊たちを討伐するために雇われた殺し屋の名前。ところが、残虐非道な支配者を目の当たりにして農民側につく。

3)Héctor Babenco(ヘクトール・バベンコ/1946.2.7-2016.7.13)
ベンコ/1946.2.7-)*生れはアルゼンチン・ブエノスアイレス。

下記2作品の他に未見の4作品がある。
① 「ピショット」(1980年)
 ブラジルの10歳の孤児ピショットたちは貧困の中を生きている。

② 「蜘蛛女のキス」(1985年)
 アルゼンチンの作家マヌエル・プイグの小説が原作。南米のとある刑務所に政治犯と同性愛者が同じ房に収監されている。同性愛者は映画が好きで、政治犯に映画の話をするがうんざり。同性愛者をウィリアム・ハートが演じアカデミー主演男優処ほか数々の賞をさらった。

4)Fernando Meirelles(フェルナンド・メイレレス/1955.11.-)

2016年、リオデジャネイロオリンピックの開会式の演出を担当した。

①「シティ・オブ・ゴッド」(2002年)
 ブラジルの、リオデジャネイロ郊外をアジトとする少年ギャングたち。それでも夢を持ち逞しく生きている。

②「ナイロビの蜂」(2005年)
 ジョン・ル・カレの小説を映画化。舞台はケニアのナイロビ。ガーデニングが趣味の英国の妻が謎の死を遂げる。夫がその謎を追求していく。原題は“The Constant Gardener”

5)Walter Salles(ウォルター・サレス/1956.4.12-)

① 「セントラル・ステーション」(1998年)
 心温まる物語。リオデジャネイロ中央駅で代書屋を営む中年女性のところへ、父親探しの少年と母がやってきた。ところが母が交通事故で急死。一人残された少年と代書屋の話が進む。

② 「ビハインド・ザ・サン」(2001年)
原作があり、遠く離れたアルバニアの作家イスマイル・カダレの小説。ブラジル東北部の砂地に住む2つの家族の壮絶な争い。人間から争いはなくならない。

③「モーターサイクル・ダイアリーズ」(2004年)
これは日本でもヒットしたのでご存知の方も多くいらっしゃるだろう。チェ・ゲバラの少年時代、親友と2人オートバイで南米大陸横断の旅に出て、見聞を広め、後、革命家となる。ゲバラ役のガエル・ガルシア・ベルナルが良かった。アカデミー賞ほか。

③ 「オン・ザ・ロード」(2012年)
ビート・ジェネレーションを代表するジャック・ケルアックの自伝的な小説をもとにしている。型破りな友人とその美しい妻の3人で広大なアメリカ大陸を対して、人生を考える。僕はこうしたロードムービーが大好きである。

6)Ana Luiza Azevedo(アナ・ルイーザ・アゼベード/1959.11.24-)

① 「ぶあいそうな手紙」(2019年)
 独居老人にウルグアイ時代の友人の妻から一通の手紙が届く。老人は視力も衰え大好きな読書もままならない。そこに偶然知り合った娘に手紙を読んでもらい、二人の交流が始まるアットホームな物語。

7)Kleber Mendonca Filho(クレベール・メンドンサ・フィリオ)+Juliano
Dornelles(ジュリアノ・ドネルス)

① 「バクラウ 地図から消された村」(2019年)
 村の長老・老婆が亡くなった。代わりに村の娘がバクラウに戻ってきてから、不可解な出来事が続けて起る。まず、インターネットの地図から村が消え、正体不明の飛行物体が現れる。おどろおどろしい作品である。

7)Alvaro J. Covacevich(アルヴァロ・コヴァセヴィッチ)

① 「アンデスの聖餐」(1975年)

アンデス山脈で飛行機が墜落し、16人が死んだ人肉を食べて生き残ったドキュメンタリー。なお、この事故はアメリカの監督によって劇映画化されている、「生きてこそ」。

8)Gustavo Fernandez(グスタヴォ・フェルナンデス)

