『アドニスの帰還』  安東 能明  | 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『アドニスの帰還』  安東 能明 


多くの日系ブラジル人がいわゆる出稼ぎとして日本に来ているが、その集住地ではさまざまな問題が発生している。ブラジル人専門の人材派遣会社の担当者である片桐エルザは、日本語の能力を見込まれ、警察の通訳もしている。浜松市を思わせる地方都市で起きたコンビニ強盗で逮捕された日系少年の通訳を頼まれたことをきっかけに、彼女の勤め先の会社から金を強奪してブラジルに帰っていた雄鶏と呼ばれる男の再来日を知る。そして彼女がかつてサルバドール市でファベーラ(貧民街)に住み、ストリート・チルドレンにまでなった日々に、警察官が商店主などから金をもらいストリート・チルドレンを“浄化”する死の部隊に仲間を惨殺された過去があったが、そのリーダーだったジト伍長も、ブラジルの犯罪組織からの殺し屋に追われて日系人と結婚したことでこの町に来ているとの噂を聞く。ジト伍長は整形手術で顔も変えていて、特異な入れ墨だけが手がかりだが、後になってそれも消す施術を受けていることが判る。

強盗犯の少年やその恋人、勤め先の社長、ブラジル人の子供たちのために学校を運営する夫婦たちの協力を得ながら、ジト伍長の行方を追うエルザだが、デカセギで貯めた金を持って帰国した直後に一家で惨殺された日系人の事件も関わって、意外に身近なところにジト伍長がおり、また警察の強盗犯の少年の現場検証の無神経なやり方に、日頃味わらされている差別感の鬱積を爆発させたブラジル人の騒動の中で、信頼し交流していた人の素顔が明らかになるというどんでん返しの結末にむかう。

言葉、文化、価値観や発想の異なるブラジル人と周囲の日本人の間の取り持ちをさせられる“担当者”兼司法通訳という立場のエリザを中心に、犯罪サスペンスながら日本でのブラジル人社会の諸相がよく描かれている。

(双葉社354頁2007年9月1800円+税)