20世紀初頭の激動期のメキシコ、ナショナリズムの気運が高まる中で、“メキシコ人類学とメキシコ先住民政策の創始者”と呼ばれるメキシコ人マヌエル・ガミオと、彼の師でありユダヤ系ドイツ人で米国に帰化し“米国の近代人類学の祖”といわれ、黒人やインディアン、東・南欧移民などに対する人種差別が吹き荒れる社会に抵抗したフランツ・ボアズは、人類学研究の拠点を確立するという共通目的により知り合い、142通もの書簡を交わした。
本書は、それら書簡とこの二人に関する文書記録資料(アーカイブ)を基に、ガミオによるメキシコ人類学の組織化、ガミオとボアーズの“nation”概念の比較、ガミオの思想におけるnationと国民芸術創造提言と奨励活動を分析したもので、筆者のお茶ノ水女子大学大学院に提出した博士学位請求論文に加筆修正したものである。
メキシコが進むべき殖産化(国民産業の奨励)の方向や外国資本の扱い、インディオに向けた芸術奨励活動などについて言及した部分(第5章)は興味深い。メキシコにおいて近代国民国家形成においてガミオの果たした役割は、米国人類学とメキシコ人類学との違いを明らかにしたことにあるが、地球規模での普遍的文化を求る方向に向かったボアーズとことなり、あくまで自国の個性を確立し発信しようとしてガミオの態度は、現在全人類がその参与を余儀なくされるかに見えるグローバリゼイションの中で存在し続ける様々な生のありようを再認識させると筆者は結語で述べている。
(新評論400頁2007年2月6000円+税)