① 「奇跡の人 ホセ・アリゴー」(2022年)
  2022年公開の一番ホットな作品である。ブラジルに実在した心霊手術師の伝記映画。映画が終わってクレジットの横に実在のアリゴーが写された。

◆チリ

1) Alexandro Jodorowsky(アレハンドロ・ホドロフスキー/1929.2.7-)。

ホドロフスキーの名前だけは知っていた。その作品をなかなか見られなかった。幸運にも、最近3作品を観ることが出来た。

① 「エル・トポ」(1970年)
 製作40周年デジタルリマスター版で現在に蘇って僕にとっての幻の作品を観ることが出来た。あの砂漠を馬に乗って傘をさした帽子のガンマンとその後ろに裸の同じく帽子を被った男の子のカットは頭に焼き付いていた。

② 「リアリティのダンス」(2013年)
 同名の自伝の映画化。1920年代の軍事政権下にあった母国チリの田舎町が舞台。権威的な父親、息子を自身の生まれ変わりだと信じるオペラ歌手の母親の下で暮らす。母親のセリフがオペラなのには驚いた。青年時代を息子が演じ、大人役を本人が演じている。

③ 「エンドレス・ポエトリー」(2016年)
 上記の続編で、故郷から首都サンティアゴに移住した一家が描かれる。若き詩人やアーティストとの出会いによって成長する姿が描かれる。二人の息子が出演している。

2)Patricio Guzman(パトリシオ・グスマン/1941.8.11-)
 
ドキュメンタリー作家で寡作、まだ2本しか撮っていない

① 「光のノスタルジア」(2010年)
 チリのアタカマ砂漠には世界中から天文学者が集まる。一方、この砂漠で行方不明となった肉親の遺骨を探している人々がいる。壮大な宇宙と砂漠の映像。

② 「真珠のボタン」(2015年)
 チリ南部の西パタゴニアの海底から真珠のボタンが発見された。それは、先住民を虐待し、またピノチェット独裁政権下で政治犯として海に沈められた犠牲者たちの服のボタンであった。歴史の暗部に光を当てる。

◆スペイン *生年の順とした

1)Luis Buñuel(ルイス・ブニュエル/1900年2月22日 – 1983年7月29日)
 
言わずと知れたスペイン出身で、のちにメキシコに亡命し、帰化した監督である。監督した作品の多くが物議をかもした。ブルジョワジーを茶化したり、自分の思うままに作品を発表した。僕は生れていない1927年にサルバドール・ダリと2人で監督した短編「アンダルシアの犬」を観ていらい、この監督に注目し代表作といわれるものはほぼ観ている。劇映画だけでなく「糧なき土地」というドキュメンタリーもある。多作家でざっと数えて30作品、また各種の賞も数え切れないほどである。

2)Carlos Saura(カウロス・サウラ/1932年1月4日 – )

僕の頭の中では、サウラといえばフラメンコ、フラメンコと言えばサウラと結びつく。他の作品を撮っているのに、である。フラメンコ三部作「血の婚礼」(1981年)、「カルメン」(1983年)、「恋は魔術師」(1986年)がよほど印象的だったせいである。日本未公開も含めて多作家である。各種の映画賞も数え切れないほど受賞している。また、スペインを代表する監督でもあった。1980年、第一回スペイン映画国民賞、1992年のバルセロナオリンピックでは公式映像ディレクター。観た他の作品。

①狩り(1965年)
 こんな古いサウラの作品を観ていた。スペイン内戦終結後の暑い日に3人の男が兎狩り。お金の話になってもめごとに。

②カラスの飼育(1975年)
決してカラスを飼育するドキュメンタリー映画ではなく、れっきとした劇映画。マドリッドの中心にある住宅地の古い家に、11歳、9歳と5歳の姉妹が両親と半身不随の祖母と召使と住んでいる。母と父は諍いが絶えず、母が病に倒れ亡くなり、父も突然この世を去る。残された3姉妹は叔母の家に引き取られていく。叔母では母の役目はできない。ビクトル・エリセでおなじみのアナ・トレントが9歳役で、母親役にチャップリンの娘・ジェラルディン・チャップリンが出ている。

