いまグローバリゼーションの名の下で、多様な国際的な人・労働力の移動が活発になっているが、本書はその中で日系人に焦点を当て、この移住がアイデンティティにどのような影響を及ぼしてきたかを考察したものである。第1部「トランスナショナル・アイデンティティ」では、米国やカナダの日系移民研究、在日朝鮮人の文学、中国からの帰国者二世の適応等に加え、堀田善衛の『キューバ紀行』に登場する宮城県出身の両親をもつルイス・サトーとの出会いを考察した章がある。
第2部では、移民集住地での行政やNPOの取り組みを通じての「多文化共生」を紹介しているが、オランダのアムステルダム市の事例以外は、東海地方から三重県にかけての日系デカセギ労働者集住地域を中心に、自治体の外国籍住民施策、定住化が進む日系ブラジル人家族の生活史、NPOによるネットワーク形成、ブラジル人学校に通う日系青少年の社会文化的適応と、日本の公立学校における日系南米人の統合、同じく日系南米人の医療問題などを取り上げている。
グローバル化が進むにしたがい、民間レベルでの人の移動とそれにともなう共生について、いろいろな切り口から分析していて実情を知るうえで興味深い。
(明石書店459頁2007年4月5300円+税)