『ボーイ・キルズ・マン』 マット・ワイマン 長友恵子訳 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『ボーイ・キルズ・マン』 マット・ワイマン 長友恵子訳 


メデジン市は、一般に暴力が横行し治安が悪いといわれていたコロンビアの中でも、伝説的な首領パブロ・エスコバルをはじめ、麻薬カルテルが猛威を振るった都市として知られている。ラテンアメリカでならごく普通のプロのサッカー選手を夢見る少年たちが、暴力に頼る悪のビジネスを営む大人たちの手先として、現実の過酷な生活状況からの脱出を求めて安易に稼げる殺し屋の道にいとも簡単に入っていく。

貧困、犯罪、テロ、麻薬の世界を少年の目線で語った児童文学であるが、コロンビアのみならずラテンアメリカの多くの国々に共通する“ラ・ビオレンシア(暴力)”と呼ばれる社会の残酷なひずみが横行する世界を、銃を持つことで一人前になったつもりになる少年の心の動きとともに恐ろしいほど淡々と語っている。平和な世界に住み、安全を当然のことと考えている日本人にとっては、ドキュメント以上に衝撃的な物語である。

(鈴木出版277頁2007年5月1600円+税)