③ エル・ドラド(1987年)
  黄金伝説のエル・ドラドを描く史劇。イタリアの名優オメロ・アントヌッティやフランスのランベール・ウィルソンなどが出演。スペイン史上最高の製作費をかけたと言われた。

3)Victor Erice(ビクトル・エリセ/1940.6.30-)
  
監督デビューしてからたったの3作品、寡作である。他人事ながら生活はどうしているのだろうと気になるところ。映画作りは余技だったのか。

①「ミツバチのささやき」(1973年)これが監督第一作。
子役のアナ・トレントの黒い瞳に吸い寄せられるようだった。この作品を観て、いっぺんに監督が好きになった。余計なことだが、僕と同じ同年代の1940年生まれだったことも影響している。なお、アナ・トレントはその後も映画女優として活躍している。「カラスの飼育」、「ブーリン家の姉妹」などに出ている。

②「エル・スール」(1983年)
  スペインの内戦を下敷きに、15歳の少女と父の思い出が静かに語られる。父親をイタリアの名優で僕の好きなオメロ・アンドヌッティが演じた。

③「マルメロの陽光」(1992年)
  実在の画家・アントニオ・ロペスが柑橘類のマルメロに向かって筆をとるドキュメンタリー風の作品

④ 「ポルトガル、ここに誕生す~ギラマインイス歴史地区」(2012年)
 ドキュメンタリーのようなタイトルだが、そうではない。多くの歴史的建造物が残るポルトガルの古都ギマランイスを題材に、ヨーロッパ映画界を代表する4人の名匠、フィンランドのアキ・カウリス、ポルトガルのペドロ・コスタ、マノエル・オリベイラ、とビクトル・エリセが競作したオムニバス作品。エリセは閉鎖された紡績工場が題材の「割れたガラス」。

4)Bigas Luna(ビガス・ルナ/1946年3月19日 – 2013年4月6日)
 生涯に六作発表している。僕の観た作品。

①ハモンハモン(1992)
 スペインの田舎町を舞台に男女6人が繰り広げる恋愛模様。今やスペインを代表する女優となったペネロペ・クルスのデビュー作、また後にクルスのパートナーとなるハビエル・バンデムも出演している。スペインのサンチャゴコンポステラを歩いた時、居酒屋で生ハムを食べた。そのスペイン語がハモンだった。忘れられないスペイン語になった。第49回ヴェネツィア国際映画祭で銀獅子賞。

②  おっぱいとお月さん(1994)
  大人のファンタジーとでも言おうか。監督が自身の幼少期の記憶を基に、美しいおっぱいに魅せられた少年の心情をファンタスティックに描いている。豊かなおっぱいの女優をフランスのマチルダ・メイが演じている。また、当時実生活でもパートナーだったジェラール・ダルモンが夫役を演じている。この映画のもう一つの見世物はカタルーニャ地方の世界無形文化遺産となっている人間の塔。少年がどうしてもトップまで登れないが、最後にきれいなおっぱいを見て、見事、成功した。1994年・第51回ベネチア国際映画祭で脚本賞を受賞。

5)Jose Luis Cuerda(ホセ・ルイス・クエルダ/1947年2月18日-2020年 2月4日)
 生涯に5作品しか撮っていない寡作家。観た作品

① にぎやかな森(1987年)
 ウェンセスラオ・フェルナンデス・フロレースの原作。ガルシア地方のセセブレの奥深い森の中に集う人々の織り成す様々な物語を描く。

② 蝶の舌(1999年)
  スペイン内戦直前を背景に少年と老教師の交流を描いている。1999年スペイン・アカデミー〈ゴヤ〉賞脚色賞を受賞。

6)Pedro Almodóvar Caballero( ペドロ・アルモドバル/1949年9月25日 -)

