ペルーやボリビアの都市からアンデス高地の小さな集落に至るまで、数多くあるカトリック聖堂、ラプラタ平原に聖堂を中心に数千人もの先住民が暮らした都市遺構をともなうミッションの跡などに見られる荘厳な壁画、絵画装飾、祭壇衝立、聖像は、「ペルー副王
領」と呼ばれた植民地時代の優れた文化遺産である。征服と支配というコロニアリズム(植民地主義)の結果として、征服者たちの深い信仰と結びついて造られたこれらのキリスト教美術が、どのように植民地に移植され、先住民たちがそれをどのように受け入れ理解
し、自らの文化を織り込んでいったのか。ペルー、ボリビア、アルゼンチン、パラグアイに遺る数多くのキリスト教美術を考察し、「植民地美術とはそもそも何なのか」を考察した労作である。
美術史学と文化人類学の二人の研究者(福井大学・国立民族学博物館)が、3年間に4カ国、116ヵ所、158の聖堂・遺構を共同調査し、複眼的な思考により考察した。本書は、第1章で征服者の持ち込んだキリスト教美術に先住民社会がどのような反応を見せ、南米植民地美術が成り立ったかを、第2章では支配者が宣教のために持ち込み、先住民がその支配下で生き抜くうえで操作すべき手段という「政治的構築物」でもあった美術に、先住民が制作者として、あるいは寄進者として関与した町の聖堂装飾に現れる図像表象により、「植民地ビジョン」を解明する。第3章ではイエズス会ミッションの遺構事例から、宣教の場において果たしたイメージの役割とそれに対する先住民たちの反応を、植民地においてイメージが果たした機能とともに、聖像崇敬というカトリック文化がシャーマニズムの先行する地域固有の慣行とどのように接合されたのかを論じている。
大部の学際研究書であるが、豊富な写真により分かりやすく、132頁もの巻末資料には地名・人名索引に加えて、本書の対象である4カ国の郡部・辺境を中心にした基本情報が、地図とともに各聖堂・遺構の場所、概要、見どころを詳細に解説していて充実した案内になっている。〔桜井 敏浩〕
(名古屋大学出版会456頁2007年2月6600円+税)
『ラテンアメリカ時報』2007年夏号 No.1379 掲載