 調べると変わった経歴の持ち主だ。8歳のとき、両親から司祭になることを期待され、寄宿学校に送られた。そこで初めて映画に触れた。しかし、両親の希望に反し、映画監督になる夢を持つようになる。以後、紆余曲折の末、22歳の時、8ミリカメラを買って、短編映画を撮ったのが初めて。1980年代からほぼ1年に1作のペースで矢継ぎ早に作品を発表。ハリウッドにも進出した。現在活躍中のスペインの監督では、多作家で2021年までに24作品を発表。独特なストーリーと世界観、強烈な色彩感覚にすぐれている。作品を出すたびに世界から注目された。1988年の「神経衰弱ぎりぎりの女たち」で世界に知られるようになった。

2022年同時に封切られた2本「ヒューマン・ボイス」(2020年)、「パラレル・マザーズ」(2021年)があり、「ヒューマン・ボイス」を面白そうなので何の予備知識もなく久しぶりに彼の作品を観た。期待に反し、30分しかなく、主人公のティルダ・スウィントンの独白であった。ファッションには見るものがあったが、しょせん筋とは関係ない。従って「パラレル・マザーズ」はパス。「天才たちの頭の中へ 世界を面白くする107のヒント」(2019年)というドキュメンタリーも撮っている。何の芸術でもそうであるが、自分に合う作品とそうでないのがある。僕にとってアルモドバルは後者である。

◆ポルトガル

1)Manoel de Oliveira(マノエル・ド・オリヴェイラ/1908.12.11-2015.4.2)*106歳で没
数年前に亡くなったが、黒沢明と並び世界最高齢の映画監督であった。もともとは実業家だった。60歳を過ぎてから映画界に進出。多作家であるが、僕の観たのは以下の作品。

① 「アブラハム溪谷」(1993年)
 フローベールの小説「ボヴァリー夫人」を現代ポルトガルに置き換えてアグシティナ・ベッサ=ルイーシュの小説の映画化。ドウロ河を舞台にしている。3時間を越える長尺。

② 階段通りの人々(1994年)
 高齢になってからも一年に一作のペースで作品を撮り続けたオリヴェイラ。この作品は階段通りの町、リスボンを舞台にした群像劇。僕は実際にリスボンの街を歩いたことがある。

③ 「メフィストの誘い」(1996年)
 ②のアグシティナ・ベッサ=ルイーシュが原案のゲーテの詩劇「ファウスト」から着想した物語だが、僕には複雑で消化不良だった。カトリーヌ・ドヌーブとアメリカの性格俳優ジョン・マルコヴィッチが出演。

④ 「クレーヴの奥方」(1999年)
 ラファイエット夫人による17世紀のフランス古典を現代の社交界を舞台にした文芸恋愛ドラマ。主役のカトリーヌをマルチェロ・マストロヤンニとカトリーヌ・ドヌーヴの間に生まれたキアラ・マストロヤンニが演じたことでも話題になった。

⑤ 「コロンブス 永遠の海」(2007年)
 イタリア生まれの航海者コロンブスは実はポルトガル人だったということを研究している研究者とその妻の半世紀を追った物語。オリヴェイラとその妻が夫婦役で出演。

⑥ 「アンジェラの微笑み」(2010年)
 若くして亡くなった娘の写真を撮ることになった写真家の前に娘が微笑みかける幻想的なオリヴェイラ監督101歳の作品。

2) Paulo Soares da Rocha(パウロ・ローシャ/1935.12.22~2012.12.29)

①「恋の浮島」(1982年)
 日本を愛し、徳島に住んだポルトガルの文豪で日本の女性と結婚したヴェンセスラウ・デ・モラエスの伝記映画。日本人が製作に関わっている。

3)Pedro Costa(ペドロ・コスタ/1959.12.30-)
 1960年6月に東京造形大学の客員教授に就任。

①「ポルトガル、ここに誕生す~ギラマインイス歴史地区」
 スペインのビクトル・エリセら4人とのオムニバスで作品で、「スウィート・エクソシスト」を監督。他の作品は未見。

4) Miguel Gomes(ミゲル・ゴメス/1972-)

 ①「熱波」(2012)
 アフリカが出てくることだけを覚えている。チラシの説明に、「それは情熱に突き動かされた、胸を焦がす禁断の物語り」とあった。モノクロ&スタンダードで描かれるメロドラマ。

以  上